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WORLD STORY  作者: 公魚多ゲシ
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ハート ブルーの冒険

 ハートが振りかざす、彼女の身の丈ほどある長刀が空を切り裂くボッという爆発に似た音と共に振り下ろされ地表を砕き引き剥がす。

婢妤呼ヒヨコはその切先を躱すと同時に持った剣を下から払い上げる。

婢妤呼の振った剣は速すぎてハートには見えなかった。が、その剣筋はハートを狙ったものではなかった。

ハートには婢妤呼が何をしたかさえわからなかった。

 ハートの放った剣圧とそれにより砕かれた地表が大量の土砂となり婢妤呼を襲い体勢を崩す。ハートには絶好のチャンスだった。隙だらけになった婢妤呼に対し一気に勝負を決めようと再び太刀を振り上げるがそれ以上、身体が動かなかった。

 何かがおかしい。

ハートが躊躇した僅かな隙に婢妤呼は体勢を立て直し間合いをとる。

 婢妤呼の侍従であるゼンノタクマが闘う二人の遥か後方、避難した場所から大声を張り上げる。

「おひい様!其の者の剣技、重力剣であります!」

彼の声に婢妤呼は答え、

「そちは阿呆か⁉︎そういう事は喰らう前に言え!というか喰らえばいかな朕とて分かるわ!そこまで逃げているのなら余計な茶々を入れず黙って見ておれ!」

ハートは勝負の最中も意に介さぬ様な二人のやり取りを聞きつつ、幾ら一対一の尋常な勝負とは言え主人をおいてあそこまで逃げ下がるものか?対戦相手の侍従の不忠義ぶりに呆れながらもあそこまで下がれば、流石に我が重力剣の放つ衝撃波も届かないなと思う。

 婢妤呼はハートに向き直り言う。

「矢鱈な物干し竿を振り回す上に重力剣の遣い手か。可愛らしい顔をしてる故、何処ぞの姫君かと思いきやメスゴリラであったか。」

ハートの思考を婢妤呼の言葉が遮る。

身分を隠しているとは言えブルーキングダムの第一王女である私をメスゴリラ呼ばわりするか。何よりいかな手練れに見えようと自分と同じか年下とも思える婢妤呼が明らかに見下してくる様な態度も気に入らない。実力の違いを教えてやる。

「我がグラビティソードは16tだ!その華奢な身体はもとより誰も受け切れぬぞ!」

「当たればであろう。当たらぬ太刀が如何程のものか?」

「当たらずとも剣速が生み出す衝撃波が貴女を吹き飛ばす!覚悟なさい!」

 婢妤呼は正面から受ける気だ。敵ながら天晴れだが必殺の間合いだ。

ハートの言う16tの剣圧が婢妤呼を襲う。ここまでの彼女の動き、太刀筋から見て婢妤呼ならば剣を避けきるだろう。

 だが、衝撃波で吹き飛べ!

ハートは容赦無く剣を振り下ろす。

 この勝負、勝った。


 では何故先程吹き飛ばなかった?


 一瞬の疑問はハートの太刀筋を狂わすことは無かった。手加減無し、正真正銘全力の一撃。

だが次の瞬間、婢妤呼はハートの剣を受けきる。

正面から受けようとすれば受けた剣ごと婢妤呼を砕く筈だった。

だが受けきられた重力剣の反動は逆にハートを襲う。ハートの腕が砕け散ると思った刹那、彼女の太刀が先に砕けた。弾き飛ばされ体も無く地面に叩きつけられる。

顔を泥だらけにして振り仰ぐそこには不遜に婢妤呼が立ちハートを見下ろす。あまりの実力差に為すすべが無い。

見下ろす婢妤呼は言う。

「そちがメスゴリラならば朕はロボじゃ。朕の重力剣は550t。避けて見せるがよい。」

 ハートは思う。

 この勝負、負けだ。

だがキモはここでは無い。師、リィシュー ミラーの顔が、言葉が脳裡に浮かぶ。

勝負は負けだが怖れれば待つのは死だ。

振り下ろす婢妤呼の剣は神速。ハートには婢妤呼の剣は見えない。

 先程も見えなかった。おそらく神速の剣で衝撃波をぶつけてきたのだろう。ハートの重力剣の作り出した衝撃波を斬り裂いたのだ。

此の期に及んで分かる事があるものね。とハートは思う。

婢妤呼の剣は王道の剣だ。正道の、気を衒うことなど一切無い真っ直ぐな剣だ。白く光る軌跡が視える。ハートの身体の正中を通り二つに切り裂く輝く剣筋だ。

婢妤呼の剣筋が視える。

問題は間合い。私は婢妤呼より遅い。だが間合いを外す事が出来れば。

婢妤呼の振り上げた剣が始動する。

婢妤呼の振り上げた右腕の筋肉が動き出す瞬間が見えた。

いや、筋肉が動く前の、婢妤呼の透きとおる肌の表面を走る微弱な電気パルスが視えた気がした。

ハートに恐れは無かった。只々、千分の一の時間を更に薄く削る様に婢妤呼の動きを見つめていた。



「本当に避けるとは思わなんだ。見事よ。」

婢妤呼とハートを中心に地面の半径10m程がクレーターの様に抉れている。

ハートは再び地面に突っ伏し無様な姿を晒している。

剣は避けたが婢妤呼の放つ衝撃波までは無理だった。

まるで身体中の骨が砕かれた様だ。痛いという感覚すら無い。

だが生きている。550tなんて嘘じゃないの、私、生きているもの。

でも私のグラビティソードより軽いってことも無さそうだ。

「腕の一本も貰おうと思うておったのじゃがな。見事なものじゃ、褒めてつかわすぞ。」

相変わらず尊大な婢妤呼に何か悪態をついてやりたいが唇すら動かせない。

「朕の勝ちで異存はあるまいな?そちもよう戦ったと思うぞよ。命までは取らぬが代わりに名前を付けてやろう。」

「そなた、今日からスーパースターと名乗るがよい。」

「文句はあるまいな?あっても聞かぬぞ。朕が勝ったのであるからな。」

「各国の王にハート プリティア ブルー王女は今後スーパースターと呼ぶ様申し伝えておくぞよ。ハート王女は朕の剣を躱した。故にスーパースターであると。」

言いたいことを言うと潰れたままのハートを見捨てて婢妤呼は立ち去った。

地面から顔を上げられないままハートは自分の正体がバレているじゃないのと、そしてよりによってスーパースターって何?と思った。

珍妙な言葉を使うヤツはセンスも珍妙なんだな。と、今度会ったら言ってやろう。

二度と会いたく無いが。

ハートの意識はそこで途切れた。

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