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フェアリー・テイル

「……で、これがそのキーホルダー」

 

 そう言って扇さんは、僕に携帯電話を手渡した。


 確かにストラップ代わりに、プラスチックの入れ物に包まれたプリクラの写真があった。

 中には小学生くらいの少女と老人が並んで写っている。



「……………」


 しばらく僕は何も言えなかった。あまりの話に、酔いも覚めていた。


「……あんた、あたしの話信じてへんやろ」


 そういいながら、扇さんは僕の顔を覗き込む。


「……いや、そんな事ないですよ。ちゃんと信じてます」

「まあ、えーけどねー……絶対この話、人にしたらあかんよ」

「……こんな話、誰にできるんですか」


 僕は言った。


 しばらくそのキーホルダーを見ていた。

 いやあ、まったく……世の中いろんな話があるもんだ。


「ところで……そのお爺さんとはそれっきりなんですか?」

「ああ……たぶん、おじいちゃんも目が見えへんことやし、そのキーホルダーが無くなったことにも気づいてないとは思たんやけど……やっぱりこれも、立派な窃盗やんなあ?」

「…………」


 僕は否定も肯定もしなかった。


「……そやから、何か後味悪うてなあ……会社に行くときはあのマンションの前通らように、道変えて出勤するようにしてん。しばらくは、気になったけど、人間ってえらいもんやなあ……いつの間にか、忘れてたわ」


「はあ……」


「でも年が明けて、春になった頃かなあ……なんとなく、ほんまなんとなくやけど、あのマンションに行ったんよ。もしおじいちゃんがおったら、そのキーホルダー返そう、思て。でも……」


「もう、居なかった?」

「うん、部屋も空き部屋になってたわ」

 

 扇さんはタバコの箱に手を伸ばしたが、それが空であることに気づき、僕に手を差し伸べた。


「一本ちょうだい」


 僕は自分のタバコを一本差出し、彼女が口に挟んだそれに火を点けた。


「死んだんでしょうね」僕は言った。

「さあ……たぶん、そうやろね」

「でも……」もう話をまとめる時間だった。「扇さんはいいことをしましたよ。そのお爺さんに」

 「何で?……そのキーホルダーの分、ええことしてあげたから?」そう言って扇さんは少し悲しそうに笑った。「……やっすいハナシやなあ………それも」


 僕と扇さんはそれから20分ほどして店を出て、おやすみを言って別れた。


 以上が、扇蓮子さんのクリスマスの物語だ。



 とりあえず僕は今、扇さんがこの小説を何かの間違いで見つけてしまわないか、それだけを心配している。(了)


(2004.12.17)



メリークリスマス!

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