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そのときボクのスマホからまばゆい光が溢れ出し、辺り一面を包み込んだ。あまりの眩しさに、思わず目を閉じてしまう。
「次元震を感じて来てみれば、あまりいい状況じゃないですね」
まだ光も収まらないなか、少女の声が耳に届く。
やっと光も収まりそっと目を開けると、漆黒の長髪を耳の後ろでツインテールにした、肩の開いたメイド服姿の少女が立っていた。
2メートルはありそうな真っ白な魔法杖をお尻の後ろで両手に持って、やや前屈み気味にボクに笑顔を向けている。
「ケータさん、ここで私を呼ばないで、いつ呼ぶつもりですか?」
「ベ…ベル!?」
ボクは思わず声を張り上げた。なんでベルが突然現れたんだ?
「いやーこんな事もあろうかと、ケータさんのスマホ越しに見守っててよかったですよ」
ベルが満面の笑みで「うんうん」頷く。
「アンタそれ、盗撮ストーカーと紙一重だから!」
ハルカがボクとベルの間に身体を割り込ませると、「ギロリ」とベルを睨みつけた。
「そんな、ストーカーだなんてっ」
ベルが身をくねらせながら「フフッ」と笑う。
「ケータさんのコトを想えばこそですよ!」
なんか弁解の仕方がほんとーにストーカーっぽい。ボクは思わず苦笑いになる。そのとき背後から「クイッ」と腕を引っ張られた。
振り向くとサトコの笑顔がそこにあった。口元しか笑っていない。まるでアルカイックスマイルというやつだ。
「本当にケータくんが、自分で呼んだんじゃないの?」
「違う、呼んでない。というかスッカリ忘れてた」
ボクは首を「ブンブン」何度も横に振った。
「ホントに?」
続いて今度は、何度も首を縦に振る。なんでサトコの笑顔はこんなに圧が強いんだ?
「で、コレは一体どういう状況なんだ?」
ショウが周りを見回しながら声を出した。それで初めて気が付いた。周りの景色に色が無い。ボクら以外がモノクロの世界だった。
「この辺一帯を隔離したの。今は刹那が永遠に感じるような状態よ」
信じられないくらい凄いコトを、ベルが事もなげに言った。次元が違いすぎて「あっそー」と逆に納得してしまう。
「やっぱりコレは『異界の門』なんですね?」
「そうだね」
アリスの呟きにベルが頷く。そこにルーが続けるように被せてきた。
「何処に繋がってるんですか?」
「バッチリ魔界ね。というか彼のスキルは過去のトレースだから、自動的にそうなったのかな?」
蒼い顔のルーに対し、ベルが緩い感じで答えた。
「え…じゃあ、この国も滅ぶのか!?」
以前にハルカに教えてもらった、ひとりの勇者のスキルの話を思い出した。
「このままならね」
ベルがハルカを押し退け、ボクの真正面に立った。
「だから、私が来たの」
「なんとかなるのか?」
「対価次第だね」
そこで「ハッ」と思い出す。そーいえば、そんな事を言ってたな。
「アンタこんな時にジョーダン言ってんじゃないわよ!出来るならやりなさいよ!」
ハルカがベルの頭を鷲掴みにする。
「コレ程強大なスキル、私一人の力で無効になんて出来ないわよ!」
ベルが「ググッ」と頭を動かし、ハルカのことを睨み上げた。
「分かったよ、ベル。何が必要なんだ?」
ボクは左腕を使ってハルカを退がらせると、屈んで目線をベルに合わせた。
「魂一人分」
ベルは「ジュルリ」と舌舐めずりすると、闇ベルのときの様に愉しそうに笑った。




