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 その晩。


 私が眠れぬ夜を過ごしたのは、今日が大事な作戦の決行日だからという理由だけでは決してなかった。


 私たちは朝食を済ませたあと、王都に向けて出発した。私が思ったより元気なことに、アリスと春日翔が少し驚いていた。


 移動は、さすがに徒歩じゃないとは思ってたけど、ホロに覆われただけの質素な馬車だった。


 女王さまと他の殆どの人は、昨夜のうちに先に帰ったみたい。今ここにいるのは、私と春日翔、アリスと三賢者に、それからメイドさんがひとり。馬車は三賢者のひとりが操っていた。


「お姫さまでも、こんな感じの馬車なんだね」


 私はアリスに素朴な疑問を投げかけた。


「今回の出征は内密のことでしたので、王宮の馬車を使うことが出来なかったのです。勇者さまをお迎えするには相応しくなかったですね」


 アリスが頭を下げた。


「わあ、違う!そういう意味じゃないよ!」


 私は慌てた。


「俺たちの世界では、お姫さまといえば、もっと豪華なカボチャの馬車に乗ってるモノなんですよ」


 春日翔が「ククッ」と笑った。


 アンタ、冗談言う相手はもっと考えないと、異世界の人に伝わる訳がないでしょーが!…助かったけど…


「はあ、カボチャ…ですか」


 案の定、アリスが不思議そうな顔をしてるじゃない。


「アリス、信じちゃダメよ!そういう物語があるってだけなんだから」


 私の言葉を聞いて、アリスはハッと顔を上げた。


「ああ、なるほど。そうでしたか」


 それからアリスは、頬を赤らめながら春日翔の方を見た。


「ショウでも冗談を言ったりするのですね」


 アリスはハニカミながら俯いた。冗談を言ってもらえたことが相当嬉しいみたい。


 春日翔のことは、アリスに任せておけばきっと大丈夫。私は後方に流れていく外の景色を眺めながら、そんなことを考えていた。


 ~~~


「うわぁああーー!」


 突然、馬車を操っていた三賢者のひとりが絶叫した。何事?と考える暇もなく、物凄い風圧を受けて馬車が横転した。私たちは、馬車の中で転げ回る。


 なんとか馬車から這いだして、周りの状況を確認した。すると上空からバサバサと、翼の羽ばたく音がする。私は誘われるように空を見上げた。


 そこにいたのは、正に「絶望」だった。ケータたちが感じた恐怖が手に取るように分かる。


 初めて見る「原寸大」のカリュー。演技と分かっていても感じる、歴然とした力の差。


 あのふたりは「アレ」に本当に勝ったの?だとしたら、どう考えてもアッチの方が「チート」でしょうが!


「逃げてーーー!」


 私は喉も張り裂けんばかりに叫んだ。


「春香ちゃん、早く!」


 春日翔が私に手を差し出す。


「私は大丈夫。アリスをお願い!」


 春日翔は一瞬躊躇ったが、「分かった」と頷いた。


 その直後、カリューが私の背後に舞い降りた。私は振り返ってカリューを見上げた。裂けた口から炎が漏れ出している。


 演技じゃなかったら、絶対粗相してる自信がある。


「私に構わずに行ってーー!」


 私は皆んなに向かって再び叫んだ。


 それが合図であったかのように、カリューが私に向かって炎のブレスを噴いた。


 その瞬間、私の周りに突然、背の高い草が生い茂っていた。…違う、私が縮んだんだ!


 私とアリスたちの間には、カリューのブレスによって炎の海が出来ている。向こうから見たら、私が一瞬で燃え尽きたように見えたことだろう。


「は、春香ーー!」


 春日翔の絶叫が私の耳にも届いた。


 アンタのことは好きじゃ無かったけど、アンタとの駆け引きは嫌いじゃ無かったよ。


 アリス、春日翔のことお願いね。私とは合わなかっただけで、文句なく良い男だから。


 ふたりはお似合いだよ!


 カリューは私の身体を優しく掴み上げると、颯爽と空に舞い上がっていった。

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