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「ケータくん、春香さんも一緒に連れて行こう。この調子だと、置いていったら、きっと飛び出してくるよ。その方が危険だもの」
真中聡子さんのこの提案で、恵太は私の同行を渋々承諾した。助かったけど、一体どういうつもり?
「あの、ありがとう、真中さん」
「気にしないで、私にとっても妹みないなものなんだから」
真中聡子さんは私に向かって、ニッコリ笑った。
この人、恵太なら普通に聞き流すレベルだけど、私に対してかなり攻めたことを言った!
「真中さん。私も『サトコ』て呼んでいいかな?」
妹ポジションは死んでもゴメンだ!
「私は『お姉ちゃん』でもいいんだけど?私、一人っ子だから、妹とか憧れる」
くー、グイグイ攻めてくる。同性と正面切って戦うのは初めてだ。女が恐ろしいというのは本当だった。昨日まで無警戒だった相手に、こうまで圧されるとは。
「いえ、それはちょっと…」
「冗談よ。『サトコ』でいいよ、ハルカさん」
「なら私のことも『ハルカ』でいいよ」
「分かった、よろしくね、ハルカ」
それから私たちは、ニッコリ微笑んだ。
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「一緒に逃げるにしても、今はハルカを連れて行けないよ」
サトコが不穏なことを言った。
「な、なんで?」
「だって、『聖女』がいなくなったら、この国の人、絶対探すでしょ?」
「う…」
確かに。
「だから、逃げるにしても一芝居打たないと」
サトコの言うことは、確かに正論だ。アリスたちが「聖女」を簡単に手放す筈がない。
「ハルカは敷地の外に出られないの?」
「あ、明日王都に移動するから、その時なら!」
「なら、そうしましょう。明日もう一度、ハルカを迎えに来ます」
「……」
イヤな予感がする。本当に来てくれるの?私はジト目でサトコを睨んだ。それに気付いたサトコがクスッと笑った。
「大丈夫よ。ハルカはケータくんの妹なんだもの。ちゃんと助けるよ!」
そうか!私個人に思うところがあったとしても、ケータに悪い印象を与える訳にはいかない。この契約は必ず実行される。ちょっと複雑な気分だけど…
それから私たちは、明日の作戦を詳細に練った。
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「それじゃハルカ、そこ動くなよ」
明日の作戦に必要なので、ケータのスマホで私の写真を撮ることになった。ちょっと、いや、かなりドキドキする。大丈夫かな、髪の毛はねたりしてないかな?
「あれ?フレームにハルカが映らない」
「あ!」
ケータの驚いた声で、私は思い出した。
「きっと、このローブのせいだ」
私は自分のスマホを操作して、スキルのアプリを終了させる。途端に、元の学校制服姿に戻った。
「どういう意味?」
ケータが不思議そうに尋ねてきた。
「『純白のローブ』のスキルなの」
私は「聖女」のスキルについて説明した。
聖女
衣装スキル:魔法及びスキルの対象にならない
職業スキル:結界術(自身及び任意の相手に身を護る結界を張る)
私のスキルが「結界術」というのが、自分でもちょっと笑ってしまったんだけど。
「はー」
説明を聞いたケータが関心した声を出した。
「やっぱ、レアモノはチートだなー。弱点の物理系も、自分で護れるのか」
ケータは私を写真に撮ると、私を見上げてきた。
「あとは翔にも、この事を伝えないとな」
「アイツはダメ!」
私は即座に反応した。春日翔には悪いけど、この機会に邪魔者は排除させてもらう。
「春日さんは『聖騎士』として女王に気に入られてるから、告げ口するかもしれない」
私の言葉にケータは困惑する。
「翔がそんなことするとは思えないけど…」
「ケータくん、私も春日くんを信じたいけど、リスクは少しでも減らさないと」
サトコが助け船を出してくれた。邪魔者を混ぜたくないのは、どうやら一緒のようだ。
「仕方ない、分かったよ。それじゃハルカ、また明日」
ケータがカリューの背にまたがった。
「心配しないで、ハルカ。もし目覚ましが鳴らなくても、私がケータくんをちゃんと起こすから」
サトコがなんだか妖しく笑った。
「ちょ、ちょっと!ケータたち今晩どうするつもり?」
私は焦った。
「それが問題だよなー」
「大丈夫よ。私はケータくんと一緒なら、一晩くらい野宿でも」
「それしかないかー」
「ちょ、ちょっと待っ…」
私の言葉を最後まで聞かずに、カリューが舞い上がった。
「明日、必ず迎えに行くから!」
ケータの声を残し、カリューが飛び去っていく。
「ちょっと待ちなさいよーーー!」
私の叫びが夜空に虚しく響き渡った。




