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これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3 〜花咲姫と奔流王〜  作者: segakiyui
4.祈りの館

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7

「あんの、くそ親父が!」

 私室に案内されてソファに腰を下ろした途端、レダンは吠えた。

「人の馬車をなんだと思ってやがる!」

 そんなに豪勢ではないにしても、王の乗り物だぞ、国家の財産だぞ。

「シャルンの匂いが消えちまうじゃねえか!」

「はいはい、はーい。その辺りでぶっ飛んだ口は慎んで下さいね」

 ガストが溜め息混じりに制止を掛ける。

「今回は奥方様と別室で、それでなくとも箍が外れやすくなってるって、自覚しといてくれるとありがたいんですが」

「自覚してるさ、自覚してるからこそ、今日の交渉は早々に切り上げただろうが、長期滞在を名目に!」

 レダンはじろりとガストを見やる。

「馬車まで燃やして引き止めたんだ、とことん交渉に付き合ってもらうさ、何が何でも頷かせてやるぞ」

「まあ、1週間や10日はかかりそうですしね、馬車の調達」

「かかるか?」

「いえ?」

 レダンの訝しげな声に、ガストはしゃらっと首を振る。

「今回の仕立ては別に特別仕様でもありませんし、王宮まで戻るならば馬でも十分ですしね」

「まあお前は乗れるな、ルッカは」

「愚問でしょう」

「だよな、アリシア出身なら、それぐらいやるよな。シャルンは俺か。あ、帰れるな、今すぐ全然!」

「はいはい、はーいはーい」

 ガストがうんざりした声を出す。

「奥方様を馬に乗せての楽しい妄想に飛び込むのは後にして下さい。目的を放り出したら、嫌われますよ?」

「じゃあ止める」

「…はあああああああ」

「なんだよ、その沈みそうな溜め息は」

「執務官としての未来がねえ……早く老けそうな気がして」

 にやにや笑いながらレダンはしばらくガストを眺めていたが、ひょいと真面目な顔になって、

「ところで、馬車を潰したのはイルデハヤだよな?」

「恐らくは」

「何でだろうな?」

 レダンはガストをじっと見る。

「本当はさっさと帰って欲しかったはずだよな、龍神祭だけ済ませたら」

「そうですね」

「なぜ引き止める気になった?」

「リュハヤ様の為とか」

 くっくっく、とレダンは人の悪い笑い声を零す。

「そんなことをするかよ。俺が考えるに、お前が気づいたから、じゃないか?」

「…」

 ぎくりとした顔になったガストが、お茶を淹れて来ますと隣室へ逃げ出して、やがていい香りのカップをテーブルに置くまで、レダンは無言で待っていた。

「…わかってたんですか」

「お前の様子がおかしいことはすぐに、な」

 もう一つの方は、ついさっきわかった、と打ち明けると、さすがのガストがちょっと引く。

「まさか……あなた、8歳だったでしょう?」

 私だって、考えてようやく思い出したのに。

「かなり痩せて、面変わりしていたので、すぐには気づかなかったんですよ」

「記憶力はいいんだよ」

 レダンは薄笑いして、ガストをからかうのを止めた。

「お前の様子がおかしいんでな、あれこれ考えて、部屋に案内してくれた見習いにカマかけたのさ、司祭はあの頃より随分痩せた、恐らく酷い事件に心を傷めたのであろうな、と」

「…話したんですか?」

「驚いてたな、俺が知っているのに。お前が当事者だったと言ったら、情深い君主だと感じ入ったぞ」

 くすくす笑ったレダンが謎解きをする。

「…まさかこんな所で、あいつに会うとは、ね」

 ガストが暗く苦い笑みを零す。

「夜道で会ったら殺してやりたいと思っていましたけれど」

「殺す価値もなかったろ?」

 レダンはひんやりと応じる。

「あんな男にお前の命をくれてやる気はないからな」

「私が負けるとでも?」

「…今のあいつは一般人だ。王の執務官が手にかけたとなれば、お前を処罰することになる。命は長らえても、お前は俺の役に立たない場所で、一生下らない人生を生きる。命を失うも同然だ」

「……」

 ガストが目を伏せて答えないのを、レダンは静かに見つめる。

 司祭イルデハヤは、かつてある町の司法に関わるものだった。ガストの両親が殺された事件を、物取りと断定し、それ以上の追及と解明を許さなかったのも、またその男だ。時の名前を、ゲニア・ラオ・クリステルと言う。

「見習いは、ゲニアが事件を解明できなかったことに傷ついて隠棲し、龍神教に入信し、司祭となったと思ってたぞ」

「…馬鹿馬鹿しい。あいつは私の姿を見ても、思い出せもしなかったようですよ」

「好都合じゃねえか」

 レダンは鼻を鳴らした。

「敵に覚えられてても迷惑なばっかりだ。となると、リュハヤは実の娘じゃねえのかな」

「子どもはいなかったはずですね」

「姿をくらました後にもうけたか、それとも何か別の事情があるのか」

「……『かげ』を見たことがあるという話、無視しないほうがいいように思います」

 ガストが首を傾げる。

「嘘にしても、あまりにも突飛でしょう」

「王族だと言いたいのか、それとも……本当に『どこかで』龍を見たか」

「それならそれで、1つ疑問があります」

 レダンが飲み干した茶を新たに注ぎながら、ガストは眉を寄せた。

花咲はなさかにしても龍にしても、解き放たれた『力』は何を引き起こしたんでしょう。そして今どこで何をしてるんでしょう」

「もう1つ確かめたいことがあるぞ」

 レダンは物言いたげにぐるりと部屋を見回した。

 魚と鳥を細かく刺繍した敷物、鮮やかな色の布張りの椅子にソファ、天蓋つきベッドに使われている織物は艶があって肌触りがいい。書き物机に揃えられたペンやペン立て、インク壺を装飾する金属の細工物は磨き上げられ、茶器のセットは一流品だ。

「こいつらは、どこから買われてここに来たんだろうなあ? 館の造りといい、ちょっとした地方貴族より豪勢な暮らしぶりだぞ? それだけの金を、寄付で賄っているなんてふざけたことを言ってやがったが」

 ひょいと立ち上がって書き物机の文鎮を手にする。精巧な文様を彫り込まれた球体は、鈍く輝きながらずっしりと指に重い。

「少なくとも、俺がこれを見たのは、昔の博覧会だぞ?」

「え」

 ガストがぎょっとする。

「博覧会……ダフラムですか」

「その通り……きな臭えだろ?」

 レダンはにっと笑った。


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