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「…言ってくれるね」
殺しても死なないとは。
レダンはシャルンの話に嘆息する。
「まあ、その通りだったが」
「…陛下は」
話し終わったシャルンは、少し首を傾げた。
「まだお身体がお辛いのではありませんか?」
「…どうして?」
リュハヤとの情事を疑われるのは心外だが、レグワで未だ身動き取れないのも情けない。それをシャルンに知られるのも悔しい、せいぜい声が出ないぐらいだと思って欲しいと思って振る舞っていた。シャルンを抱いた腕にも十分に力を込めているし、話を聞く間もぼうっとなどしていなかったはずだ。
「お胸が…凄く早く打っております」
「…」
静かに胸に当てられた指に探られて微妙な場所がずきりとした。
「それはあなたを抱いているからだよ」
ちゅ、と髪にキスを贈る。柔らかな甘い香りに体の奥が疼く。
「言っただろう、催淫剤を飲まされたと」
今もあなたを抱きたくてたまらないのを堪えているんだ、わかるだろう。
「…いえ」
妖しげに囁いたが、シャルンは生真面目な顔のまま、首を振った。
「私も……媚薬…を飲んだことがあります」
「……ああ、そうだったね」
茜色の要塞でレダンの勘違いを憤ったシャルンが媚薬を一気飲みした一件を思い出した。
「体の力が入らなくて、けれどとにかくお側に居たくて、苦しくて大変でした」
「うん」
「……毒、は、併用するなら、その効果を増すように使われるものではありませんか?」
「……うん」
「媚薬は…」
シャルンが薄赤くなる。
「床を共にするためのものです。女性ならば、力が入らなければ、殿方に思うように抱かれることとなるので宜しいのでしょうが」
ますます赤くなる。
「男性ならば、逆の方が宜しいはず……なのに、陛下は身動きするのがお辛そうならば………この毒は」
真っ赤になったままレダンを見つめた。
「陛下の自由を奪い、意志を無くし、支配しようと与えられたもの…これは」
「ああ、なるほど……反逆の意志ありと言う読みか」
「はい」
おそらくリュハヤは、レグワに催淫剤と麻痺薬を盛ることでレダンと寝たと言い張り、すぐに回復できないレダンをいいことにシャルンを追い出し、『祈りの館』にレダンを軟禁するつもりだったのだろう。実際の行為とは関係なく、ただ国王が龍神教の巫女に魅かれ『祈りの館』への滞在を決めたと言う建前が欲しかったのだ。
だが予想に反して、レダンは意識を回復したし、この一件だけで、レダンは『祈りの館』と龍神教に対して、国家転覆を図る目的があったと詰められる。ビンドスの違法な設置や、『ガーダスの糸』を使ったレースの密売による荒稼ぎなどとは全く違う段階で、龍神教を糾弾できる。
「…となると、より派手な動きを仕掛けてくるか」
「…はい」
もうレダンを『祈りの館』から出すわけにはいかない。しかし、救援を呼ばれてはならない。ガストを抑え、ルッカを捉えれば、レダンとシャルンは『祈りの館』に飲み込まれたままだ。帰られたが、途中で行方不明になったと言い抜けする道もまだ残されている。
「…バラディオスが来てくれていたのは幸運だったが、動きが取れないな」
「…そればかりではなく」
「ん?」
優しく胸を押されてレダンは揺れた。思いもかけないシャルンの動きに枕を崩して倒れ込む体が止められない。膝から滑り降りながら、シャルンが静かに覗き込むのを目を見張って見上げる。
「…陛下…まだご無理をされてはなりません」
胸に当てられた手が震えているのを感じた。
「体の動きを止める毒、声さえ出せなくなる毒を含まれているのに、これほど鼓動が早いのは、陛下が必死に起きてくださろうとされているからです」
私は侍女の1人から聞いたことがあります。
痛ましげに目を潤ませたシャルンが、小さく微笑む。
「相反する薬を同時に飲んだ体は、互いの作用に引き裂かれるように働き、大きな負担をかけるのだと。私を案じ、国を案じ、大丈夫だと見せて下さろうとしている無理の結果が、これほど早い鼓動なのでしょう?」




