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「…リュハヤ、遠慮はわかるが、もう少しはっきりと話しなさい」
司祭が重々しく続けた。
「働く者を悲しませるような振る舞いだと教えて差し上げねば……我らは臣下であるのだから」
「わかりました。父に促されたので申し上げますわ。シャルン様、その衣服は何事でしょう」
「え?」
「馬車の事故は知っています、昨日は仕方ないでしょう。けれど本日は大事なお話の場です。昨日に侍女を走らせれば、替えのドレスは持ってこられたはず、しかも」
壁際のルッカが体を固める。
「レダン様には執務官もおられたのに、王妃様のドレスを揃えさせることもされなかったのですね」
レダンが暗い目になり、ガストが目を細める。
「侍女が気が利かず、レダン様のシャルン様へのお心遣いが少なかったとしても、シャルン様にはそれらを配慮し、この席に相応しく身なりを整えることが必要とされたのに、気づかれなかったのですか」
リュハヤは声を荒立てることもなく、むしろ憐れみと同情を浮かべながら、シャルンを見詰める。
「ましてや、その、胸と髪に飾っておられるハンカチは、私の大事な品です」
ルッカが表情をなくした。
「シャルン様をお迎えすべく、貴重な品でしたが、お部屋にご用意致しました。その気持ちを考えることも気遣われることもなく、一言の断りもなしに勝手に細工されてしまい、おそらく元通りにはもう使えません。見た瞬間、気持ちが塞ぎました」
レダンは飾りを作った事情を知らない。許しを得て作ったはずだが、そのことをリュハヤは知らなかったと言い立てている。
「王妃とは言え、臣下の大事にしているものを奪い、壊すことは許されないはずです。私はそれでも気持ちを抑えました。レダン様にもシャルン様にも礼を失しませんでした。訴えたかった想いはありましたが、シャルン様に制されて……お伝えできませんでした、レダン様」
リュハヤは瞳を潤ませてレダンを見た。
「はっきり言えと仰いましたが、このように多くの者が見ている前で、レダン様が大事にされているシャルン様が、本当はどのような方であるのかお伝えしてはならないと、私は痛みを忍んでいたのです」
「…っ」
レダンの顔が青ざめた。思わずと言った仕草でシャルンを見下ろしてくる。
十分にわかった、不安げな視線から、レダンの命令したことがシャルンを窮地に追いやったのだと理解したことを。
けれどなお、ガストならわかっているだろう、不安そうにシャルンを見下ろした動きそのものが、レダンもまた、シャルンの不躾な振る舞いに驚いたのだと捉えられるはずだ。
「………っ」
ガストと視線を合わせ、レダンはなおも顔を強張らせた。今の動きもまた、仕組まれてしまったと気づいたようだ。
「シャルン…」
シャルンは静かに瞬いた。
ルッカを見やり、泣きそうになっている顔を見た。ガストを見やり、険しくしかめた眉と鋭い視線を見た。レダンを見上げ、苦々しく顔を歪めるのを見た。
そうして、満足そうに微笑むイルデハヤと、側で見事なドレスに身を包み、ことさら悲しげに眉を潜め、こちらをじっと見つめるリュハヤを見た。
ゆっくりとシャルンは立ち上がった。胸元の飾りを外し、ルッカを見る。
「ルッカ。髪の飾りを外してくれるかしら」
「……奥方様…っ」
呻くような声で応じたルッカが、それでも足早に走り寄り、震える手で髪飾りを外してくれる。
「ありがとう」
2つの飾りをテーブルに置き、シャルンは静かに会釈した。




