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もしもお前が・・・











愛して欲しい。


頭が真っ白になるくらい俺を求めて欲しい。

奇怪な目を持った俺を心の底から愛してくれ。




泣き出しそうな空を見上げて、少年の頃によく呟いていた言葉を思い出した。













 ◇


「―――(スバル)

「分かってる。殺る。」



閉じていた瞼を開け、彼に視線を向ける。

俺の名を呼んだ彼は意地悪そうにニヤっと口角を上げて笑うと“そうこなくっちゃな”と言って俺の背を軽く押した。一応上司であるはずの俺だが、こいつは少しの敬意も払おうとしない。


小さく舌打ちしてから改めてターゲットに標準をあわせる。


愛用のトカレフの安全装置(セーフティ)を外しゆっくりと引き金にかけた指を引く。


・・・パ――ァァンン


乾いた音が響く。

ターゲットは自分に何が起こったか理解しないまま、ゆっくりと固い地面に倒れた。


「終了いたしました。そちらはターゲットの死亡を確認を。これより第四部隊、昴と(コウ)は帰還します。」


銃にセーフティをかけてカバーへしまう作業をしながら通信機で任務終了を伝える。

今回の任務の主任が通信機を通してごちゃごちゃ喋ってくるのを適当に聞き流して歩き出す。


暫くして気が済んだのか主任は通信を切った。確認してから此方も通信機の電源を落とし、ため息を付いてから横を歩く洸に“メシ、行くか。”と呟くように誘った。同期の彼は“もちろん”と言って薄く笑った。


生きていた人間を殺すことにもう抵抗は覚えなくなっている。血まみれの人を見た後でも、飯を食えるほど俺達は感覚がおかしくなっている。それを自覚していても“別にいいじゃないか”と思った。


コレが日常。俺の普通。







さて・・・呆気無かったな。今回も。

黒塗りの高級車―――車種は忘れた。どうせ自分のものではない。それを運転して細い裏道を通りながら数分前の出来事を振り返る。


「もうちょっと抵抗してくれれば・・・な。」


俺が思わずそう漏らすと洸は大声で笑い飛ばされた。

なんかちょっとムカつくんだが・・・。


「んな事したら主任にキレられるぜ??それに多分俺が死ぬわぁ」

「・・・馬鹿が。そんなに(ヤワ)じゃない、だ―――」


言葉を詰まらせてブレーキを踏んだ。目の端に見えた黒いものが凄く気になったのだ。

“なんだよっ”と俺に文句を投げかける洸。しかし、俺はその物体が何か分かった瞬間、彼に目もくれず弾かれる様に車から飛び出した。



「何なんだよ・・・こいつ。」


目の前には全身真っ黒な少年が傷だらけで横たわっていた。

細い身体にぴったりと吸い付く様な黒い服に、胸元に装着された黒いジャケット。手入れされていない黒髪。白い肌には無数の赤い切り傷が刻まれていた。


その姿はまるで野垂れ死にかけている野良猫。


・・・まさか・・・死んでるんじゃねーだろなぁ。


凝視してみると僅かに動く体。

生きてる。でもこのまま放っておけば、いずれ・・・。


普段なら此処で“運が悪かったな。”とでも吐き捨てて素通りしていくはずなのに。何故か俺はこの黒猫のような少年が気になって仕方なかった。


「お、おいっ昴!!どうし・・・ってなんだよコイツ!!」

「五月蠅いな・・・。アジト戻って報告書頼む。俺は家に帰る。」


眉を顰めながら黒猫少年の軽い身体を抱き上げた。傷に触れたのか意識を失った体でも刹那ビクリと動いた。


「ちょ、待て!何でだよ。・・・コイツ、傷だらけじゃねーか」


俺の意図が分かったらしい洸は、珍しさに焦りつつも言葉を詰まらせて引き止めた。


「だからだ。誰にもこの事言うんじゃねーぞ。」


最後に“わかったな、洸。”と言って鋭く睨んで走り出す。軽く雨が降ってきたな。体を冷してはまずいか。俺は自宅へと車を走らせる。



「ちょ・・・・・・・それ俺の車だぞぉぉ!!」


後ろで可哀想な彼の叫び声がしていたが、それに昴が気付くことは無かった。













   なあ。



   もしも、この時俺はお前に出会ってなかったら。


      もしも、この時お前が此処に・・・居なかったら。



    俺はもっと―――――。





    なあ、黒猫少年。

        お前もそう思うだろ??










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