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二人の忌み子  作者: 勇崎シュー
第一章「開放」
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07 君と

 ここは、何もかも崩れ去った町。


 そんな小さな世界の真ん中で、暴れ回る影がひとつ。

 俺はその影に足を引きずりながらも近づいていく。



「おまえのせいだ……」


 違う。


「おまえのせいだ」


 違うと、分かっている。


「おまえのせいでエラは……エラは……っ」


 自己矛盾の中、俺は左手を握りしめた。


「おまえがいなければ、エラは助かったんだ! 誰かが助けてくれたんだ!」


 そんな事はない。俺たち奴隷が、医者にかかれるわけがない。


「おまえのせいなんだっ!」


 あぁ、喉が痛い。もう丸一日、飲まず食わずだからだ。

 しょうがない。何も、喉を通ってくれないのだから。


「おまえの……っ」


 俺は、その場で崩れ落ちた。

 その時ーー。


『たすけて』


 そんな声が聞こえた気がして、顔を上げる。


「ぐあっ!」


 その瞬間、俺は獣の尻尾による殴打をくらった。

 数メートル吹き飛ばされ、背中が地面と擦れる。


「うぐ、ぅ……」


 俺が痛みに悶えていると、再び声。


『たすけて……』


 助けを乞う、少女の声。

 その声を聞いたからでは無いが、俺は立ち上がった。


「なんなんだよ、くそ……」


 俺は昨日の奴らから盗んだナイフを取り出した。


「俺だって、俺だって……」


 ナイフを握りしめ、獣に向かって駆ける。

 がむしゃらな咆哮と共に突進するも、今度は前方から尾を押し出され、後方に返された。

 着地もうまくいかず何回転かし、ようやく止まったところで獣を睨んだ。


『たすけて……』


 三度目の、声。


「……ふざけんな……」


 俺は顔をくしゃくしゃにしながら、左手を額に当てた。


「…………俺だって、助けてほしかったさ」


 けど、助けはこなかった。


『たすけて……たすけて…………くるしい』


 俺だって、誰にも助けてもらえなかったのだ。俺が誰かを助ける義理なんて……。


 …………。


 本当に、それでいいのだろうか。


 本当に、誰にも助けられなかったのだろうか。


 最も大切な時には、助けてもらえなかった。


 けど、俺は、いつもエラに助けられていたじゃないか。


 ……それに、目の前の助けを求めている子をこのまま放置したらどうなる。

 そんなの分かりきっている。苦しみ続けるに決まっている。


 ……しかも、たった一人で。ずっと、ずっと。


 俺は、今まさしく実感しているのだ。



 独りぼっちは、寂しい。



 俺はばっ、と顔を上げ、もう何度目か分からない全力疾走で目の前の化け物に向かって行く。


「どこだ! どこにいる⁉︎」


 俺は少女に呼びかけた。

 声の方向からして、少女は獣に取り込まれていると推測される。だからこうして獣に向かっているのだ。


『ここ……ここ、だよ……』


 その声が発せられたと同時に、獣の胸の奥が小さく光った。


「そこか……まってて!」


 解決案なんてまだ何も思いついてない。けど、やるしかないんだ!


 俺は襲い来る二つの尾をかろうじて避け、先ほどの光目掛けて跳躍する。


「ふっ、ぉぉおおおおおああっ!」


 届け! という俺の願いは叶い、見事狙った場所を掴むことに成功した。


「ぐっ……⁉︎」


 ガツンっ! と音が響きそうなほどの衝撃に襲われた俺は、仰け反った姿勢からなんとか立て直す。

 それにしても、なんなのだろう、この痛みは。


 全体に痛みが走っている状態だが、特に手が痛い。そして身体に電流が流れ込んでくるようなこの感覚。

 まさか、この獣全体が生命力の塊⁉︎

 確かに、見た目はただの生命体ではない。しかし、まさか実態の無い空虚な魔獣であったとは。


 なるほど、それなら少女がこの場に埋め込まれている事にも納得できる。

 そして、助け出す方法もーー。


『たすけて……こわい……くるしい……



 さびしい……』



 その言葉を聞き、俺は歯を噛みしめる。


 俺がこの少女を助け出す方法。それは……。



 この魔獣の生命力を吸い尽くすことだ!


 俺はさらに吸収を早めようと手に力を込める。

 そのためかは分からないが、ようやく少女が見えてきた。

 少女の身体全体が見えたところで、俺はその身を掴み抱擁する。



「ごめんね……」


 身体が灼けるように熱い。しかし、その痛みさえ活力とし、抱擁を強めた。


「独りにして、ごめんね……」


 己の贖罪として口に出したその言葉は、目の前の少女に届いているだろうか。


「これからは、俺が独りにしないから…………」


 少女を取り囲む力が、徐々に弱まる。


「だから……もう…………」


 尚治まらない力に対し、俺は呪われた力を最大に使うため、少女の顔に自らの顔を近づけた。




 もう、大丈夫だよ。




 ぼろぼろな街の真ん中で、俺達はふたり、静かに寝息を立てーー






「うぐぅぅうう⁉︎」


 俺は、突如として人生最大の激痛に見舞われた。

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