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暴力女との出会い


「・・・デカ・・・」


数十分歩き詰めて漸くたどり着いた赤レンガの建物。予想外に大きいそれに唖然とするミナヤを一瞥してから“行くぞ。”と声をかける昴。命令されて癪に障ったのか、一瞬ムスッとした雰囲気が彼にも伝わってきた。

その様子が仕事仲間である洸の姿とダブる。そういやアイツも初めの頃は命令が嫌いだったか。



「おーい、行くんじゃないのか?」


数時間ほど前に会った洸を懐かしいと感じる自分に驚きながら、ミナヤの声に思考に浸る。

そして十数秒ほど考えてから声をあげた。


「行こう。まずは―――」


コンコン


「すいませーん!!誰かいますかぁ」


しかし返事を待たずにミナヤは扉を叩いていた。職業病なのか、どうやって強行突破しようか考えていた俺は目の前で響いたノック音に、頬が引きつった。何故その行動が頭に浮かばなかったのか、答えは簡単。・・・普通の人間、やめてるな俺。


少しばかり落ち込んだ昴に気付かずミナヤは数回扉を叩き、呼びかけたが返事が返って来ないことにイライラしだした。


「こんのッ・・・出てこいっつってんだろがぁ!!」


「るさい!!!人ん家の前でガタガタ騒ぐんじゃない!!」


そろそろ止めようかと手を伸ばしかけた瞬間に扉は開き・・・女が出てきた。それも俺と同じくらいでかい女。彼女はびっくりしているミナヤの胸倉を掴み上げてガンをとばしまくる。


「礼儀ってものを知らないのかお前は!」

「す、ませ・・・」

「声が小さい!!ふふぁっ」


明らかに彼女は寝起きだった。薄い衣服にグチャグチャの茶髪、怒鳴りながらも欠伸をするという器用なことをしている。首をカクンカクン振り回されてミナヤは息苦しそうに謝るが、彼女は興奮しきってしまっていた。


「・・・すみません。寝ているところを起こしてしまったようですね。」


とりあえず俺からも謝る。強行突破なんてしてたら真っ向衝突だったかもしれないな、なんて思いながら。

頭からドでかい猫を被った俺にミナヤが“うっわぁ・・・”とか零しているが気にしないことにした。



「ふん。コレくらい慣れてるさ。何の用だい?闇討ちか、それとも討伐か?」


討伐って、熊か狼でも出るのか?


「いや、僕達はどうやら道に迷ったらしくて・・・よければ此処がどこか教えていただけませんか?」

「ああ、それは災難だったね。此処はシグレの町の外れ、バサラ草原さ」


・・・シグレの町、バサラ草原??


怪訝な様子が伝わったのか、彼女はバカにしたように鼻で笑った。


「王都じゃそんなことも習わなくなっちまったのかい?この辺りじゃ見ない格好してるものな。王都の新しいスタイルかい?」

「あのさぁ、王都って何?シグレって外国??」


ああ、直で聞いたよこいつ。

ミナヤは心底不思議そうに彼女を見上げる。彼女が驚いて固まっていると、今度は俺にその視線を向けてくる。わかるわけないだろ、俺に。


彼女は急に素早い動きを見せた。混乱していてもその動作がはっきり見て取れた。


「・・・あんたらリオウのスパイか。ならば此処で討伐させてもらうよ!!」


彼女の手にはナイフ・・・それもとてもよく手入れされた物。切れ味がよさそうだ・・・。


じゃない。


先程とは違った殺気を飛ばして彼女は身構える。臨戦態勢に入った女はそのまま大きく後ろに跳びながら数本のナイフを投げてきた。

っち。問答無用かよ。


ミナヤはあまりにも突然すぎる攻撃に身動きが取れないようで、目を見開いたまま硬直してしまった。とりあえず彼をかばいながらトカレフを取り出してナイフを全て叩き落とす。その間一秒と無い。


女も流石にそこまで動けるとは思っていなかったのか着地した瞬間に隙を見せた。が、それも刹那のみですぐにまた数本のナイフを投げる。今度はさっきよりも早く。

が、俺達に届く前に全てが地に落ちる。今までの経験上、次はきっと近距離攻撃か退却。退却ならいいが、近距離戦闘は困る。ミナヤがまだ動けない。


「チッ!リオウの側近かい!?」

「あのっ!リオウってなんですか!?ってか昴凄すぎだろ」


ミナヤの叫び声。ってかごもっとも過ぎる。俺はとりあえず攻撃されたから怪我しないように無効化してるだけだっつの。


警戒しながらも彼女は一歩踏み出す。クソ、近距離戦闘か。


「我に天の理を!詠唱破棄、【レフレイン】!!」

「ぐっ!?」


突然腹を殴られたような衝撃。鳩尾に完全にハマったそれは俺にダメージを与えるが、肝心の彼女はまだ離れた場所にいた。

女は拍子抜けしたようにポカンと口を開けるがすぐに好戦的な笑みに変わった。


「ワイズが見えないなんて低級だね!!側近だなんて飛んだ勘違いだったよ」

「・・・テメ、なにしやがった。」

「化けの皮剥がしさ、猫かぶりめ。リオウの下っ端ごときが二匹でくるなんて馬鹿だね」

「確かに猫かぶりだったけどさ・・・ちょっと、待ってくれよ!!俺達リオウなんてわかんねーよ!!」


ミナヤの意外に冷静な一言にニヤっと口の端が上がる。正直者はこういうときによく動く。


「知らないわけがないだろ。さて、恨むならこんなとこまで着ちまった自分等を恨みな!!」


瞬間彼女の手が上がり、手を前に突き出すような格好になる。しかし彼女の口が動く一瞬前、俺はミナヤを連れて女の真後ろにいた。

彼女の側頭部には拳銃。カチリと音が鳴ってセーフティが解除される。



「はあ・・・。ちょっと、待てって言ってんだろが。本当に俺達は何も知らないんだ。」

「・・・【スタップ】かい?ワイズ、使えないように見せかけていただけみたいだね」

「ワイズってなんだ?」


こんなときまでミナヤの質問が飛ぶ。ふっと鼻から笑みを零すと、彼は顔を上げる。その顔が引きつっているのは何故だろうか。

自らが異常に冷たい顔をしているのを自覚していなかった昴であった。


「なあ、話をきいてくれないか?俺達は本当に道に迷っただけなんだ。」

「・・・わかった。話をきくよ」


その返事を聞いて銃口を下ろした途端彼女がヘナヘナと床に座り込む。


「ワイズを打ちすぎたようだね。すまないがそこのソファまで運んでくれないかい?」

「わかった」


ミナヤが返事をして、彼女を抱き上げる。小柄なはずの彼はいとも簡単に彼女をソファまで運び、自らもその隣に座った。

流石に俺も驚いたが、当の本人は俺の視線にキョトンと首を傾げて見せるだけだった。彼女も驚いたように固まっていたが、突然豪快に笑い出した。


「アハハハ!!ハハッ・・・くっ、す、まない・・・ッフハ!!ハハハ」

「な、なんで笑ってんの・・・?」

「ふ・・・。」


どこまでも天然な少年。こんなんで死のうと思っていたのだから、面白い。




暫く笑い声はやまなかった。




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