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「演習に参加する方は演習場に移動してください」


 場内にアナウンスが入る。人の波が一定方向に動き始めた。そうか、これから始まるのか…。なんだか既に、ドッと疲れた気分…


「それじゃ、私はこれで」


 ユイナは頭を下げると、仲間の所に戻っていった。その先に金髪の男の姿が目に入る。今は私たちを見ていない。ケータは右拳を左手のひらに「バン」と打ち付けた。


「うしっ!ボクらも行くか」


 ケータが気合いを入れるのを合図に、私たちも移動を開始する。


「きゃっ!」


 そのとき、サトコの小さな悲鳴と共に、黒のトンガリ帽子がフワリと宙を舞った。


「ちょっとサトコ、大丈夫?」


 私がサトコの帽子を拾おうと屈んだ瞬間、「ドン」と背後から強い力が加わった。思わず前のめりに両膝をついてしまう。


 膝をついたまま咄嗟に振り返るが、人並みが流れているだけで特に誰もいない。


「アナタ、大丈夫?」


 急に頭上から声をかけられた。声のした方向に顔を上げると、深緑の膝丈スリムなワンピの下に白のスラックスを着た制服姿の女性が、私の方に右手を差し出している。明るい茶髪を私と同じくらいの肩口で切り揃えており、少し吊り上がった細い目で私に微笑みかけてきた。


「あ、ありがと」


 私がその手をとると、グイッと引き起こされた。その瞬間…


「調子にのるなよ、雌ガキ!」


 耳元で囁くように吐き捨てられた。突然のことに、私の身体が強張った。


「ほら、せっかくの()()()()が台無しじゃない」


 女性が私のローブの膝あたりについていた砂を「パンパン」と払い落とす。


「せいぜい気を付けなさい」


 にこやかな笑顔を残して、颯爽と去っていった。


「てんでガキじゃない!どうしてアインザーム様は、あんなガキに…?」

職業クラスが有用だからでしょ?それ以外に他意はないわよ」

「外套は揃えてるけど、なんでアイツら軍服着てないの?」

「可愛い服着て、男に媚びてるんじゃない?」


 私たちの周りで、様々な制服の数人の女性たちがヒソヒソと囁きあっている。まさかこれって…


「ハルカ…」


 サトコが私の隣に擦り寄ってきた。


「うん…」


 クソー、私たちって完全に被害者だったじゃないのよ!さっきの見てたら分かるでしょーが!


 しかし嫉妬に狂った彼女たちにそんな言い分が通じる訳がない。あーもう!あのヤロー、ホントにただの貧乏神だわっ!


「サトコ、気合い入れるよ。私たちには私たちの戦いが待ってるみたい」


「そうみたいだね」


「女って怖いなー」


「ホント、怖いね」


 私とサトコはクスクスと笑いあった。


 よっしゃ、気合い入れますか!


 ~~~


 私たちは朝礼台のような物の前に、領地ごとに整列させられた。カーキ色のジャケットとズボンを着た、教官のような壮年の衛兵が台の上で挨拶している。要約すると、若者どうしで影響しあい更なる高みを目指して欲しいというモノだ。


 しかし教官よ、もうこの会場は、そんな爽やか演習を行うような空気ではないよ。あなた方の知らないところで欲望渦巻いていますからね…


 私の周りでは、ヒソヒソと女性の囁きで教官の話に集中出来ない。まあ別に、どうしても聞きたいという訳でもないけど…


 3列向こうから心配そうにこちらを見てくるユイナの姿に気が付いた。ああ、そう言えばさっき「アナタたちはもう安全」とか言ってたもんな。イヤイヤそれどころじゃ無くなったよ。まー、アインザームの人気を甘くみすぎたのは確かかもしれないけど…、責任感じなくていいよ。ユイナが味方でいてくれるのは、正直心強いんだから。


 私は小さなガッツポーズをユイナに返した。ユイナはパッと明るく微笑むと、同じくガッツポーズで応えてくれた。


 ふふ、なんだか友達みたい。


 あーそうか!ユイナはコッチで出来た、恋敵じゃない初めての友達なんだ!


 私は前にいるサトコの肩を叩くと、ユイナの場所を指差した。サトコは胸元で小さく手を振って挨拶する。私たち3人は揃って「アハッ」と笑った。


 学校の全校集会は好きじゃなかったけど、今はちょー楽しー!

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