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 私たちを乗せたカリューが雲の上まで一気に上昇したところで、ケータが原寸大に拡大する。カリューはそれを確認するように一度宙返りを行うと、翼を一杯に広げて真っ直ぐ北東を目指した。


 反逆魔術士たちのいる辺境はボーダー連峰の東端の向こう側、つまりは魔界側にあるらしい。魔界と言っても端っこだから、瘴気の濃度は比較的低めで何とか人間でも住める場所のようだ。


 カリューの速度を以ってしても、1時間はかかりそうな距離である。


 ルーはその時間を使って、アリスに隠密勇者が使った精霊魔法のことを相談した。


「バラスが精霊魔法を?」


 アリスが心底驚いた声を出した。ほうほう、あの勇者、バラスて名前なのか…


「普通では考えられません」


「生命と引き換えに発動するスキルとかがあったのかもな」


 ショウが考え込むように呟いた。生命と引き換え…そういえば「道連れにしてやる」とか何とか言ってたかもしれない。


「ショウ、何か知ってるのですか?」


「いや…ただあのバラスが、諦めて自殺をするとは到底思えない。何らかの最期の手段があったのかもしれない」


「…かもしれませんね」


 アリスが頷いた。


「それにしても…」


 そこでショウが、私とサトコの顔を見ながら少し蒼い顔になった。


「俺の知らないところで、そんなギリギリの戦いがあったんだな」


 頭の上に「地獄の蓋」が開いてたことに、流石のショウも肝を冷やしたみたい。好い気味!と笑ってやりたいが、今回ばかりはホントにそんな場合ではなかったのでヤメといた。


 ~~~


「お出迎えだ」


 シシーオ領も越えてボーダー連峰の上空に差し掛かったころ、カリューがコチラに振り向いた。


 前方に目を向けると、数十の黒い影が進路を塞いでいた。背中に翼の生えた人間のように見える。


「ホークマンだな」


「ホークマン?」


 カリューが付け加えたのをサトコが繰り返した。言葉の意味をそのまま受け取ると「鷹人間」かな?


「鷹の顔した人型の魔物だよ」


 サトコの右肩に座っているシルフが「うーん」と伸びをしながら答えた。ホントにそのままかい!と内心ツッコムが、まあそれは当然か。魔物が自分で名乗る訳がないんだから、人間こっちが後から名付けたんだろな。


「どうやらカリューで来るとバレてたみたいです」


 ルーが緊張した面持ちで呟く。あ、そうか!コレっていわゆる待ち伏せ…ここから来るって分かってないと出来ない。


「我を相手に、あの程度で足りると…?」


 その言葉を受けてカリューが苛立った声を出した。コッチにも苛立ちがビリビリと伝わってくる。カリューさん、ちょっと怖いよ…


「逆だ、アレだけしか出せないんだ」


「そうですね、これで仮説が実証されました」


 ショウとアリスが頷き合った。なるほど、そう言われれば、そうかもしれない。


「いずれにせよ、我の敵ではない」


 カリューは「バサッ」とホバリング態勢に入ると、勢いよくブレスを噴いた。


 ~~~


 そこにあったのは、私たちが初めて召喚された場所のような、洋風の館だった。おそらく昔は魔術の研究施設かなんかだったのだろう。


 ケータはカリューを10分の1サイズに縮小し、サトコはギンも呼び出す。


 皆んなそれぞれスキルを発動し戦闘態勢に入ると、ショウが先頭で館の玄関扉を「ギィー」と開けた。


 館の中はボロボロで人が住んでるとは思えなかったけど、玄関ホールの真ん中に比較的新しい地下への階段が口を開いていた。


地下した…か」


 ショウがウンザリした顔で呟いた。

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