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 私が呆然としたままその場で硬直していると、ルーに口づけされているケータの身体がポーゥと金色の光に包まれた。同時にドクドクと流れ出ていた血液が次第に止まり、徐々に傷口が塞がり始める。


 苦痛に顔を歪めていたケータの表情が、安らぎに変わっていくのが分かった。


「一先ず、もう安心です。癒しの息吹は()()吹き込むと、効果が最大限発揮すると聞いたことがあります」


 ユイナがホッとひと息ついた。


 それを聞いて、私の脳が仕事をし始めた。最初に訪れたのは「良かった」という安堵の気持ち。次いでルーへの感謝の気持ち。


 しかし次の瞬間、ルーの口元がモゾリと動いた。途端にケータが目を見開いて顔中真っ赤になる。


 私は考えるより先に体が動いた。


「ちょっと、ルー!アンタ何やってんの!」


 ふたりに駆け寄ると、ケータからルーを引っ剥がした。その瞬間、ふたりの唇から唾液の糸がツーと延びる。ケータは口元を押さえ、落ち着かない様子でルーを見ていた。


 こ、このエロガキ…、まさか、し…舌を入れたの?


 私は立ち眩みで、目の前が真っ暗になった。


「何って、治療行為ですよ。私情なんてこれっぽっちも挟んでません」


 ルーは素っ恍けた。コイツ、完全にクロだ。


「だ、だったら、そこのオジサンたちにもやってあげてよ!」


「え?フツーに嫌ですけど?」


 私は倒れている3人の衛兵たちを指差すが、なんの躊躇いもなく、いけしゃあしゃあと即座に答えやがった。コイツ、完全に私情しか挟んでいないじゃないのよ!


 その時、サトコがフラフラと、よろけるように歩き始めた。


「よくもケータくんを…。しかも、キスまで…。全部アイツのせいだ…。絶対ユルサナイ…」


 まるで呪詛のように、ブツブツと呟いている。続いて自分のスマホからギンを呼び出すと、膝をついてギンの頭に右手を置いた。


「指示は私が出すから、あの毒虫を氷漬けにして」


 サトコはギンの頭を鷲掴みにすると、強引に自分と目線を合わせた。


「分かってるよね、ギン。しくじったら一晩中ルーと一緒にいてもらうから」


 サトコは光の全く宿っていない、深淵のような瞳でギンを見た。


「分かってるよ、サトコの姐御。だから、それだけは勘弁してくれ」


 ギンは身震いした。この場合、ギンは何に怯えているの?サトコ?それとも、ルー?


 しかしサトコの様子が完全におかしい。コレ絶対に闇堕ちしてる。


「ちょ、ちょっと、サトコ」


 私は恐る恐るサトコに近付いた。その瞬間…


「見つけたっ!」


 サトコが叫んだ。途端に「ギャーッ!」と背後の建物の屋根の上から悲鳴が聞こえた。


 私は咄嗟に振り向いた。


 そこには、両手両足の先からパキパキと凍りつき始める緑肌の小男の姿があった。


「ま、待ってくれ。俺が悪かった、助けてくれ!」


 小男が懸命に命乞いをする。


「赦す訳ないでしょー」


 サトコが真っ暗な瞳で小男を見上げた。口元には笑みをたたえているが、その瞳は恐ろしいまでに笑っていない。その間も氷の侵食は進み、小男の胸元まで凍りついていた。


「サトコ、落ち着いて!これ以上やったら死んじゃうって!」


 しかし私の声はサトコに届かない。ケータに危害を加えたようなゴミ屑とはいえ、こんな形で相手を殺したら、きっとサトコは後で後悔する。だからサトコ、お願いヤメテ!


 そのときケータがスッと現れ、サトコを背後からギュッと抱きしめた。


「大丈夫。ボクはもう大丈夫だから」


 サトコの耳元で囁くように言った。その瞬間、サトコの瞳に光が戻る。


「ケ、ケータ…くん…」


 サトコは気を失うように、ストンと脱力した。ケータはサトコの身体を支えると、お姫さま抱っこで抱きかかえた。羨ましい…


「西門隊のユイナさんが賊を捕まえてくれたぞー」


 ケータが突然、周囲に向かって叫んだ。な、何が始まったの?


「警備隊でも歯が立たなかった相手を、西門隊のユイナさんが捕らえてくれましたー!」


 ルーが察したように、後に続いた。


「ア、アナタたち、一体何を…?」


 当のユイナは完全に困惑している。


 避難をしていた領民たちが声を聞きつけ集まりだし、徐々に歓声が起こり始めた。


「こんなモノで足りるか分からないけど、今日一日のお礼だよ」


 戸惑うユイナに、ケータは無邪気な笑顔を向けた。

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