番外編 8
「実は王宮の騎士は他家の衛兵とは立場が異なり、今回の演習には参加していないのです」
「そうなのか?」
アリスの言葉に、ショウは少し意外そうな顔を見せた。
「はい。騎士は地位だけで見てもワンランク上の扱いになりますので、皆を同等に扱う合同演習のような場合には、少々弊害が生じてしまうのです」
「なるほどな」
「なので、他家の情報収集も兼ねて、ふたりで様子を見に行ってみませんか?」
ショウが「え?」と驚いた顔をする。
「大丈夫なのか?」
「ええ、おそらく。参加は無理でも、見学くらいなら問題ないかと思います」
「そうか、確かに興味はある!」
ショウはパッと嬉しそうな顔をした。その年相応な表情にアリスはズキュンと胸を撃ち抜かれた。いつものクールなショウからは想像もつかない…
これが「ギャップ萌え」ですか…これはいけない。生命がいくつあっても足りませんっっ
アリスは崩れ落ちそうになるのを必死に堪えた。
「で、では、今日中に連絡を送り、明日にでも行ってみましょう」
息も絶え絶えに言葉を紡ぐアリスの姿を、ショウは不思議そうな表情で見つめていた。
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翌日…
オイーヌ・ネッコ複合領地の中心にある両家共有の集会所に、アリスとショウの姿があった。
「突然の申し出に快諾いただき、ありがとうございます」
アリスが感謝の意を述べる。
「いえいえ、勇名轟く姫騎士に参列いただけるなんて、衛兵たちの士気も爆上がりモノですわ」
白髪混じりの黒髪をオールバックに固めており、やや垂れた目をしている。顔、身体とも全体的に丸みのある体格で、カーキ色の制服に身を包んだ50代の男性、ケイン=オイーヌが「ガハハ」と笑いながら応えた。
「それに、お付きの勇者様もいい男。素性は明かせないでしょうが、若い子たちの良い刺激になるでしょうね」
明るい茶髪をゆるふわ縦ロールに巻いており、耳には大きなフープのピアスが輝いている。カーキ色の制服の上からでも分かるボンキュッボンの体型で50代とは思えない正に美魔女、キャナリー=ネッコがショウに妖しく微笑んだ。
「そう言っていただけると、コチラも助かります」
言いながらアリスは、ショウとキャナリーの間にさりげなく移動する。キャナリーは「フフッ」と艶やかに笑った。
「さっそくで申し訳ないが、演習を見させてもらっても構わないか?」
ショウのソワソワをアリスだけが気付いた。内心でクスッと笑う。
「おお、そうじゃな。街の北側の演習場でやっておる。ワシらは付き添えんが、話はつけてあるから行ってくると良い」
ケインが「ハッハ」と笑った。
「姫様、邪魔は致しませんので、ごゆるりとお楽しみください」
「ウフフ」と微笑むキャナリーから顔を逸らすように、アリスは赤面しながら顔を伏せた。




