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深い眠りの中で、シャルンは目覚めた。
頭上に幾本も青い筋が入った美しい岩が円蓋を作っている。周囲の円弧には黒い人影が灯りを掲げて立ち並ぶ。足元は青く輝く透明な円盤で、その上にシャルンは裸足で立っている。身につけているのは、リュハヤのように『ガーダスの糸』を組み込んで織られたと見えるレースの衣だけ、素肌がちらちらと透けて見える。
ここは、あの空洞だわ。
気が付いて、足元を見下ろすと、透明な円盤の真下に白く凝る何かが渦巻きながら蠢いているのがわかった。
名を呼べ。
命じられて首を振る。
私は存じ上げません。
白い渦はちかちかと瞬きながら、青黒い光を放つ。
お前が与えた。
シシュラグーン、でしょうか。
ばき!
足元に稲妻のような亀裂が走り、水盤の下から眩い光が吹き上がる。
我を解き放て。
成りません。
シャルンはきつく唇を噛み、首を振った。
ならば、なぜ名を与えた。
お帰り頂くためです。
水盤は割れ続ける。その激しい響きに負けまいとシャルンは声を張り上げる。
あなたの『力』は世界を壊します。
シャルン!
悲鳴のような叫びが轟き、水盤は一気に砕けてシャルンの周囲から青い円蓋に向かって吹き上げた。光の刃に引き裂かれるかと思った瞬間、視界の彼方に1人の女性を見つけた。
お母様? いえ、あれは。
真紅のドレス、黒い髪、濃い青の瞳はレダンそっくりで、大輪の花を思わせる姿は、灰色のローブに覆われているが、鮮やかに視界を切り取って。
望みなさい、シャルン。
赤い唇が微笑んだ。
何を望めばいいのだろう。
悩むシャルンを見透かすように女性はローブに包まれた手を砕けた水盤に向けて差し出す。
あなたの望みこそが龍を制御する。
え?
指差す彼方を振り仰ぐと、そこに巨大な顎を持った水色の龍が白く輝く瞳から涙を落としながら見下ろしている。
我が主よ。
名を与えよ。
力を与えよ。
命を与えよ。
それともこのまま、消えてしまえと望まれるか。
今にも崩れそうなほど儚くて弱々しい声に思わず首を振った。両手を差し伸べる。
シシュラグーン。
その豊かな水を持って、この地を潤し、渇きを癒し、人々を治し、新たな命を育みなさい。
私は命じます。
あなたは命の源となりなさい。全ての未来を守るがいい。
ああ。ああ。ああ。
龍は首をあげ、喜ばしげに高く咆哮した。
確かに、確かに、名を受けた。
我が名はシシュラグーン、命の龍!
眩く光り始めた龍にシャルンは顔を背け、その瞬間、先ほどの女性が満足げに側に居る別の女性に微笑みかけるのを見た。灰色ローブの女性より、華奢で優しげな姿の女性が、懐かしそうにシャルンを見る。
シャルン。
柔らかな声が響く、その声は。
お母様……?。
ふいに強い眠気に襲われて、シャルンはそのまま意識を失った。




