奇怪な目
ベッドを見詰めながら、もう何度目かのため息を零す。
黒と白のモノトーンで統一された部屋。必要最低限のものにか置いていないため殺風景だ。
帰ってきた俺はまず少年の傷を手当てし、ベッドに寝かせた。キングサイズに横たわる小さい彼は、見つけた時よりももっと小さく見えた。俺は数十分前からずっと部屋にぴったりハマる彼を眺めているのだ。
寝息さえたてずに少年は眠り続ける。
「皮肉だな・・・。」
人を殺める俺が、人を助けようとする。
矛盾を感じながらも何もすることはない。助けたことに一番驚いているのは自分自身だ。これからどうするかなんて考えていなかった。
深い思考に入りそうになるのを馬鹿馬鹿しく思い、頭を軽く振って立ち上がる。一瞬頭がクラッとしたが、すぐに治った。
ああ・・・貧血気味だな。
何か鉄分の取れる物でも食べようと踵を返した瞬間だった。
「―――ん・・・うぅ?」
空耳かと思って振り向いたが黒猫少年の表情には変化があった。思ったよりも高かった声に少々驚きつつも、彼の整った顔を凝視する。
長い睫が僅かに動いて、それからゆっくりと目が開く。
漆黒の瞳。吸い込まれそうなほど大きな目。
でも・・・何故だ??違和感がある。
一瞬見惚れてしまったが、ハッとして彼に声をかける。
「起きたか。」
焦点の合わない瞳が揺れる。彼は二、三度ゆっくりとした瞬きをしてから、耳を澄ましてないと聞こえないくらいの小声で“生きてる・・・”と呟いた。
「ああ。生きてるよ。お前・・・なんであんな所に―――」
「オレ・・・生きてる・・・。なん、なんでオレ・・・ああ、ああああ!!あ、あ、あああああああ!!!」
突然狂ったように悲鳴を上げる少年。俺は豹変した彼の様子に大きく目を見開いた。動けないで居ると、彼は頭を抱えてベッドの上で暴れだした。
「いきてッ!!あああッなんで!!?どおしてだよ!!!オレはもう・・・いや・・・やだァァ!!」
「ちょ・・・おいっ!!」
今の言葉ではっきり分かった。こいつは死にたがっているのだと。
くそっ・・・俺にどうしろってんだっ
「ちっ・・・めんどくせぇ。」
どうしてこんなことになるんだと、少し後悔した。しかし、そうしている間にも少年は狂った悲鳴をあげ続けベッドの上を暴れ回る。このままでは本当に此処で死にかねないと判断した昴は彼の右手を掴む。
「いいか!よく聞け。此処で暴れるな。」
「いやあああああ!ああっあああ!!」
「くそ・・・見ろ!!」
叫びながらコンタクトを外す。目を覆っていたレンズははずれ、瞳は本来の色を取り戻した。
少年の細い両腕を片手で頭の上に固定させ、空いている手で無理矢理頭を此方に向け強引に目を合わせる。
「―――ッ!?」
ああ分かった。
どうしてコイツの目に違和感があったのか。
光が灯ってないんだ。
この目には絶望しか映っていなかったんだ。
「やっ・・・っ」
漆黒の瞳が大きく見開かれる。
落ち着けない奴には恐怖で動けなくさせてやればいい。
「・・・瞳が・・・紅い」
少年の暗い瞳には、紅い瞳をした俺が映っていた。
どうして俺の目だけこんな色なんだろう
答えなんていくら探してもなかった
少年だった俺は諦めた
何もかもを