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 実は私は知っている。


 私たちが本当の兄妹ではないことを。


 この私が、大切な人との運命の出逢いを忘れることなど、ある筈がない。


 私の名前は「新島春香」


 この春から、恵太と同じ学校に通う高校1年生。


 学力、品格ともに磨きに磨いた。容姿は幸い、両親から良いものを授かっている。運動は「好きだけど苦手」風を装うことにする。


 これ全て「恵太の気を惹く」という至高の目的があったからこそ。


 私ほどの完璧美少女、こちらから告白すれば断る相手などいる筈がない。


 しかしある時気が付いた。唯一恵太だけは「兄」を理由に、私の告白を断るだろうことに。


 だから私は「恵太から告白される」方向にプランをシフトした。


 恵太の心の中を「私」という存在で埋め尽くすのだ。


 しかし、ここでまた別の問題が発生した。


「春日翔」である。


 コイツは(上手に隠してはいるが)私に恋をしている。それ自体は特に問題はない。コイツの厄介なところは、その頭の良さだ。


 私は「異性の匂い」を全く纏っていない。だから私に好意を持つ男子は私自身にアプローチをかけ、そして散っていく。


 しかしコイツは、私自身にアプローチをかけてこない。()()()()()()()()ことが出来ない。逆に私の急所を的確に見抜き、そこを執拗に攻めてくるのだ。


 すなわち、恵太に事あるごとに私を「妹」だと喧伝し、そのうえ彼女を作るように誘導する。


 実際、恵太はそこそこモテる。女の自尊心を損なわない程度に妥協出来る存在として。


 全く、私の恵太を何だと思っているんだ!


 だから私は私自身を恵太を守る結界とすることにした。言い寄る女子が自分と私を見比べて尻込みするように。


 これぞ必殺の「妹結界」である。


 実際、この結界は効果が高かった。恵太に「自分はモテない」と誤解させるくらいには。


 私にとって、この「恵太の誤解」は予想外の副産物であった。これに伴い、私の結界の唯一の弱点である「恵太からの告白」という行動を未然に防ぐことに成功したのだ。


 しかし、春日翔がこのまま黙っている筈がない。油断は禁物である。


 私は日課のお弁当を持って恵太の教室に向かった。恵太の座席は窓から2列目の一番後ろ。居なくていいのに春日翔も一緒だ。ふたりで何やら話し込んでいる。


「本当だって。なんなら俺から見て脈のありそうな女子を教えてやろうか?」


 コイツ…!とうとう直接的な行動に出始めやがった。恵太も健全な思春期の男子高校生だ。異性に興味は当然ある。これはマズイ!


「なんのお話しをしてるんですか?」


 私は直ぐさま会話に割り込む。恵太は私に気付き、焦った表情で私の名を呼んだ。


「いや、別になんでもないよ」


 恵太はそう言うが、少し伸びた鼻の下が「なんでもあった」ことを証明している。


 しかしここで反論する訳にもいかないので、私は「そう?」と渋々笑顔を作った。それから当初の目的であるお弁当を差し出した。


「恵太、お弁当持ってきたよ。一緒に食べよ」


 しかし春日翔が、私の言葉にめざとく反応した。


「オマエ、まだ妹に呼び捨てにさせてるのか?ここは兄の威厳として…」


 コイツ、本当に邪魔。私は春日翔の言葉を遮った。


「もう慣れちゃったし、今さらだよねー」


「ま、まーな」


 恵太は私の勢いに押され気味に頷いた。


「少し静かにしてくれない?」


 その時、恵太の隣の席の「真中聡子」さんが迷惑そうに注意してきた。確かに少しウルサかったかも。


「あ、悪い」


 恵太がすぐに謝ってくれた。しかし、そんな恵太の様子がおかしい。視線が真中聡子さんを見ていない。私もつられて窓の外を見た。


 異変に気付いた私は、咄嗟に恵太の背中に手を伸ばした。

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