08 希望
「うぐぅぅうう⁉︎」
痛い。痛い。身体が痛い。先ほどのものとは比べ物にならない。全身が煮えたぎり血が溢れそうだ。
「あ、あぐっ……うぐぅうううああっ!」
叫んでも叫んでも叫んでも痛みは取れないというか痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
膨大な力を一気に吸収したからなのか⁉︎
「ぐっ……あっ、んぐぅっ……」
痛みに悶え苦しんでいると、全身からぶあっ、と先ほど吸収した生命エネルギーが溢れかえった。
「ぐぁあああっ……ぁぁぁぁあああああ!」
俺は力を放出すべく力を振り絞り天に吼える。
「あ、ぁあ…………」
そして、今度こそ力を使い果たした俺は、その場で倒れ、寝息をたてた。
俺は、初めて少女を見たとき、その幼さに衝撃をうけた。
明らかに俺の一回りも二回りも小さいのだ。
こんなか弱い少女一人に痛みを背負わせてしまい、恥ずかしくなった。そして、その場で謝罪したのだ。
許しては、くれないかもだけど……。
「んぁ……んん……」
俺は瞑っていた目を開け、横向きで寝ている少女に視線を移す。
毛布をどけながら起き上がった少女は、可愛らしくあくびした後俺の存在に気づいた。
「あ、えっと……その、お、おはよう」
俺がぎこちなく挨拶すると、少女は数回目を瞬いた後、少し怪訝そうな顔をしながらも返事をしてくれる。
「お、おはよ、ございます……?」
少女はまだ警戒した様子だ。
「えっと、まず聞きたいんだけど、君は……いや」
俺は事情を聞く前に、まず聞かねばならない事があると思い直した。
「俺の名前はサガン。君の名前は?」
少女は一瞬ぽかんと口を開けるも、すぐさま我に帰り恥ずかしそうに口を開く。
「……ティア、です」
「ティアか。その、かわいい名前だね」
まずは警戒を解いてもらうためフランクに語り続けるが、ティアはどう反応していいか困っている様子だ。
「えっと、ティア。疲れてるとこ申し訳ないんだけど……どこまで覚えてる?」
俺の曖昧な問いに、少女は頭上にハテナマークを浮かべ顔を傾げた。
「あぁ、ごめん。もうちょっと絞って言った方が分かりやすいかな……。じゃあ、俺のことは覚えてる?」
「……なんとなく」
ティアはぼそりとそう答えた。
なんとなくでも覚えてくれているなら話が早い。
「それじゃあ、一つずつ聞くね。まずは……」
俺はティア自身のことや魔獣について聞いた。
彼女からの返答を纏めるとこうだ。
ティアは俺と同じく、生まれ持っての不思議な力があるらしい。
彼女の場合はほぼ無限に魔力が生成され、体外へ溢れてしまうというもののようだ。
その能力で不気味がられはするも両親に捨てられはしなかったらしい。
しかし一月前、大枚と引き換えに少女を養子にしたいという申し出があったそうだ。
そして何をとち狂ったか、両親は少女を……ティアを渡してしまった。
それからは養子として裕福な暮らしを……することは無かったようだ。
少女の食事は最低限なうえ、外出は出来ないどころか地下室に軟禁され、毎日毎日拷問されていたらしい。
流石にどんな事をされたかまでは聞けなかったが……こんなに小さい少女だ。耐えがたい日々だったと想像するに難くない。
「それで三日前、“ここから出たい”って気持ちが高まって、魔力が暴走した……って事?」
「うん」
俺は左手を額に当てた。
自分で言うのも悲しいが、俺自身奴隷という立場で辛い経験をしてきたという自負がある。
しかし、ティアは時期こそ短いものの、壮絶な過去を持っていたのだ。
……小さい子供が酷い目に遭う、そんな世界でいいのだろうか。
「あ、あの……」
考え事をしていると、ティアはおずおずと俺に問いかけてきた。
「これからどうするんですか……?」
なるほど、いい質問だ。
「大丈夫。ちゃんと考えてるよ」
俺は微笑を浮かべながら頷いた。
「冒険者になる! これしかないよ!」
突如立ち上がった俺に対し、ティアはびくっ、と身体を震わせた。
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