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ッテ…」


 ケータがタタラを踏んで2、3歩よろける。赤く腫れた頬を押さえながら、放心状態になった。


 私は固唾を飲んだ。お願い、目を覚まして…


 しかしそのとき、地面にめり込んでいたトライメテオがフワリと浮き上がった。


 その瞬間、矢のように突っ込んできたカリューが私のローブの襟元を咥えると、強引に振り回した。


「うわわっっ」


 私は遠心力で数歩走ると、足がもつれて「ずべしゃ」と盛大にヘッドスライディングする。そのとき「ドゴン」という轟音とともに、さっきまで私がいた場所にトライメテオがめり込んでいた。


「ウソ…」


 私はうつ伏せのまま顔をあげる。顔の体温が一瞬で冷えていくのが分かった。冷や汗が頬を伝って地面に落ちる。


「だから、ムダだって!」


 ベルが手のひらで口元を押さえながら「キャハハ」と笑った。


「なんで、なんでよぉ…ケーたぁあ」


 私は涙が溢れた。次から次へと頬を伝い、地面を濡らしていく。


「おい、恵太!オマエ、とうとう春香ちゃん泣かせたな!」


 春日翔が腹の底から響くような声を出した。


「オマエのエロ本の隠し場所、春香ちゃんにバラしてやる!覚悟しろよ!」


「ちょっ…待てよ、翔!それは協定違反だろ!」


 ケータが慌てて駆け寄り、春日翔の胸ぐらを掴む。


「は?」

「え?」


 ベルを含む全ての女性陣の目がまん丸になった。


「いいや、赦さねー。絶対バラす!」


「頼むよ、翔。ホント勘弁してくれ!」


「えええーー!」


 私は仰天して絶叫した。一瞬で涙が引っ込んだ。


「ケータ、エロ本持ってるのー?」


 ~~~


 私は実家にいた頃、ケータの部屋を好意で(こっそり)片付けてあげたりしてた。だけど、そういうのを見つけたことは無かったので、ケータは持ってないと思ってた。


「そりゃ持ってるよ!男子高校生舐めんなよ!」


「え、だけど…」


 春日翔の言葉に、私はそこで口ごもる。勝手に入ってたなんて、さすがに言う訳には行かない。


「恵太に相談されたんだよ。春香ちゃんが時々部屋の掃除をしてくれるのは助かるけど、バレたらヤバいから隠し場所考えてくれって」


「うへっ?」


 私は顔中に血液が集まるのを自覚した。コイツ、今何て言った?


「お前、もう黙れ!」


 ケータが春日翔の胸ぐらを掴んだまま、グラグラと揺さぶる。


「ちょ…ちょっと待って!」


 何がなんだか分からない。キツイ目眩に襲われる。


「ケータ、ひょっとして気付いてたの?」


「何を?」


「私が部屋に入ってたこと…」


「あ…うん。ボクがあまりに片付けないから、見かねてやってくれてたんだろ?」


「ギャーーッ!」


 私は自分の顔を両手で隠してしゃがみ込んだ。バレてないと思ってたから、ベッドの下とか四つん這いで覗き込んだりもしてたけど…まさか…?


「春香ちゃん綺麗好きだから、隅から隅までやってくれるのは嬉しいけど、気が気じゃないって言ってたよな」


 春日翔がニヤニヤした目で私を見てくる。


「いやーーーっ!」


 私は絶叫した。いっそ殺してくれーー!


 そのとき「ポン」と肩を叩かれた。振り返るとサトコとルーが並んで立っていた。にこやかな笑顔だ、肩に置かれたサトコの手から「ギリギリ」と伝わる力を除いて…


「この件に関しては、あとで()()()()と話を聞かせてもらうね」


 私は無言で「コクコク」と頷いた。


「あれ?そういえば…」


 春日翔がサトコとルーを交互に見ながら、思い出したように口を開いた。


「眼鏡巨乳の委員長モノに、ツインテールのロリッ娘モノ…恵太オマエ夢叶えてんじゃねーか!」


「お…おま…お前ぇー、殺す、今すぐ殺す!」


 ケータは顔を真っ赤にしてワナワナと震えた。それから素早く春日翔の背後に回り込むと、チョークスリーパーで締め上げ始めた。


 しかしサトコとルーの当の二人は、意味も分からずキョトンとして「ん?」と首を傾げてる。


 私は即座に立ち上がるとケータの元に駆けつけた。春日翔からケータを引っ剥がすと、胸ぐらを掴んで締め上げる。


「ハ、ハルカ、苦しい…」


「ねぇ、私のは?」


「え?」


 私の刺すような眼光を受けて、ケータが戸惑う。


「私のは、持ってないの?」


「な、何の話だよ?」


「私のも持ってるって言いなさいよぉーーお!」


 魂の叫びが、大きく木霊した。

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