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ドン、ドン、ドォオン。
『祈りの館』の中央に引き出された大きな木板を、男達が力強く木槌で打ち鳴らす。
「これより、龍神祭りを執り行う!」
真っ白の衣をつけ、頭に白い頭巾を被ったイルデハヤが両手を上げて宣言した。その隣に、素肌にレースを幾重にも纏ったような妖しげなドレスのリュハヤが並び、今はシャルンと並んだレダンにこれ見よがしに流し目を送ってくる。
けれどもシャルンは、目の前で鍵を開けられ開かれた扉に気持ちを吸い寄せられていた。小さな扉が2つ横並びになっていたから、この前の『祈りの部屋』のように1つ1つが地下洞窟へ降りるのかと思っていたら、2つ繋げて大きな1本の階段通路の扉となっていたのだ。
灰色服の男達が金属の枠に囲まれた灯りを掲げ、先に立って降りて行く。灯りに照らされて、石造りの通路が冷たく光を跳ね返した。足元はうっすらと濡れているようだ。
「どうぞ」
イルデハヤがリュハヤとともに続き、促されてレダンが手を差し伸べ、シャルンを導いてくれる。背後にルッカとガストが従うが、その後ろにも灰色服の男達が続くようだ。
「気をつけて」
「はい」
レダンのしっかりとした掌に支えられていても、石段は滑りそうなほど滑らかだった。何度も何度も人が出入りしていたのだろう、角らしいものもほとんどない。
「…昔からあったものなのかな」
「そうかも知れませんね」
レダンがゆっくりと周囲を見回しながら呟き、シャルンは頷いた。
湿った空気を昨夜レースを縫い付けた灰色のドレスが吸い取って、足元が重く覚束なくなる。 リュハヤが薄物とレースでドレスを仕立てていたのは、このためもあったのかも知れない。
階段は結構長く曲がりくねっていた。緊張しながら降りたので、平らな場所に着いたときはホッとしたが、
「…陛下?」
「…」
立ち止まったレダンが無言で視線で示して、シャルンも息を呑む。
『祈りの館』全域を飲み込むぐらいはあるのではないか。広がった空洞は、今まで見たもののどれより大きく、天井も高い。ぐるりと円弧を描くような岩盤の中央にひたひたと水が揺れる池があり、そこから周囲数本の流れとなって、空洞の片端から小さな穴へ流れ込んでいる。丸い天蓋には点々とミディルン鉱石と思われる煌めきが散りばめられ、まるで天然の劇場だ。
「…地下水流…」
「この真下から流れていたのか」
ガストの声にレダンが応じた。
なるほど、これがエイリカ湖から地下を伝って流れると言う水流の源なのだろう。
しかも、中央の池の水は周囲の明かりに照らされるまでもなく、薄く青く光っている。
「シャルン?」
「…大丈夫です」
そんなつもりはなかったのだが、体が揺れたようだ。レダンが気がかりそうに覗き込み、シャルンは微笑み返す。リュハヤが視界の隅で苛立った表情でこちらを見た気がする。
「猛き光の雄々しき龍」
いきなりイルデハヤの声が響き渡り、シャルンははっとした。
「湖に満ちし炎をもって、我が祝福となし給え!」
池の近くに小さな祭壇のようなものが設えられている。
そこに向かったイルデハヤが再度、同じ文言を口にしながら、両手を高く上げる。その側で、リュハヤがするすると薄物を脱ぎ捨てた。素肌を包むのは複雑な意匠で織り上げられたレースのみ、そのままもう一度、レダンを振り返る。池の薄青い光に照らされた半裸姿は、確かにきらきらと輝くように美しい。




