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これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3 〜花咲姫と奔流王〜  作者: segakiyui
5.レース工房

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3

 食事は和やかに進んだ。

 温かいスープに味わいのある干し肉、多種類のパンに豊富な果物。

 部屋と同じく、粗末で質素な暮らしぶりとは程遠い、豊かで傲慢な食卓。

 周囲に立っている者の顔を見れば、ある者は苦しげに、ある者は諦めきった表情で、シャルン達の食事風景を眺めている。

 彼らにこの食事は与えられていない。生涯与えられることもない。

 けれど、給仕は命じられる、恐らくは空腹のまま。

「…お下げいたします」

 汚れた皿に気がついて、そっと静かに声がかけられた。残っていたソースに、微かにこくりと喉が動くのが間近でいるゆえに感じられた。

「…ありがとう」

 このカースウェルで。

 シャルンのことばに軽く頭を下げた相手はまだ少女だ。そばかすの散った、瞳の大きい、長い睫毛の愛らしい顔立ちだ。けれど頬は削げ、顔色は悪く、着ているものは洗いざらいして繕いが繰り返されている。

 このカースウェルで、このような少女に、こんな顔をさせて、皿を下げさせているなんて。

「シャルン?」

「…たくさん頂きました」

 胸が詰まって苦しかった。けれども、十分に満足したと伝えなくては、給仕の者が咎めを受けるのは必須、できるだけにこやかに微笑む。

「ありがとう」

「…私も十分だ」

 レダンの沈んだ声に、同じことに気づいたと知って、顔を上げる。暗く厳しい紺色の目は、司祭を凝視している。今すぐにでも詰りたいほど抑えられた怒りをたたえる瞳は、それでも強く閉じられ、再び開かれた時には冷静で落ち着いていた。相手の身内にきりりと引き絞られた力を感じて、シャルンは思わずレダンに見惚れる。

 感じ取る。何が何でもこの交渉を成立させ、この地に豊かさをもたらす。その為には努力を惜しまない。全力をもって、この意志を貫く。

 王よ。 

 何と美しく、迷いのない姿であることか。何と慈愛に満ちて、力強い決心であることか。

「陛下」

「ん?」

「ありがとうございます」

 感謝は唇を突いた。

「私をお連れ頂き、感謝いたします」

 同時に胸の深くに思う。

 我が臣民を想って下さる陛下が健やかであらせられますように。

「…我が妃」

 レダンは少し笑みを返した。邪気のない優しい口調で、

「そなたを伴うことが私の責務だ」

「あの」

 不意にリュハヤが口を開いた。

「さっきのお話ですが」

「…」

 何か用か?

 口には出さなかったが、レダンは露骨に顔をしかめてリュハヤを振り向いた。露骨すぎて、シャルンは冷や汗が出たほどだ。

「食事の前に、私が話そうとしていたことがありましたでしょう?」

 それに興味は湧かないか?

 きらきら光る瞳が楽しげにレダンに向けられる。側にいるシャルンなど、影もないような視線だ。

「シャルン様に遮られたので、お話しできませんでした。食事も終わったし、お話ししてもいいでしょうか」

「…良い」

「では、陛下のお許しがありましたので」

 リュハヤは瞬きをすると、シャルンに向いた。

「失礼ではないでしょうか」

「?」

「シャルン様は、この食卓を何とお考えなのでしょう」

「…」 

 レダンはくっきりと眉を寄せた。シャルンはリュハヤの言わんとするところを察したが、微笑みで応じる。

「この食事は聖なるものです」

 リュハヤが声を震わせる。

「この食卓を整えるのに、多くの者が働いております」

「…」

 レダンは無言で先を促す。

「先ほどシャルン様は食事に感謝を、と述べられました。けれども、なさっていることは感謝とほど遠く、失礼で無礼です」

 リュハヤが胸を張る。本日の装いは薄青の地にレースをふんだんに飾り付けたドレス、清楚とは言い難いがよく似合って美しいのは確かだ。

「…お分かりになれない?」

 シャルンの困惑した顔にリュハヤが笑んだ。

「カースウェルの王妃ともあろう方が?」


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