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WORLD STORY  作者: 公魚多ゲシ
3/3

テリー キャスウェルの冒険(と、言えるほどの危険は彼女には何も無い。)

 二人は真白な石で六方を囲まれた部屋の中に居る。壁と同じ色、同じ石で作られた椅子に腰掛け向かい合っている。部屋には窓はおろか入り口も無い様に見え、寛ぐ二人の手元に飲み物すら用意されていない事がより一層この部屋に時空を感じさせないでいる。僅かに見える石組みの線のみがここを現実空間だと分からせる。


「お姉様、ブルーキングダムのスーパースターにアーティスの名を与えたそうですね。」

京子の軽やかでいて尚且つ落ち着いた鈴の音の様な声が響く。

「・・・お姉様って、私は18代目ですよ。」

「お戯を。」

テリーの言葉を京子はにべもなく切り捨てる。

テリーはひとつ溜め息をつく。

彼女はこの妹がずっと昔から苦手だった。

別に嫌いと言う訳では無い。


 元々、東陽国皇女の京子と野の花(自分で言う)のテリーとでは住む世界が違う。

京子がテリーの兄と結婚したのは遥か昔の事だ。

古代からの純血を守る一族が永い時間を繰り返し紡いできた様にテリーもまた兄と婚姻をする筈であった。しかし兄は京子と結婚し、やがて二人の間に生まれた息子、つまり甥とテリーは結婚し一族の血を守った。

テリー達の子孫はやがて青の王国を建国し王国が強大になるにつれその血を薄めていくことになる。

だがその建国史、王国史の中にテリーの名は出てこない。

ただ王国の姫君だけに伝えられる寝物語、美しい恋物語として伝えられる真実の御伽噺がある。そのなかで語られる秘密の名前。

何代にもわたって語り継がれてきた古の名前。

愛と慈悲と恐怖の代名詞だ。


京子は何気無い事の様に語る。

「婢妤呼がわざわざ手合の相手をした様ですし、お姉様まで。それほどの人物なのですか?」

「いや、全然。というかハートの人となりはわかっているでしょ。ヒヨコは年の近い友達が欲しかっただけだし、私は気まぐれ。私達の血族だもの。名前を継いだっておかしく無いわ。」

「私達・・・。」

「私をお姉様と呼ぶのは貴女よ。本当のことじゃない。」

兄の結婚相手、義理の妹と言う訳では無い。京子も同じ一族の古い血の継承者と言う意味だ。テリーは続ける。

「そもそもハートの事は全く興味が無いんでしょ?貴女にとってはレイチェル ミラーが遥かに目障りで何度も殺そうとしてる。」

京子は些細な事を非難された気分になり苦虫を噛み潰したような顔で答える。

「・・・。お姉様は私のことが苦手な様ですが、私の方が何百倍もお姉様が苦手なのですよ?」

「・・・何百倍・・・。」

京子はテリーの小さな抗議にまるで気付かないフリをしながらわざとらしく溜め息をつき、

「ああ、お兄様は最期まで妻である私よりお姉様を大事に思っていらして。」

京子の言葉をきっかけにテリーはすかさず明るい調子で受け答える。

 テリーと京子、どちらがより兄に愛されているか、このくだらない論争がテリーは大好きなのだ。

「それはメンドくさいヤンデレ妹より素直で激カワ、スタイル抜群である完璧妹の私の方が。当然でしょう。オシメも替えてもらったし。」

「オシメ!そんなの記憶にないでしょう?大体結婚してからは私、デレしかありませんでしたわ。ジェラシーですわ。今だにジェラシーなのはお兄様、忌まわの際にお姉様だけに何を囁いたのですの?」

テリーは何でも無い様に一言答える。

「薔薇の蕾」

兄が囁いたのは子供時代からのくだらない言葉遊び。それには何の意味もない。

「またそれですか?何ですの、それ?」

「秘密。」

「何時も教えて下さらなくて。」

「この秘密は墓まで持っていくのです。」

「墓まで、ですか・・・?」

意趣返しをする様に珍しくニヤニヤ笑いを浮かべる京子。

「お姉様、本当に死ねるのですか?」

「それも秘密。」


 意味が無い故に大事な思い出であり掛け替えのない絆なのだ。


 立ち上がるテリー。別に京子の言葉に気を悪くした訳では無く本当に潮時だと思ったのだ。

「お帰りになるの?」

少し寂しそうな色を滲ませ京子は聞いた。

「貴女は私と違って秒刻みで忙しい身でしょう。」

テリーは京子の首に腕を回し抱き寄せその頬にキスをする。

世界を統べる不老の女帝もテリーにとってはただの妹だ。

テリーは京子の耳元にそっと囁く。


「永い時間をかけて今は貴女を愛しているって気になってきたわ。本当よ。」


補足:「忌まわの際にお姉様だけに何を囁いたのですの?」

市民ケーンのパクリ。オマージュとも言う。

テリーの兄、ランスケープ死亡時にテリーとランスケープは会っていない。

それどころかランスケープが京子と初めて出会う直前、ミュンヘン(テリーと風海帆波のバンド)のコンサート前に話をしたのを最後に以後再び会う事なく死別している。最後に会ったのがテリー17歳、ランスケープ22歳の時である。

ランスケープの死亡時期は彼が30代の時。

本文でのテリーの年齢は540歳を越えているはず。(18代目x30年=540 1代30年計算。)京子はテリーの1歳年下。

上記の事実がありながらテリー、ランスケープ、京子の3人の間ではテリーとランスケープは彼の死の間際会話をしたということになっている。

事実が曲げられてそれで良しとされている。

これは魂レベルとか高次元とか並行世界とかの話ではなく単なる妄想だが3人にとっては事実である。


補足2: 真実の御伽噺

アイ・マリアというお姫様が出てくるのが2000年位前の神話の中。

アイ・マリアとその子孫のアイ・アーティスが登場するのがその1000年後。この辺りが神話から史記への変り目。

更に500年後位に東陽国の月美那津比売ツキミナツヒメ、リューデンハース家のカミーユ姫、ファクシア空のファクス・ファクシア姫と共に再びアイ・アーティス姫が登場する。4人とも伝説の人。御伽噺の登場人物としてキャラクター性が強い。カミーユ姫は人間だが後の3人は神格。

ブルーキングダムの王女だけに語り継がれる御伽噺。

アイ・アーティスは「ブルーキングダムのお姫様」という表現しか使われない。

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