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 ボクたちがこの部屋に取り残されて、どのくらい時間が経っただろうか。10分か15分か。真中聡子が不意に俯いていた顔を上げた。


「新島くん、ごめんね。アナタだって大変なのに、私自分のことばかりで…」


 メガネの奥の涙の跡は痛々しいが、幾分落ち着いたようだ。とはいえ、近い。顔が近い!全く警戒していない瞳でボクを見てくる。ボクは恥ずかしくなって視線を逸らした。


「あの、手…」


 それからボクは、そのたった一言を何とか絞り出した。真中聡子は自分の両手で握りしめているボクの手に気付くと、慌てたようにパッと離した。


「わっ、ごめん。重ね重ね申し訳ない…」


 真中聡子は女子高生らしくない言い方で、何度も何度も頭を下げた。ボクは思わず「プッ」と吹き出した。


「真中さん、どこのオッサンだよ!」


「え?オッサ…」


 真中聡子はボクの物言いに戸惑っていたが、みるみる頬を膨らませる。


「新島くん、ヒドイ。女の子に向かってオッサンはないでしょう!」


「そうだよな。ごめん、ごめん」


 全く悪びれないボクの態度に、真中聡子もつられて笑った。


「もー、ちゃんと謝ってよ」


 ~~~


 ボクたちは石台を背に床に座りこんだ。それからお互いのスマホを見せ合う。


「この先どうなるか分からないけど、打てる手は打っとこうと思う」


「うん、そうだね」


 ボクの意見に真中聡子も賛成してくれた。


「真中さんは、自分のスキルのことで何か分かることある?」


「うーん、名前だけ、かな?」


「名前?」


「うん、あのステッカーを手に持った時に、なんだか頭によぎったの」


「ちなみにどんな?」


「確か、『魅了チャームステッカー』だったかな?」


魅了チャーム…」


 言葉の意味通りだとすると、貼った相手を虜に出来るということか。想像通りの性能と仮定するなら、かなり強力なスキルかもしれない。


「新島くんは?」


 真中聡子がこちらに可愛い顔を向ける。学校ではキツイ印象しかなかったけど、何だ、何だ?ボクはちょっとオカシイぞ。


「あ、ああ」


 ボクは自分のスマホに視線を落とした。


「ボクは何も分かんない。カメラモードが起動するだけ」


「だったら、写真撮ってみたら?」


 真中聡子が当たり前の提案をした。言われてみれば、そらそうだ。ボクもさすがに平静ではなかったということか。


「そうだな、やってみる」


 ボクは何を撮ろうかと視線を巡らせていたら、不意に真中聡子と視線が合った。一瞬ビクッとしたが、何故だか視線が外せない。


「わ、私を撮ってくれるの?」


 真中聡子が頬を赤らめながら聞いてきた。ボクは我に返った。


「ダ、ダメだ、ダメだ!何が起きるか分からないから、最初は他のモノでないと!」


 ボクは自分に言い聞かすように声を張り上げた。


「そ…そうだよね。何が起こるか分からないもんね」


 真中聡子も顔を真っ赤にして俯いた。


 と、いうことで、背もたれにしていた石台を撮ってみることにした。


 ボクは石台をフレームに収めると、画面下部のシャッターをタッチした。カシャっという起動音と共に石台の写真がフォルダに保存される。


 カメラモードを終了し画面をホームに戻すと、「写真」のアイコンが増えていた。そのアイコンをタップで開くと、今撮った石台の写真が表示された。


「ダメだ、本当にただのカメラだ」


 ボクは泣きたくなった。


「どれどれ?」


 ボクの横に立って様子を見ていた真中聡子が、スマホの画面を覗き込んできた。春香とあまり変わらない身長の彼女の頭が、ボクの鼻先を刺激する。ヤバイ、すごく良い匂いがする。


「何か倍率のアイコンが出てるよ」


 真中聡子がこちらに顔を向けた。だから、近いって!


 ボクは平静を装って自分のスマホに視線を移す。


 確かに5個のアイコンが写真の下部に表示されている。左から「100分の1倍」「10分の1倍」「原寸大」「10倍」「100倍」である。


 これは、もしかしたらもしかするのかもしれない。


 ボクは恐る恐る「10分の1」のアイコンに触れてみた。

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