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これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3 〜花咲姫と奔流王〜  作者: segakiyui
29.炎の賢者

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2

「…」

 潤んだ視野に心配そうに覗き込むレダンが居る。零れ落ちた一雫を指で払い、シャルンはにっこり笑って顔を上げた。

「さて」

 全ての蓋を開け終えて、アグレンシアはちょいちょいと手を振ってガストを呼んだ。

「この壺の中身の違いがわかるか?」

 呼ばれたガストと共に、レダンもシャルンを庇いながら近づいてくれる。

「…ミディルン鉱石ではありますが……大きさが様々ですね」

 ガストの指摘の通り、指1本分の大きさの物から、砂のように細かい物まで揃っている。

「砕いたのですか」

「かなり手間暇かかったよ。不用意に力を加えると燃え上がる」

 レダンの声にアグレンシアが頷く。

「使い方は皆も知っているだろう。例えばこれぐらいなら、こんな風に使える」

 指1本分のミディルン鉱石を勢いよく地面に叩きつける。土に何かが埋めてあったのか、ガツっと強い音がして掌ぐらいの炎が燃え上がり、しばらく燃えたのちに消えた。

「埋めてあったのは、発火石だ。ミディルン鉱石を燃やしはするが、この大きさで1個しかないなら、火はすぐに消える」

 アグレンシアは次の大きさの鉱石を手にした。

「この炎の大きさは基本的には鉱石の量に比例する。さっきの半分のこいつだと」

 再び投げつけると、ぶわりと炎が上がるが風に揺れて消えてしまう。

「巨大なものほど大きな炎を発生させることが知られているが、今度は発火させにくい。だからミディルン鉱石はこの程度の石に砕き、必要に応じて量を増やして使うことになる」

「うん…そう、だな?」

 レダンは訝しげな顔で首を傾げる。誰もが知っているミディルン鉱石の使い方を、なぜ今更と不審がっているようだ。

 シャルンはもう一度壺を見た。小さなミディルン鉱石は、恐らくは運ぶ途中に削れたり割れたりしたものだろう。砂粒ほどのものは、それらがより細かく砕けてしまったもので、多少集めたところで発火石がなければ火を生まないし、ハイオルトでは土に混ぜたり水に流したりして捨てられていたように思う。

「アグレンシア様……ひょっとして、砂のようなミディルン鉱石でも、炎を生むのですか?」

「おお、聡いな、シャルンは」

 アグレンシアは笑みを深めた。不服そうにレダンが唸る。

「生むと言っても、風に消えるようなものだろう」

「まあ、見ておれ」

 アグレンシアは砂粒のようなミディルン鉱石の壺をひょいと抱え、中に入っていた小さな匙で中身を掬い、地面にサラサラと落とし始めた。

「この大きさなら、この程度」

 小山を作って少し離れ、発火石を投げつける。ぱすっと軽い音がして、煙のような靄と一緒に淡い焔が躍る。

「ところがな、ここからが本番だ」

 アグレンシアはにやりと笑って、別の場所へ壺の中身を撒き始めた。レダンが息を呑み、ガストが目を見開く。2人の驚きがシャルンにもよくわかる。

 それは偶然に撒かれた模様ではなかった。ある種の意図を持って描かれた図形、シャルン達にはよく見知った紋様の一部さえ見て取れる。

「で、これにこいつを投げつけると」

「は、母上っ」

「っっ」

 止めようとしたレダンの前で、アグレンシアは無造作に図形の端に発火石を叩きつけた。

 瞬間、恐怖に青ざめ手を伸ばすシャルン、剣を抜きかけたレダン、アグレンシアに駆け寄ろうとしたガストの前で、轟音とともに巨大な龍が立ち上がった、のではなかった。

 ざぶうっ。

「へ?」「わ!」「きゃっ!」

 土から跳ね上がったのは透明な水、泥を跳ね散らかしてアグレンシアと走り寄った3人の上から降り注ぐ。

「……は?」

「あはははは!」

 アグレンシアが泥汚れでべとべとになりながら爆笑する。凍りついてしまった3人に、濡れた髪を掻き上げて、紅潮した頬で言い放つ。

「な? どうした仕組みなんだろうな、水が出てきてしまうんだよ」


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