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「さて、ここなら何をしても構わないし、何が起きても構わない。実験には持ってこいの場所だろう?」
翌朝、アグレンシアが4人を誘ったのは、建物が囲い込む形になっている中庭だった。
よく見る館の中庭のように剪定された美しい生垣や木々はなく、強いて言えば土を固く敷き詰めた広場のようにそっけない。
「地面に焼け焦げの跡がある……何をしてるんですか、ここで」
レダンが警戒した表情で眉を寄せる。
「それこそ昨日遮られた『発見』に関わることだ」
アグレンシアが嬉しそうに微笑む。秘密を知っている女王というよりは、珍しい花の生息地を突き止めた幼子のように誇らしげで素直な笑みだ。
ガラガラと荷車に乗せられたいくつかの壺が運び込まれた。片手で抱えられる程度の大きさの壺、上には木の蓋が嵌めてある。
シャルンの視界にそれらの壺は淡く光っているように見えた。
「…ミディルン鉱石、でしょうか」
「よくわかったな。その通りだ。やはりハイオルトの王族にはミディルン鉱石が輝いて見えると言うのは確かなようだな」
「っ」
あっさりとアグレンシアが頷いて、レダンとガストが同時に軽く身構えた。
「母上?」
「おお、そう殺気立つな、大丈夫だよ、他の者はまだ知らぬ。が故、シャルン、あなたはあまり迂闊に話さぬ方が良い」
「も、申し訳ありません」
はっと気付いて思わず謝罪する。
「それもな、エリクが立てた仮説の一つだ。諸書を集めると、ある種の王族がミディルン鉱石の在処を見抜けたとしか思えぬ記述があってな。但しそれは、古い古い書物でな、パルディアの王族について伝えたものだ」
アグレンシアは手袋をした手で、注意深く壺の蓋を開けた。
「パルディア…ですか」
「遥か北方の、幻の王国だよ」
ガストが手元の紙に書き留めている。
「同じように、ミディルン鉱石がハイオルトに多く見つかったのは、所在を探せる能力があった者が、王族もしくは国の施策を指示できる者にいたからではないかと。ただ、その話をした直後に、エリクはひどく体調を崩してな」
少し考え込むように、アグレンシアは手を止めた。
「突き止めるまでに至らなかった……きっと、そなたとの記憶に触れそうになったのだな」
シャルンを振り返り、微笑む。
「もしそれが真実なら、シャルンに害が及ぶ…」
レダンの指摘に静かに頷く。
「無意識に考えぬようにされたのだろう」
「…お母様…」
シャルンの胸に切ない愛しさが広がった。シャルンのために洞窟に入り、裏切りにあっても生き延び、記憶を失ってもシャルンを守ろうとしてくれた母。恐怖や不安で眠れぬ夜もあっただろうに、それでもアグレンシアとミディルン鉱石について調べ続けた母。
シャルン。
優しい声が耳に届いたように思えた。
どれほど離れ、どれほど遠くても、私が必ず、あなたを守りましょう。




