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これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3 〜花咲姫と奔流王〜  作者: segakiyui
8.竃のダイシャ

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3

 ようやく少し落ち着いたレダンは、それでもシャルンを側に、昨日の話を聞き取った。

「小屋に行く前に細い小道が湖に降りていましてね」

 ガストが考え考え続ける。

「周囲に特に怪しい人影もいなかったんで、道を間違えたふりして降りて見たんです」

 まあ、奥方様にはルッカが居ましたからね。

 じろりと眺めたルッカに肩を竦める。

「ひょっとすると、小舟か何か船着場がないかと思いました」

「船着場、ですか?」

 シャルンの問いに頷く。

「『祈りの館』が寄付だけで賄えないほどの贅沢をしているのはわかりましたから。何をどう作っていたって、それを売り捌く先が必要でしょう。館に表から出入りするのは目立ちすぎる」

「工房の向こうに商人が出入りする道があると聞きました」

「はい、そうですね」

 バラディオスも、レースや何かの動きを気にして入り込んでいましたが。

「バラディオス?」

 訝しげなレダンにガストは答える。

「商人の顔をしてね。イルデハヤ達は気づいていないようですが」

「ハイオルトの貴族までは伝手がなかったんだろう」

 レダンが頷く。

「ただ、その道だけでなく、水路もあるんじゃないかと踏んだんです」

 ガストは空中に輪を描いた。

「エイリカ湖は流れ出る川がないから、水路という発想はしにくいですが、館の裏から出て、対岸に荷物を運べば人の目を誤魔化せる。ハイオルトに抜ける道に出るか、ティベルン川を下れば」

「ダフラムにも行ける」

 レダンは唸った。

「ハイオルト王の時代に『ガーダスの糸』を運び込む道が既にできていたのか」

「ハイオルトから『ガーダスの糸』を運び込み、対岸から船で館の背後につけ、工房でレースに仕上げて、ラルハイド、ダフラムなどへ売り捌く。悪くない商売です」

「で、船はあったのか」

「小道を下ると洞窟につきます。湖の側に幾つかあって、その内の1つに船が入れられてました。軽くて小さなものですが、湖をレースや糸を乗せて渡るのには十分です」

「…ミディルン鉱石は運べないか」

「あの船では無理ですね」

 ガストは首を振った。

「少量ずつしか運べません。ダフラムは期待したかもしれませんが、成り立たなかったでしょう」

「その洞窟は、祈りの部屋が開いている場所とは違うのでしょうか」

「昔はそこにも船を置いていたのかもしれません」

 シャルンの問いに頷く

「だからこそ、鍵を掛けるようになった?」

「ええたぶん、信者が秘密に気づかないように」

 そうして船で、『ガーダスの糸』や『ビンドス』や『レース』が運ばれてきていたのだ。

「私はガスト様が居なくなって、まだ戻らないとバラディオスより聞かされて」

 ルッカが口を開いた。

「任せておけると思いましたし、ガスト様だけでは荷が重いこともあるかと思いまして

 ルッカも、この『祈りの館』には何かがあると踏んでいた。

「私も小道を降りたんですが、入り込んだのはおそらく別の洞窟です」

 ただし、これは祈りの部屋に繋がる洞窟でした。

「よく見ると、洞窟の壁に所々にごく小さなミディルン鉱石がありました」

 シャルンは瞬きした。

「あの洞窟に?」

 ダイシャが龍神祭りの時には開け放つと言っていたのも、そのせいだろうか。

「ダイシャ?」

 レダンがひょいと眉を上げて聞き咎める。

「はい、食事の時にも手伝ってくれていたようです。普段は工房の方にいるようで」

「竃のダイシャです」

 ふいにガストが口を挟んで驚いた。オルガの話はガストにはまだ話し切っていないはずだ。

「あいつか」

 なぜかレダンも目を光らせる。

「じゃあ……馬車の細工も」

「たぶん、奴でしょうね。しばらく姿を消していたと思っていたら、こんな所に居たとはね。奥方様の隣に居た時にはぎょっとしましたよ」

「あの……失礼ですが、あの者を皆様はご存知なのですか」

「…」

 ちらりとガストはレダンに視線を投げる。レダンは1つ頷いて、

「竃のダイシャ。ダフラムの、なんて言うかな、扇動屋、か?」

「まあ近いですね」

「扇動屋…?」

 シャルンの脳裏に洞窟の暗闇に投げる遠い視線が蘇った。

「……昔から、ここを知っているような様子でしたわ」

「ありえなくもないな」

 レダンが唸る。

「ダフラムの命令を受けて、地方の暴動の火付けをしたり、揉め事を大きくしたりする役割をしているらしい。だから、竃の、と呼ばれてる」

「『祈りの館』の前も修行をするような者は居たから、洞窟へ繋がっている部屋はその頃のものかもしれませんね。逃げ隠れしていて、洞窟から湖へ出て対岸へ渡り、ティベルン川を下ってダフラムに流れ着いた」

 ガストのことばにレダンが憂えた瞳になった。

「とすれば、奴はもともとカースウェルに居たと言うことになる。俺の施政が『竃のダイシャ』を生んだとも言える」

「そんな人には見えませんでした」

 シャルンはたじろぐ。

「祈りのことばもきちんと覚えて」

「祈り?」

 レダンに問いに答える。

「『私の欲望を流して下さい。私の祈りを運んで下さい。私の願いを燃やして下さい』、そう祈るのだと」

「エイリカ湖に流され、ティベルン川に運ばれ、ダフラムで燃やす術を覚える、か」

 レダンが低く呟く。

「ガストとルッカの話を聞くのに、持ってきてくれた敷物も、出してくれた飲み物も行き届いて居ました」

「その配慮の後ろで、聞き耳を立て、奥方様に近づき、何かを知ろうとしていたのかも知れない」

 ガストが冷徹に断じる。

「奥方様、あれは決して安心できる男ではありませんよ」


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