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「なんだい、キミは?彼女たちと、どういう関係だい?」


 アインザームがスッと目を細めてケータを観察する。さっきまで私たちに放っていたチャラけた空気が一変する。


「一緒に住んでんだよ」


 あれ?ケータ、ちょっと怒ってる?なんだか口調というか雰囲気というか、いつもと違う気がする。


 コレってファナの予想通りの展開になってない?こんな状況なのに、なんだかニヤケてしまう。見るとサトコも頬を赤らめて、少し嬉しそうな顔をしてる。


「お兄さんかな?妹たちが心配なのは分かるけど、少し過保護すぎやしないか?」


「兄妹じゃねーよ!」


 ケータがキッパリ言い切った。私は突然の向かい風に吹き抜けられたような衝撃を受けた。


 いや、今は確かにちょっと何時もと事情が違う。ケータは私たちを助けるために敢えて言っただけかもしれない。だけど今この瞬間は、ケータの中で私はひとりの女性なのだ。私は心臓がバクバクした。


「どういう意味だい?」


 アインザームが少しイラつく。


「そういう意味だろ?」


 ケータがアインザームを見上げるように睨みつけた。残念ながら、アインザームはケータより身長が高い。おそらく春日翔と同じくらいはある。だけどそんなことは些細なことだ。そんなことでケータが見劣りする要素にはならない。


「キミ、少し生意気だね。俺が誰だか分かってるのかい?」


「タラシヤローのことなんか知らねーよ」


 睨み合う二人の間にバチバチと火花が散っている。


 やだ、私、今完全にヒロインやってる!あー、なんて気持ちがいいの。待ちに待った展開に心が踊りだしそうだ。クソー、サトコのヤツ、今までこんな気分を味わっていやがったのか!


「こんな冴えない男の何処がいいんだか!」


 アインザームが「ちっ!」と盛大に舌打ちしながら悪態をついた。あ、やっと諦めてくれそうだ。捨て台詞はムカつくけど、これで終わってくれるなら良しとしよう。


「ケータお兄ちゃん、戻るならそう言ってくださいよ。探したじゃないですか」


 ルーが両手に飲み物を抱えながら、パタパタと駆けよってきた。


 場の空気が凍りつく。


「あれ?皆さん、どうかしましたか?」


 私たちの雰囲気に気付いたルーが、不思議そうな顔をする。ルーよ、アンタにしちゃ珍しいほどの間の悪さだよ。


「なんだ、やっぱり兄妹なんじゃないか」


 アインザームが息を吹き返した。


「違うって言ってるでしょ!シツコイのよ、アンタ!」

「そうよ、迷惑なのよ!」


 私とサトコがまくしたてる。


「ハニーたちは少し大人しくしていてくれ。すぐに俺の凄さを教えてあげるから」


 アインザームがウインクでハートを飛ばす。私とサトコは思わず全力でそのハートを避けた。ダメだ、コイツを受け入れられる要素が何処にも見当たらない。


「ただ、俺に舐めた態度をとったお兄さんには、少しお仕置きをしないといけないね」


「オレもイラついてんだ。望むトコロだよ!」


 まさに一触触発。え、ちょっと待って、喧嘩?コレ喧嘩が始まるの?私、ケータが殴り合いなんてするとこ見たことないんだけど…。ていうか、怪我とかして欲しくない。


「そこまでにしておけ」


 突然、大柄な男性がアインザームの背後から現れ、彼の肩に手を置いた。


 黒の角刈りに太い眉。広い肩幅でアインザームより更に身長が高い。190センチメートルはあるだろうか。そして、黒いシシーオ領の軍服を着ていた。


「黙っていてもらおうか、ハイライン。俺は心底腹がたっている」


 アインザームがハイラインを睨みつけた。


「今は止めろと言っている。演習が始まれば、そういう機会もあるだろう」


 アインザームの肩にあるハイラインの手にギリリと力が入る。


「問題を起こして、処罰でもされたらツマランだろう?」


「確かに一理ある。では機会を待つとしよう」


 アインザームはケータに一瞥をくれると、踵を返して去っていった。


「すみません、皆さん。ウチの者が迷惑をかけたみたいで」


 シシーオの制服を着た若い女性がこちらに駆けよってきて頭を下げた。


「あ、ユイナ」


 私は見知った顔に少し安堵した。

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