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これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3 〜花咲姫と奔流王〜  作者: segakiyui
8.竃のダイシャ

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2

「どういうことですか!」

 レダンの部屋に入ると、ルッカはいきなり大声で詰った。

「何をなさってるんですか!」

「ああ、すまん、けれど俺も我慢の限界でな」

「にしても一応私も女なんですからね!」

 ルッカは怒らないと言わなかったかしら。

 シャルンは思いつつ、それでも部屋の真ん中で素っ裸になって身体中を擦っているレダンに呆気にとられている。

「あの、陛下」

「ん?」

「もし、湯浴みされるのなら、私一旦戻りまして」

「うわ、駄目だそれは不可だ許可せんぞ!」

「きゃ」

 それでも奥を向いていたレダンがいきなり振り向いて走って来ようとしたから、シャルンは小さく声を上げ、ルッカは逆に奥へと走り出した。

「えええい!」「がっ!」「ルッカ!」

 耐えに耐えかねたのだろう、ルッカが見事な足払い一閃、思いも掛けない攻撃にレダンも必死に避けたものの堪えきれず、ひっくり返る。

「陛下!」

「なんてもんを晒すんですかあなた様は!」

「いたた…すげえな、一撃必殺……」

 慌てて駆け寄るシャルン、踏ん反り返って説教口調になるルッカ、床に腰から落ちて呻くレダン、そこへ隣室の扉が開いて入ってきたガストの淡々とした声が渡る。

「で、これはどういう修羅場ですか」

 とりあえず、そいつを隠しますか。

 むっつりしたガストの手からシーツが剥がれて投げられた。


「陛下……」

「ううう」

「……あの、これではお話も何も」

「……嫌だ」

「もうそのまま話してしまうのはどうでしょうか」

 死んだ目をしてガストが溜息をつく。

「まあ巨大な犬か何かがくっついていると思えば良いかも知れませんね」

 同じように表情の欠けた顔でルッカが冷ややかに言い渡す。

「けれども、その」

 シャルンは引きつりながら、ベッドの上でシーツを巻きつけた半裸のまま、背中からしっかり自分を抱え込んで肩に顎を埋めているレダンを気にした。

「私、湯浴みもしておらず汗もかいておりますし、あまり綺麗な状態では」

「良い匂いだ」

 もごもごとレダンは呟く。

「ほん……っと、良い匂いで困る」

「……」

 4人の間に沈黙が漂う。

「一体どうなさったのですか?」

 気を取り直してシャルンは尋ねた。

 もっとも身動きできないほどしがみつかれているから、尋ねた相手はレダンだが、目の前のガストに問う形になってしまう。

「…はあああ」

 深い溜息が肩に漏れた。ぎゅううう、と力を入れられて息苦しい。

「も…やだ」

「…は?」

 まるで小さな子どものような声が響いて、シャルンは瞬きした。

「吐き気がする息ができない目眩がするムカつく殴り倒したい突き飛ばして蹴倒して踏んづけてとにかく遠ざけて顔も見たくない」

「……あの」

 一気に吐き出された声にシャルンはなお戸惑う。唸り声が応じる。

「触られると皮膚が腐る声を聞くと耳が詰まる掴まれるともう駄目だ殺したくなるどうしようシャルン俺もうやばいかも」

「レダン」

 ガストが遮った。

「ガキですか」

「ガキでいい」

「姫様が頑張って下さってるのを無駄にすると聞こえましたが?」

 ちゃり、と見えない剣が引き抜かれたような声がした。

「あなた様の頑張りなんて姫様の前ではゴミですからね塵ですよ砂粒以下」

 ルッカの罵倒が続いた。

「あの馬鹿女に何を言われておられるのか再現しましょうか、その緩い頭に届くまで?」

 ぎゅううううううう。

「へ、いか」

 いやそれはちょっと本当に苦しいから、とシャルンが思わず息を喘がせると、ひゅと小さく息を引いて、レダンが唸った。

「殺しちゃダメかな」

「駄目です」

 間髪入れずに応じたガストがもう一度溜息をつく。

「奥方様を十分吸収して話をするべきかと思ったんですが」

「ぜんっ……ぜんっ足りえねえから」

「…陛下……あの、……お寂しかったんですか?」

 シャルンがそっと尋ねると、ふんわりと力が緩んだ。すりすりと肩に頭が擦り付けられる。

「……あなたが居てくれて良かった」

「はい?」

「でなけりゃ俺は血飛沫王って呼ばれてるよ」

 ちゅ。

「っっ」

 いきなり肩に吸い付かれてシャルンはびっくりする。前に居たガストとルッカが慌てて視線を反らせてくれたが、それでも恥ずかしくて見る見る顔が熱くなった。

「あの、陛下」

「偉いだろ頑張ってるだろ、こんなにあなたが欲しくても我慢してるんだぞ褒めてくれ」

「あの、えーと、ですね」

 一体何をどう褒めろと。

 けれどもまたぐっと寄せられた体の熱さは、十分に意図を伝えている。

 欲しい欲しいあなたが欲しい、できればここで今すぐ全部。

 リュハヤに散々嘲られ、気にはしていないつもりだった心、それでもどこかチクチク傷んでいた気持ちが、熱い潤いに満たされていく。

 ドレスもあしらいも飾りものも、どんなに汚れていても、そんなものとは無関係に、レダンはシャルンを欲してくれている、それが寄せられた体の早い鼓動から伝わってくる。

「レダン……ありがとうございます」

「…ん」

「ごめんなさい、お1人にして」

「…ん」

「…あの……偉かったですね」

 すりすりとまた甘えられる。

「よく頑張りましたね」

「ん…ん」

 ほう、と吐かれた息が甘い気配で緩んでいる。つい、その飢えを満たしてあげたくなって、シャルンは囁いた。

「戻ったら、ちゃんと差し上げますね」

「っっ」「姫様っ」

 目の前の2人が椅子を鳴らして体を引き、うろたえる。

「あ…」

 シャルンもようやく何を口走ったか気がついて、慌てて熱くなった顔を伏せた。

「………くくっ」

 背中でレダンが低く笑う。

「……無敵、だよなあ…」

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