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 ボクたちがファナの元に呼び出されたのは、シシーオの事件から数日後のことだった。


「ボクら3人で」とのことだったので、家のことはルーに任せてファナの元に向かうことになった。


「よく来てくれた、ケータ殿」


 書斎に入るなり、待ってましたとばかりにファナが立ち上がった。そしてボクの顔色をジロジロと眺めながらニヤニヤした。


「どうやら皆との生活にも慣れてきたようだな」


「お…おかげさまで」


 ボクは軽く赤面しながら、ファナから目線を逸らした。慣れたと言われれば、確かに慣れてきた。相変わらず騒がしい日常を送っているが、それが(悪い傾向かもしれないが)楽しくて心地良い。


 夜もちゃんと眠れるようになった。ただ、寝ている間にサトコの胸元に顔を埋めているのか、ハルカに蹴飛ばされて起こされることも何度かあった。


 ボクは正座でお叱りを受けるのだが、本来被害者であるハズのサトコにフォローされるという不思議な図式が成り立っていた。


 そういうときは決まって、


「そもそもアンタがケータに近すぎなのよ!気付いたら抱きついてるしっ!」


「私だって気をつけてるんだよ?でも無意識なんだから仕方ないじゃない」


 サトコがシレッと言い訳する。


「そう見えないから言ってるんでしょ!」


 ハルカがおツユを撒き散らしながら抗議した。


 ただ…とボクは考える。決してハルカが小さい訳ではないが、サトコの()()()は健全な男子高校生には反則だと思う。まさに夢見心地とでもいうのだろうか、まあ、実際寝てるんだけど…


 そんな朝の騒がしい一幕も、いつのまにか抜け出していたルーの「朝ごはん出来たよ」の一言で収束を迎えるのだ。


「楽しそうで大いに結構」


 そんなボクの内心を瞬時に見抜いたかのように、ファナが愉しそうに笑った。


「何か用事があるんですよね?」


 サトコが警戒しながら言った。また大変なお願いをされるかもしれない、と考えているように見える。


「そうだな、だがとりあえずは情報だ」


「情報、ですか…」


 ファナの言葉にサトコは少し警戒を緩める。


「先日シシーオ領で、敵性勇者の確保に成功したそうだ」


「アイツ、勇者だったの?」


 ハルカが思わず声を張り上げた。それを受けてファナが「ククッ」と笑った。


「やはり君らも関係者か」


「あ…」


 ハルカは焦って口元を押さえた。


「まあ、日程的に考えて予想はついていたよ。それに私の興味はそんなところにはない」


 ファナは悪戯っ子のように笑った。


「どういう意味よ」


 開き直ったようにハルカが声を出した。


「『勇者』という存在に何の疑問も抵抗もないのだな?禁忌の秘術だというのに…」


 ファナがボクら3人を見定めるように順に見た。


 しまった!また、やられた!ボクはファナを睨みつけた。ハルカが蒼い顔で口をつぐむ。サトコはボクの背後に隠れるようにシャツの裾を掴んできた。


 どうしてもファナの手のひらの上から抜け出せない。大人は皆んな()()なのか?それともファナがスゴイのか?


「どうかしたか?」


 ファナが不思議そうな声を出した。


「疑問に感じないんだな、と質問しただけで、特に何も言ったつもりはないのだがな」


 ファナはククッと嗤う。


「まあ雑談はこれくらいにしておこう。本題はこれからだ」


「本題?」


 ボクは敢えて見逃してくれたファナの次の話題に、すかさず乗った。


「ここより西に『オイーヌ家』と『ネッコ家』の2家が合同で治める複合領地がある。先日の火竜の被害も比較的多かったとかで、若い戦力の向上のために、若い兵士を集めて合同演習をしたいと他家に申し出があったのだ」

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