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「そういえば、真中さんは?彼女も大丈夫なの?」


 私は一応、最強の刺客のことも心配した。死なれるとさすがに悲しいし、寝覚めも悪い。


「大丈夫、無事だよ。まな…サトコ!」


 サトコ?私の頬がピクリと跳ねた。


 恵太はバルコニーから屋根の上を見上げた。この洋館は二階建てで、この部屋は二階にある。だからすぐ上は屋根なんだけど…


 すると、翼が羽ばたくような音をさせながら、何かがバルコニーに降りてきた。


 紅い大きな犬の様にも見えるけど、翼が生えてる。


 その背中に、やはり15センチメートル程の大きさの真中聡子さんの姿があった。


 何からツッコんだらいいのか分からない。まさに開いた口が塞がらない。しかし、一番重要なことから聞かなくてはならない。


「驚いただろうけど、コイツ、ボクらを襲ってきた火竜なんだ。それをサトコのスキルで…」


「サトコ、サトコ、て随分仲がいいのね?」


 私は恵太の言葉を遮って、最重要事項を議題にあげた。


「は?」


 恵太は想定外の質問に面食らったようだった。


「私たち、クラスメイトよ。仲が良くて普通じゃない?」


 しかし間髪いれず、真中聡子さんが私の質問に答えた。どうやらこの流れを想定していたようだ。


 ピンときた。


 恵太から真中聡子さんを呼び捨てにするなんて、ちょっと考えられない。たぶん私に会うにあたって、名前呼びを条件に出したんだ。


 天然だった頃の真中聡子さんは、もういない。つまり、これは…


「真中さん、ちょっと見ない間にスゴく変わりましたね」


 宣戦布告だ!


「そうかな?自分では分からないけど」


 私と真中聡子さんは顔を見合わせたまま、お互い微笑みあった。


 ~~~


「春香、悪いんだけど、ボクらはここに戻らない」


 私と真中聡子さんからの謎の圧力に圧されていた恵太が、突然そんなことを言い出した。


「え?ど、どうしてよ?」


「ここの人たちは、ボクらのことを良く思ってないように思うんだけど…?」


「あ…」


 私はちょっと言葉に詰まった。コレが失敗だった。


「やっぱり、か」


「あ、でもでも、アリスは違うよ!」


「アリス?」


「最初に会った、あの若い女の人だよ。彼女、この国のお姫さまなんだよ。だからきっとなんとかしてくれる!」


「でも、そのアリスがいても、ボクらはこんな目に合ったんだよね?ここにいたら、またいつこんな目に合うか分からない。だから…」


 恵太は真中聡子さんと頷き合った。


「ボクらはここを出て行く。決めたんだ」


「だったら、私もついてく」


「ダ、ダメだ!春香は『聖女』としてこの国での優遇を約束されてる。こんな危険なことに巻き込めない!」


 恵太の言いたいことは分かる。だけど、もうダメだ。この気持ちを抑えられない。


「例えこの世の全てを手に入れたとしても、恵太、アナタのいない人生なんて、私には何の価値もないの。だからお願い、私をひとりにしないで」


 言い終わると同時に涙が零れた。私は咄嗟に顔を伏せて両手で覆った。


「春香、もしかして、ボクのこと…」


 恵太の震える声が私の耳に届いた。私はバッと顔を上げた。もしかして、伝わった?伝わったの?


「兄想いのいい妹さんね、ケータくん」


「へ…?」


 真中聡子さんの言葉に、恵太は一瞬ポカンとした。


「ち、違…」

「あー…そうだよ、そうだよな、アハハ」


 私は反論しようとしたが、恵太に遮られた。自分の勘違いの照れ隠しをしているように見える。いや、勘違いじゃないよ。勘違いじゃないんだよー!


 真中聡子め(このアマー)、私の一世一代の告白をたったの一言で片付けやがった。


 絶対負けられない。恵太は絶対渡せない。私の恨みの視線を、真中聡子さんは指先でピンと弾くのだった。

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