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 私たちはファナさんと別れると、一旦自宅に向かった。


 昨日はなんだかバタバタしていて、家の片付けが全く済んでいない。ファナさんの依頼に向かうと、どのくらいで戻れるのか分からないので、先に片付けてから行くことにした。


「あ、おかえりなさい、ケータお兄ちゃん」


 玄関を入ると、パタパタとエプロン姿のルーが駆けよってきた。いつの間に来ていたのか、部屋の片付けが進んでいる。料理の腕前といい、地味に優秀だな、コイツ。


「ケータお兄ちゃん、上着預かるね」


 ルーがケータに向けて両手を差し出した。


 な、なんだ、この新妻感!ピョコンと揺れるツインテールのエプロン姿が、さらに破壊力を高めている。これはかなりヤバイ!


「あ、ああ、サンキュ」


 案の定、ケータは顔を真っ赤にして照れている。


 な…何か早急に手を打たなければ!


「ケータくん、コッチに背中向けて」


「んあ?」


 サトコは戸惑うケータの肩に手をかけると、クイっとケータの向きを変えた。それから背後からケータの制服のブレザーを脱がせると、自分も脱いで2枚まとめてルーに渡した。


「お願いね、ルー」


 な、なんだ、この正妻感は!三つ編みを整える振りをして見せつける白いうなじに余裕すら感じる。


 受け取ったルーは「ガルル」とサトコを睨みつけるが、サトコは何処吹く風。


「さ、入りましょ、ケータくん」


 サトコはケータの左手をさりげなくとり、微笑みかけた。


「お、おう」


 ケータは瞬間湯沸かし器のように一瞬で真っ赤になり、頭から「ボンッ」と湯気を吹いた。


 マズイ、私ひとり、完全に出遅れた。


 しかし一体どうなってるんだ。コッチの世界の方が私には都合が良かったんじゃないの!私自分でカッコいいこと言ってたよね?


 なのになんだ、この状況は?


 コッチに来なければ、サトコもルーもいなかったじゃないのよ!


 ち、違うよね?私、モブじゃないよね?


 私がヒロインだよね、そうだよね?ね、ね?


 ~~~


 サトコとケータがリビングのソファに腰掛けたので、私もサトコの反対側に陣取る。このソファ、まあまあ大きくて、3人くらいなら余裕で座れる。


 私たちが座ったのを確認して、ルーがお茶を運んできた。あーしまった、いつもだったら、ちゃんと気付くのに…


「あれ、3つだけ?」


 テーブルに並べられたお茶を見て、ケータがルーの顔を見た。


「私はまだ、片付けが残ってるから」


 ルーはにこやかに笑って去っていく。


「そ、そう…」


 ケータはルーの後ろ姿を追うように、視線を動かしていた。


「手伝うよ」


 私は自分のお茶を一気に飲み干すと、コップを持ってルーを追いかけた。


「どうしたんですか?ケータお兄ちゃんと一緒にいなくていいんですか?」


 ルーが口元に手を当て、私に「ニシシ」と笑いかけた。


「ちょっと自己嫌悪中…。私、口ばっかりで何も出来ない」


 何言ってんだ、私。こんなことルーに言っても仕方ないのに…


「ハルカさんは『策士』タイプですからね、サトコさんとは相性悪いと思いますよ」


「え?」


 私はポカンとしてルーを見た。


「ハルカさんは今まで、こんな殴り合いになる前に決着つけてきたんでしょう?なんとなく分かります」


 え?え?急に一体なに?


「逆にサトコさんは、たぶん恋愛経験がほとんどない。だから根回しなんて考えずに、目の前のことに一点集中。そんなサトコさんのフィールドで戦う限り、ハルカさんに勝ち目はありませんよ」


 なんなのよ、この子。えーと、年下だよね?


「ハルカさんは、ハルカさんのフィールドを見つけないと」


「そ、そういうアンタはどうなのよ?」


 こんな敵に塩を送るような真似をして。


「ご心配なく。伊達にファナさまに鍛えられていませんから」


 ルーは「フフン」と笑った。下から見上げているクセに、やけに上から目線だ。でも多分きっとそう。私は格下なんだ。


「でも今回のハルカさんの行動は正解でしたね」


「え?」


「彼女、根は良い人ですから、こんな時に抜け駆けとか出来ないハズですよ」


 ルーはニヤッと笑った。


「あ、あの、私も手伝います」


 サトコが立ち上がった。


 そんなサトコの姿を見ながら、ルーが「ホラね」と微笑んだ。

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