３６
ルーよ、アンタは目醒めさせてはいけなかったモノを目醒めさせてしまったみたいよ。敵に塩を送ったことを、タップリ後悔するがいい。
なんて大それたこと考えてたけど、出来ないことが急に出来るようになる訳なんてないじゃない！
あー、穴があったら入りたい。
私は夕食の準備をしている時に、自分の力の無さを痛感した。とにかくオロオロするだけで、次に何をしたらいいのか分からない。
しかも腹立たしいことに、サトコはちゃんと出来てるのだ。なんでも両親が共働きだったとかで、一通りの家事はこなせるらしい。
お母さん、なんで専業主婦なんてやってたんだよ！バカヤロー！
私は自主退場し、食卓の席で頬杖をつきながらサトコとルーを眺めていた。
「ケータくん、味見してもらっていいかな？」
「あ、ああ」
あのクソアマー、味見なんて自分でしたらいいものを、わざわざケータにさせるなんて、ケータ好みの味付けにしたいのがバレバレなんだよ！
……当のケータ以外には。
ここのキッチンはカウンター越しにダイニングと対面になっている。ケータはカウンター越しにサトコに近付いていった。
「はい、アーン」
サトコはスプーンで掬った煮物をケータに差し出した。
「え…？」
「ちょちょ、サトコ！味見だったら私がやろうか？」
背後からでも、ケータの照れた表情が手に取るように分かる。こんな横暴見過ごせるか！私は焦って立ち上がったが、時すでに遅し。サトコは半ば強引にケータの口にスプーンを押し込んでいた。
「大丈夫よ、ハルカ。ケータくんにやってもらったから」
サトコがニッコリ笑ってきた。「そこで大人しく見とけ」てオーラがヒシヒシと伝わってくる。
「あ、コレ旨い！」
「ホント？嬉しー！」
サトコが頬を赤く染めて喜んだ。
「ケ、ケータお兄ちゃん！コッチも味見してみて」
ルーまで便乗してきやがった。コイツらホントいい加減にせーよ！
「ルーが味付け失敗する訳ないじゃない。ね、ケータくん！」
サトコの牽制にケータが頷いた。
「ルーは料理上手だからな。楽しみだよ」
「そ、そう？じゃ、楽しみにしてて」
ルーはガックリ肩を落とすと「ガルル」とサトコを睨みつけた。
私のいない場所で「女の戦い」を繰り広げやがって…ホント、ムカつく。しかし、ここで焦って場を乱して空回りするのは昔の私。
しかし今のニュー私は、ひと味違う。出来ること、出来ないことを整理して、出来ることで勝負する。
とはいえ、胃袋は重要だ！サトコとルーに負けっぱなしではいられない。
「明日の朝食は、私が作るから楽しみにしてて」
席に戻ってきたケータに、ニッコリと笑いかけた。
「お、ホントか？だったら久々にアレ作ってくれよ」
「ああ、アレね！」
確か卵はあったハズ…。私は冷蔵庫の方に目を向けた。その時サトコとルーから、物凄く悔しそうな視線が注がれているのに気が付いた。
私は勝ち誇った笑みで応えた。
そう、コレが私とアンタたちとの差よ！育んできた時間が違うんだから！
「任せて！とびっきりのを作ってあげる！」
「おう、頼むな」
ケータがニカッと笑ってくれた。くー、ヤル気出るー！絶対美味しいの、作ってあげるからね。
