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今度の焼き菓子は日持ちがするように固めに焼いたもので、お茶に含ませつつ食べるのだと教え、オルガはこれも1つ、じっくり楽しみながら食べた。
「お話とはなんでしょう」
「先ほどの話を聞いていると、あなた方のレースは、王宮を飾るのに使われているのね?」
「はい。イルデハヤ様が月に一巻きは差し上げねばならないと仰っていました。龍神教を認め、この館を召し上げない代わりに支払っているのですよね? 一巻き以上できた時は、食べ物に変えることができるけれど、王宮の近くの街は値が高いのでなかなか買えないとも知っています」
オルガの口調は滑らかになった。散々聞かされた文言なのだろう。
「あ、あたし達、糸繰り場の近くには菜園を作ってるんです。出来不出来はあるけれど、まあ何とか食べれます。菜園のものは街で果物と取り替えるんですね。王族の方は果物を欠かさないから、レースと果物、これは絶対差し上げるんだって、あたし達、頑張ってます」
だから、とオルガはちょっとはにかんだ。
「今度、王様と王妃様が来られて、皆凄く嬉しくて、きっとレースを褒めて下さるんだって、でも館からお出にならないと聞いて、ほんとがっかりしちまって、あ、でも、あたし達のところ汚いし、そりゃあいらしていただけないよねえって笑ってて、ほんとバカですね、けど皆、レースを織るのも、糸繰るのも好きなもんばっかだから、まあ賑やかですよ、あ、あああ、どうしよう! 王妃様来て頂けるんだ、皆驚きますよ、喜ぶなあ!」
お茶とお菓子で元気が出たのだろう、オルガは手を振り回しながら話した。それから不意に、凝視しているシャルンに我に返ったように顔を赤らめ、急いで椅子に畏まる。
「そうすると、今日、あなたは特別に給仕を命じられたのね?」
「はい、びっくりしました。給仕なんてやったことないんで」
「普段は、どちらで働いているの?」
「糸繰り場です。レース工房にも時々行きます」
シャルンは考える。
普段したことのない仕事を急遽命じた。失敗することもあるだろう。シャルンが戸惑い、レダンが咎めることもあったかも知れない。
とすれば、今回リュハヤはシャルンのレースのハンカチを咎めたが、別の振る舞いなどで咎めることも考えていたのかも知れない。
「他の人もそうかしら」
「…わかりません」
オルガは首を傾げる。
「ああ、ただ、竃のところにいるダイシャも来てました。館に入るのは初めてかも知れません」
館に入ったことのない者まで、あの場に呼ばれていたのか。
もしそう言うことならば、あの場にあちらこちらの者を集めていたのは、シャルンかレダンの不手際を周囲に知らしめる意図もあったのかも知れない。
「…困ったこと」
「姫様…」
小さな溜息を心配したのか、ルッカが不安げな声を出す。
「…考えても仕方がないわね、オルガ」
「はいっ」
「私は着替えなくてはならないのね? どんな格好が良いのかしら」
「あの、その、大変に申し訳ないとは思いますが、あたし、ちょっと相談してきていいですか。あなた様方が着られるようなもんではないんですが、それでもその格好じゃ無理なんで、都合してきます」
「わかりました。任せます」
「はい! じゃあ、これ、貰っていきますね」
オルガは菓子の包みを2つ抱えると、来た時とは全く違う勢いのある駆け足で部屋を飛び出していった。
「姫様、あれを」
まもなく、ルッカがシャルンを呼んだ。窓の外を見るようにと手招きするので、指差す方向を眺めると、さっき見ていた小道を一心に走る茶色の髪の少女がいる。
「あれは…オルガ?」
「そうですね。たぶん、あの向こうがレース工房ですよ」
ルッカが示す方向には、あの、館に隠された建物群があった。




