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メリー・クリスマス

「あ、あかんっ……おじいちゃん、うち、もうあかんっ……も、もうむりっ……!」


「みゆきっ……ああ、ええでえ……最高やでみゆきいっ……」


 おじいちゃんはめちゃくちゃ頑張った。


 あたしもおじいちゃんに負けへんように、必死で頑張った。

 そのボロマンション、妙に壁薄そうやったからな。声堪えるんに必死やったわ。


 あんまりおじいちゃんがガンガン突いてくるんで、あたしは狭い部屋の隅っこまで追いやられてしもた。


 最後には壁にぺったり顔をつけて、自分の指噛んで声堪えたわ。


「みゆきっ……みゆきっ……どないや、ええんか? ええのんかあ……?」


「あ、あかんっ……み、みゆきっ……壊れてまうっ……もう堪忍してっ……」



 “堪忍して”とか、ほんま初めて言うたわ。

 でもその時点で、あたし何回もイかされてた。

 

 もう……西田くん、スケベやなあ……

 あたしのイキ顔、想像しとるやろ、いま。



 でも、結局おじいちゃんは最後までいくことができへんかった。


 悲しいね。


 やっぱりなんやかんや言うても、歳が歳やからね。


 いや、そこまででもじゅうぶん頑張ったと思うけど。



 おじいちゃん、下半身すっぽんぽんのまま、がっくりうなだれてもてな。

 あんまり気の毒やったから、あたしおじいちゃんの前に跪いて口でしてあげた。

 それでもおじいちゃんはあかんかった。


「……みゆき、もうええわ。……今日はわしと一緒に寝てくれへんか」おじいちゃんが言った「……頼むわ」

「うん」


 それからあたしとおじいちゃんは、コタツの中で並んで二人で寝た。


 先に眠ったんはおじいちゃんの方やったかな。

 おじいちゃんはまるで子供みたいにすやすやと眠ってた……よっぽど疲れたんやろうね。

 で、寝言で呟いた。



「ゆみこ……」


 どっちやねん。


 あたしはなかなか眠れへんかった。


 そやから……暗い部屋の中でクリスマスっちゅうもんに関してあれこれ考えてた。

 

 どうなんやろう……?


 今時、ほんまにサンタクロースがプレゼント持ってきてくれるって信じてる子供って、どれくらい居るんやろうか?……あたしはだいたいいくつまで信じてたやろうか?

 

 そりゃ、あたしかて、子供の頃はクリスマスは好きやったよ。

 

 なんかすごく、特別な日みたいな気がしてな。子供なりにわくわくしたもんや。いや、子供やったからか。


 でも、いつからやろうなあ……クリスマスが特別な日じゃなくなってしもたんは。

 とりあえずその年のクリスマスは、かなり特別やったけどな。


 そんなことを考えるうちに、いつの間にかあたしも眠ってた。




 翌朝目を覚ますと、おじいちゃんはまだ眠ったままやった。


 一瞬、死んでしもたんとちゃうか、思て焦ったで。

 でもおじいちゃんはちゃんと寝息を立ててたんでとりあえず安心した。


 ……あたしはおじいちゃんを起こさへんように、そっとコタツを出ると、服を着てからコタツの上の料理の残りやらコップやらを簡単に片付けた。それでもおじいちゃんは眠ったままや。

 


 何か置手紙でもしよかなあ……思たけど、あんまりそういうのも性に合わへんからやめといた。

 てか、よう考えたら、置き手紙してもおじいちゃん、読めへんやん?


 そのままコートを着て、部屋を出て行こうかと思ったら、ふと靴箱の上に、鍵のついてないキーホルダーがあるのに気がついた。透明のプラスチック製で、中にプリクラの写真が入ってる。



 おじいちゃんと並んだ、小さいお下げ髪の女の子の写真。



 おじいちゃんは今よりだいぶ若う見えたから、ずいぶん前の写真やったんとちゃうかなあ……女の子はだいたい小学生くらい。まあまあ可愛らしい子やったよ。



 ああ、この子が「ゆみこ」ちゃんか。


 あたしはとっさにそう思った。

 それにしてもおじいちゃん、目見えへんのに写真なんか手元に置いといてどうしてはったんやろう?


 それから……今でも何でそんなことしたんかわからへんけど、あたしはそれをコートのポケットに入れてそのまま部屋を出た。

 

 外は曇りで寒かった。

 きったないマンションの入り口には、パイプ椅子の上でバカ帽子が霜を被ってたんを今でも覚えてる。



<つづく>

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