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食事は和やかに進んだ。
温かいスープに味わいのある干し肉、多種類のパンに豊富な果物。
部屋と同じく、粗末で質素な暮らしぶりとは程遠い、豊かで傲慢な食卓。
周囲に立っている者の顔を見れば、ある者は苦しげに、ある者は諦めきった表情で、シャルン達の食事風景を眺めている。
彼らにこの食事は与えられていない。生涯与えられることもない。
けれど、給仕は命じられる、恐らくは空腹のまま。
「…お下げいたします」
汚れた皿に気がついて、そっと静かに声がかけられた。残っていたソースに、微かにこくりと喉が動くのが間近でいるゆえに感じられた。
「…ありがとう」
このカースウェルで。
シャルンのことばに軽く頭を下げた相手はまだ少女だ。そばかすの散った、瞳の大きい、長い睫毛の愛らしい顔立ちだ。けれど頬は削げ、顔色は悪く、着ているものは洗いざらいして繕いが繰り返されている。
このカースウェルで、このような少女に、こんな顔をさせて、皿を下げさせているなんて。
「シャルン?」
「…たくさん頂きました」
胸が詰まって苦しかった。けれども、十分に満足したと伝えなくては、給仕の者が咎めを受けるのは必須、できるだけにこやかに微笑む。
「ありがとう」
「…私も十分だ」
レダンの沈んだ声に、同じことに気づいたと知って、顔を上げる。暗く厳しい紺色の目は、司祭を凝視している。今すぐにでも詰りたいほど抑えられた怒りをたたえる瞳は、それでも強く閉じられ、再び開かれた時には冷静で落ち着いていた。相手の身内にきりりと引き絞られた力を感じて、シャルンは思わずレダンに見惚れる。
感じ取る。何が何でもこの交渉を成立させ、この地に豊かさをもたらす。その為には努力を惜しまない。全力をもって、この意志を貫く。
王よ。
何と美しく、迷いのない姿であることか。何と慈愛に満ちて、力強い決心であることか。
「陛下」
「ん?」
「ありがとうございます」
感謝は唇を突いた。
「私をお連れ頂き、感謝いたします」
同時に胸の深くに思う。
我が臣民を想って下さる陛下が健やかであらせられますように。
「…我が妃」
レダンは少し笑みを返した。邪気のない優しい口調で、
「そなたを伴うことが私の責務だ」
「あの」
不意にリュハヤが口を開いた。
「さっきのお話ですが」
「…」
何か用か?
口には出さなかったが、レダンは露骨に顔をしかめてリュハヤを振り向いた。露骨すぎて、シャルンは冷や汗が出たほどだ。
「食事の前に、私が話そうとしていたことがありましたでしょう?」
それに興味は湧かないか?
きらきら光る瞳が楽しげにレダンに向けられる。側にいるシャルンなど、影もないような視線だ。
「シャルン様に遮られたので、お話しできませんでした。食事も終わったし、お話ししてもいいでしょうか」
「…良い」
「では、陛下のお許しがありましたので」
リュハヤは瞬きをすると、シャルンに向いた。
「失礼ではないでしょうか」
「?」
「シャルン様は、この食卓を何とお考えなのでしょう」
「…」
レダンはくっきりと眉を寄せた。シャルンはリュハヤの言わんとするところを察したが、微笑みで応じる。
「この食事は聖なるものです」
リュハヤが声を震わせる。
「この食卓を整えるのに、多くの者が働いております」
「…」
レダンは無言で先を促す。
「先ほどシャルン様は食事に感謝を、と述べられました。けれども、なさっていることは感謝とほど遠く、失礼で無礼です」
リュハヤが胸を張る。本日の装いは薄青の地にレースをふんだんに飾り付けたドレス、清楚とは言い難いがよく似合って美しいのは確かだ。
「…お分かりになれない?」
シャルンの困惑した顔にリュハヤが笑んだ。
「カースウェルの王妃ともあろう方が?」




