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「ファナさま!ケータお兄ちゃんたちに夕食をご馳走してもよろしいでしょうか?」
ルーがボクの腕を掴みながら提案した。
「ああ、構わない。ルーを助けてもらった礼だ。存分に振る舞うがいい」
「はいっ!」
ルーは頬を赤く染めながら、嬉しそうに笑った。
「君たちには客間を二部屋用意しよう。今晩は泊まっていってくれ」
ファナがボクたちに笑いかけた。
無一文には大変助かる提案だ。ボクは迷わず好意を受け取った。
「それじゃ、一先ず部屋に向かいましょ!」
ハルカがボクの腕に組みついてきた。
「え?」
「ちょっと、待ちなさい!」
戸惑うボクに被せるように、サトコが声を張り上げた。
「何でそうなるのよ!」
「だって…コレ以外にある?」
ハルカがニヤリと嗤った。
「まさかクラスメイトが同じ部屋に泊まるとか、あり得ないよね?」
「く……」
サトコが押し黙る。
あれ?本当にコレ以外にないのか?普通に男女に分かれたらいいんじゃないか?ボクがオカシイのか?
ボクは目がグルグル回って、考えがまとまらない。
「クク…、アーハッハッハーー」
突然ファナが笑いだした。
「君たち面白い!気に入った」
ボクたち3人は、呆気にとられてファナを見た。
「来客があるのを忘れていたよ。客間は使えない」
「ええ?」
嘘だ、せっかくの無料宿泊が…。ボクはガックリ落ち込んだ。
「小さいが、今は使っていない離れが一軒ある。そこを自由に使うといい」
「ほ、本当ですか?」
続いたファナの言葉にボクは目を輝かせて反応した。
「ああ、君たちが望むなら、いつまでも居てくれて構わない」
「おお、ありがとうございます!」
ボクは何度もファナに頭を下げた。
「やった!」
サトコは小さくガッツポーズをしている。
「まあ別に、私はどっちでも…」
ハルカはやや不服そうな表情をしていたが、それでもやっぱり嬉しそうだった。
「ケータ殿、存分に愉しむがいい」
ファナがボクに、どこか悪戯っ子のような笑顔を見せた。
「は、はあ」
ボクは意味を図りあぐねて、曖昧に返事をした。
「あの、ファナさま」
ルーが少し躊躇いがちにファナを呼んだ。
「あの、その…私…」
ルーは顔を伏せてモジモジしていた。
「ああ、そうか。行きたい場所が出来たのだな」
ファナが笑った。
「私は本当にファナさまに感謝しています。だけど…!」
「ああ、分かっている。例えルーが何処にいても、私とルーの関係が壊れること決してない。安心してお仕えするがいい」
「は、はい!ありがとうございます」
その時、部屋の扉が勢いよく開き、4人の子どもたちが倒れ込んできた。しかし直ぐさま立ち上がり、全員がルーに群がっていく。
「おめでとう!」
「おめでとう、ルー」
「皆んな、ありがとう」
5人の子どもたちは、涙を流しながら抱き合っている。ボクたちは完全に取り残された。
「ケータ殿、ルーは風の精霊に好かれている。家事も含めて、何でも卒なくこなすだろう。きっと君たちの力になる筈だ」
ファナが優しい瞳でルーのことを見つめていた。
コレって、ルーをボクらが引き取る流れなんだろうな…。ボクはハルカとサトコの顔を見た。ふたりもお手上げ状態で作り笑いをしている。
この流れに「否」を唱えられる「勇者」は、ボクらの中には居なかった。




