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「シャル…」
そんなことはない、と強がろうとした唇に、小さくキスされて顔を歪めた。息苦しさと鼓動に叩きのめされながら、息を喘がせる。
「…陛下、もう少し、私にお任せ下さい」
「…ふ…」
「リュハヤ様を呼んで参ります」
「…いや…だ」
冗談じゃなく、身体中が泡立った。
もう一度、あの訳の分からぬ女が侍ると思うだけで吐き気がする。しかもまだ完全に身動き取れない状態で、それこそ押さえつけられてキスなどされたら、レダンは確実にキレる。キレるだけで済めばいいが、もし万が一、さらに何かを盛られて、リュハヤと一線を越えるような羽目になったら。
「だめだ…っ…発狂するぞ…」
「…大丈夫です、レダン……その……身動きは、できないのでしょう?」
「シャル…っ」
大丈夫じゃない、シャルンはまだ知らないのだきっと、男側から何とかしなくとも、女側からなんとかする方法など無数にあって、いやまあそれをなぜレダンが知っているのかと突っ込まれると、それはそれで非常に困るのだが、こんな中途半端にシャルンに煽られた状態で放置されては、それこそ暴れ回って虐殺に至るかも知れない。
焦るレダンにシャルンは静かに囁く。
「…お考え下さい、今動けるのは私だけです」
「…う…」
確かにそうだ、ガストとルッカはバラディオスが探している。龍神祭りは2日後だが、だからと言ってそれまで何も仕掛けてこないとも限らない。レダンを軟禁しようとしたと言っても証拠がない。このまま『祈りの館』から戻っても龍神教は追い詰められない。シャルンが受け取ったレースの花も、あれやこれやと言って取り上げられてしまえば無意味、龍神教の拡大に恐れをなした国王が権力を持って弾圧したと言われかねない。
考えてみれば、レダンの読みが甘かった。もっと人数を引き連れて、警戒を満たしてくるべきだった。まさか、これほどなり振り構わぬ手を打ってくるとは考えていなかった。
「…私、少し思うところがあります。もしかしたら、龍神教のことがもっとわかるかも知れません。それを確かめに行きたいのです……でも…」
「……ああ……なるほど」
侍女の居ない王妃が単独で『祈りの館』の中をうろうろするわけには行かないだろう。ましてや、レダンがこのような状態では王妃が離れるはずもない。
けれどももし、レダンがリュハヤを望むのなら? 傷心の王妃が多少彷徨おうと閉じこもろうと、イルデハヤもリュハヤも気に留めないだろう、むしろ計画は順調だと思うかも知れない。
「でも…いや…だ…」
「レダン」
「今夜ぐらい……一緒に…居てくれても……っ」
「…レダン」
シャルンが不意に困った顔になった。暑さと息苦しさで霞む視界で微笑む。
「…頑張って頂けませんか……明日には戻るとお約束します」
「……キス…」
レダンは呻いた。
「キス…くれ」
口を開いて待つ。一瞬の間が空き、静かに近づいてきた気配が甘くて濡れた感触を落としてくれる。甘露と言うか、天上の蜜と言うか。このまま死んじまえないかな、と一瞬本気で思った。気持ち良すぎて壊れそうな気がする。遊び回っていた頃にも、これほどの快感があったかどうか。
「…もっと」
もっと。もっと。もっと。
ねだって望んで貪っていると、頬を冷たい掌で包まれて、我に返って目を開いた。
「私、参ります」
「……できるだけ早く……戻ってくれ…」
「畏まりました」
シャルンが目を細めて笑い、その視線にぞくぞくする自分に呆れ果てながら、レダンは顔を覆った。暴走しかけている体を必死に抑え込む。
「頼む…」




