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「教官、ひとついいだろうか」


 アインザームが空間術士の主任教官に顔を向けた。


「見本演習などという面倒を引き受けたのだ。俺の頼みをひとつ聞いてもらいたい」


「内容にもよるが、言ってみなさい」


「もう一本、演習を組んでもらいたい。相手はこちらで指名する」


 言いながらアインザームは、コチラの方にチラリと目を向けた。やってくれる…。ボクを晒し者にする気満々だな。


「ふむ…」


 壮年の教官が思案する素ぶりを見せる。


「今の演習を見せられて、その相手は本当に了解するのかね?」


「どうだろうな。ただ勝負の約束をしただけだ。出て来なければ、それは俺の勝ちということだ」


 アインザームが勝ち誇ったように笑う。来るなら来てみろ、と…


「来いよ、お兄さん。ただしハニーたちをこの場に巻き込むことは許さない」


「ちょっと!」


 ハルカが立ち上がって、声を張り上げた。


「当事者は私たちでしょ!私が出るわよっ!」


「駄目だ。俺は愛するハニーに手を上げられない。それともお兄さんは、そんな卑怯者なのか?」


「何をっ!」


 ハルカは顔を真っ赤にして唇を噛み締めた。ああ、こんなにもボクのために怒ってくれるなんて、カッコ悪いとこ見せられないな。


「ありがとう、ハルカ。ここでボクのこと見てて」


 ボクは立ち上がると、ハルカの頭をポンポンと撫でた。抱きしめたい衝動をグッと堪える。


「ルー、悪いけど付き合ってくれるか?」


「モチロンです。なんだか私にも責任の一端があるようですので」


 ルーが「テヘヘ」と笑った。


「ルーのせいなんかじゃないけど、今は力を貸してほしい」


「はい!全力でいきます!」


 ルーは胸の前で、両手で小さくガッツポーズした。


「ルー!」


 ハルカとサトコがルーに駆け寄った。


「ケータ(くん)をお願いっ!」


 ふたりの声がハモる。ルーは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに表情を引き締める。


「大丈夫です。任せてください!」


 ~~~


 消魔壁の空間内に入ったボクたちを見て、アインザームが嘲るように笑った。


「子どもを連れてくるとはな。ハイラインあたりになら効果はあるかもしれないが…」


「そうだな、あまり気分のいいモノではない」


 ハイラインが表情を変えることなく頷く。イマイチ本心の見えにくい人だな。


「俺はハニー以外の相手に手加減をするつもりは毛頭ないが、本当にいいのか?逃げるなら今のうちだぞ」


 アインザームが馬鹿にしたようにルーを見る。


「舐めないでください。アナタたち程度に遅れをとるつもりはありません」


「ほう」


 ルーの鋭い視線に、アインザームが感心したように声を出した。


「さっきの戦いを見たうえで、そんなことが言えるのか。面白い」


 アインザームの表情が変わった。


「ハイライン、今回は少し様子を見よう」


「いいのか?」


「どういう意味だ?」


「いや、いい」


 余裕なんだろうが、全部聞こえてる。さっきのような速攻が来ないのなら大変助かる。


「ケータお兄ちゃんは攻撃に集中してください。必ず私が守ってみせます」


 ルーが隣からボクを見上げてくる。元々ボクは、身を守る手段が極端に少ない。ソレを分かってるんだろーな。ルーの言葉がスゴく心強い。


「ああ、任せた!」


 言いながらルーの頭に左手を軽くのせた。ルーはそんなボクの左手に自分の左手を重ねてきた。頰が少しだけ上気している。


「始めてください」


 ボクたちの準備が整ったのを確認してから、女性教官が演習の開始を宣言した。

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