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彼女がクリスマスを嫌いなわけ

今回はあんまりエロくない作品なのでR15とします。

また、物語に出てくる「西田くん」は作者と同姓の人物でわたしとは関係ありません。

あと、読めばわかると思いますがフィクションです(笑)

 エロ小説でクリスマス向けの話なんて書いたって、まったく何の意味もないのだが、ちょっとイイ話を聞いたので書かせてもらう。

 

 12月の中頃、僕は同僚の扇さんと二人で会社帰りに一緒に酒を飲んでいた。

 

 扇さんは僕より半年前にこの会社に入社した先輩の女性である。


 彼女の歳ははっきり聞いたことがないが、多分30を越えているかいないか、その当たりだろうと思う。女性に歳を聞くのは失礼らしいからな。これからも聞くつもりはない。

 

 入社して以来、結構お世話になっている人のことをこんな風に書くのはなんだが……彼女はむしゃぶりつきたくなる美人というわけではない。


 かといって側に寄られると蹴り殺したくなるブス、というわけではない。


 僕にもう少し豊かな表現力があれば、彼女の顔がどんなふうなのかここに記して、これを読んでいるあなたにも想像しやすいように描写することができるのだが、力足らずで申し訳ない。

 

 彼女の顔は目も鼻も口も小さく……これといって褒め讃えるとことも、反対に難癖をつける部分もないのだ。


 まあ、これを読んでいるあなたは、あなたの職場に必ず一人はいる、印象の薄い30前後の女を想像してもらうのがいいだろう。

 

 ああ……ひとつだけ言うならば、彼女はとってもスマートで、脚はきれいだ。


 そういう自分の持ち味を彼女自身が充分に把握し、それをそれなりに見栄え良く見せることができるよう、お化粧や髪型や服装などにもう少し気を遣えば……今よりある程度は見栄えするかもしれない。

 

 まったくもって大きなお世話だろうが。

 

 とにかく、僕はその夜、扇さんと二人で会社の近くの居酒屋で、だらだら酒を飲みながらどうでもいい話をしていた。


 女性とふたりきりでお酒を飲みに行ったからといって、ヘンな誤解はしないでいただきたい。


 誓って言うが、僕はこれまで扇さんに妙な感情を持ったとはない。


 

 いや、ないこともないこともないが……。



 それは言うなれば……ごくまれに、扇さんが妙にぴったりしたパンツを履いてきた日に僕の目の前でお尻をこっちに向けて屈んだり、Vネックのセーターを着てきた日に屈んだ襟元からほんの少し胸の谷間(といっても大したものではないが)が覗いたりするのを、ちらりと職場で目にした時に感じる、くしゃみのようなものだ。


 誰だってそれくらいあるだろう?

 毎日、誰もが同僚の女子にはそれくらいの感情を抱くものではないか?


 扇さんが僕のことをどう思っているのかは知らないが、賭けてもいい……彼女も僕のことを何とも思っていない。


 でも、僕はお酒を飲む時にはあんまり自分のことは喋らず、聞き上手に徹する方なので、扇さんも僕とお酒を飲むのは気楽なのだろう。


 そんな訳で、僕らはたまに二人で飲みに行く。

 

 しかしその晩、扇さんはかなり酔っ払ってしまった。


 何か職場でイヤなことでもあったのだろうか。正直、知ったことではないが……彼女はたまに酔っ払うと、わけのわからないヘンな話をはじめることがある。


 僕が扇さんと飲みに行くのが好きなのは、年にほんの何回かだが、酔っ払った彼女からその嘘だか本当だかわからならいヘンな話が聞けるからだ。

 


 その夜は酔ってテンションの高まった扇さんに即されて、僕も結構な量を飲んでいた……が、僕はあまりお酒には酔わない方なので、彼女の話を聞く頭は冷静なままだった。

 

「……ちゅーかさ、もうすぐクリスマスなわけですよ、わかってる? ……西田くん」扇さんは既に生ビールを2杯、チューハイを2杯開け、ぬる燗モードに入っていた。「……なあ、どうよ、クリスマスって。めでたいよなあ、クリスマスって……そう思わへん?」


「はあ」


 僕は適当な相槌を打って煙草に火を点けた。


「……ちゅーか、西田くん、やっぱり何か、クリスマスには予定あったりするわけえ……?」

「……いえ、別に」


 関係ない。僕は無神論者だ。


「……そーやんなあ? ……なんで誰も彼もクリスマスやからっちゅーて浮かれなあかんわけ? ……日本は仏教国やろ(注:正確に言うと違うが)。そんなもんどーでもええわっちゅー話やんなあ?」

 

  恐らくこの時期、この日本国で何十万人ものさみしい人間がこぼしそうなグチを、扇さんはだらだらとまくし立てつづけた。

  

「なんかさあ……世間がクリスマスモードに入る時期が、年々早ようなってるような気がせえへん?……どこもかしこも、ビンボー臭いイルミネーション飾ってさあ……あたしあれ見ると目がチカチカするわ。……アホかっちゅうねん。このクッソ寒いのに、チカチカすんのカンベンしてほしいわ」

 

 扇さんのクリスマスに関する呪詛は延々と続いた。


 そのうちに扇さんの目は見る見る座ってきて、呂律もかなり怪しくなってきた。なぜだかほんの少し……いつもより扇さんが魅力に見えてくる。


 ……飲み過ぎてるんだろうか?

 

「……ちゅーわけで、なあ、西田くん。西田くんもクリスマスなんか嫌いやんなあ?」 

「はあ、嫌いです」


 有無を言わせぬ口調だったので、僕は調子を合わせた。


「……あーもう、うっとおしいわあ、この時期。もう、あたしの周囲ではクリスマス禁止にしたいね。はよ終われへんかなあ……このうっとおしいシーズン」

「何でそんなにクリスマスが嫌いなんですか?」


 僕は聞いた。


 一瞬、扇さんが唇につけかけていたお銚子を離す。


 そして、心なし潤んだ目で僕を見た。

 やばいとは思うが、その瞬間だけ数ミリほど扇さんのことが好きになりそうになった。


「聞きたいいいい……?」


 扇さんがくたっ、とテーブルに上半身を伏せる。


「はあ」


 人から面白い話を聞きだすコツは、人が面白い話をしそうになると、わざと無関心なふりを装うことである。


 そうすれば、人は可能な限りこっちを面白がらせようと、話に尾鰭羽鰭をつけて話しはじめる……聞かされる話が実際にはどれだけ真実から遠ざかっていようと、単に無責任に聞く身であるこっちにしてみれば、そんなことはどうでもいい。


 ようは面白ければいいのだから。


「聞きたいんやったら……話すけどおおおお……?」


 どうやら扇さんは話したくて仕方がないようだった。

 

 というわけで、以下は彼女の話である。

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