2
「では、ガストは…」
「両親が亡くなったのが10歳、叔父に引き取られて、俺の側に来たのが12歳、だから色々捻くれているわけだ。腹に据えかねても許してやってくれ」
「…はい、陛下」
アグレンシア元王妃が亡くなっていると偽り、あたかもレダンの元婚約者のような物言いをして、シャルンを試したことを遠回しに謝られたのだと気づいて、にっこり笑う。と、レダンがぷくっと頬を膨らませた。
「?」
「いや、2人で居るのに、他の男の話で微笑む妻と言うのは、如何なものかなと思ってな」
不貞腐れながら、そろそろと怪しいところへ手を動かす。
「へ、陛下」
「夫婦の会話と言うものをしにくいなら、し易くしてやるのが夫の務めだろう?」
「あ、あのっ」
優しく容赦ない指先が、昨夜の熱さを思い出せようとするのに、慌てて上から押さえつける。
「だめ? なぜ?」
「馬車の中でございます!」
「今夜も明日も『祈りの館』だ。聖なる場所故に、男女同室は王でもならぬと言い渡されている。交渉次第ではもっと滞在が長引く。なのに今、俺に我慢を強いると?」
「ドレスが乱れます!」
「着替えはある、ルッカも居る」
汚れるのが前提か、とシャルンは真っ赤になる。
「陛下!…っん」
叫びかけた唇をそっと覆われる。
「……もう」
「あなたが可愛いのが悪い」
そっと離されて喘いでいると、恨めしげに詰られる。
「短い髪が誘惑的だよな。首に吸い付いて下さいと頼まれているようだぞ。旅支度はわかるが、しっかりあちこち止められていると剥ぎたくなるのは男の心情だ。足首もほら」
「あっ」
いきなり足を持ち上げられてぎょっとする。
「こんなに華奢で、小花の飾りなど誰が工夫したのだ? 重罪にする」
ちゅ、と音高く脚にキスされて全身熱くなった。
「ああ、でもあなたが助命を嘆願するなら許してやらんこともない」
蕩けるように微笑みながら、シャルンを覗き込む。
「その薄赤く染まった唇で、俺を呼んで、許して下さいと願ってみてくれ。願い方が良ければ考えよう」
「お許し…下さい…っ」
冗談だとわかってはいるが、時々レダンは箍が外れる。その際の容赦なさはよく知っているから、シャルンは必死に赦しを口にする。
「…そう来るか」
覗き込んでいたレダンは突然茫然とした顔になった。
「堪らんな」
「はい?」
「ああもう、ここから帰るか、シャルン」
「はいっ?」
「四阿ならまだ床もあるし、支度もできてるし、うんいい考えだな」
「陛下っ!」
今にも御者に言いつけそうに顔を振り上げたレダンを、シャルンは呼んだ。
「『祈りの館』には明日でもいいし」
「陛下!」
「だよなあ、なんなら先にガスト達を向かわせて」
「レダン!」
「…はい」
名前を呼ばれてレダンは振り向く。驚いたように瞬く顔は薄く染り、熱に解れた髪が一筋垂れ落ちて、こちらもかなり蠱惑的だ。とろりと緩みそうになる体を引き締める。
「…私も、このまま抱きしめられていとうございます」
恥ずかしさを押し殺してシャルンは訴えた。
「けれど、私がご一緒したばかりに、公務が蔑ろになったと噂されるのは、辛うございます」
「む」
「陛下は、私が愚かな王妃と謗られるのをお望みなのでしょうか」




