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二人の忌み子  作者: 勇崎シュー
第一章「開放」
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04 痛恨

「……エラ!」


 地下に着いた直後、その名を叫び近寄る。


「エラ、大丈夫……じゃなさそうだね……ねぇ、どれが解熱剤か、分かる?」


 エラは荒い呼吸を繰り返しながらも、うっすらと目を開ける。

 そして俺が慌てて取り出した六本の瓶を見て、一番左の瓶を指した。

 よかった。解熱剤という文字をエラは読めたみたいだ。


 俺は安心しつつも瓶のコルクを抜いた。簡単に抜けるタイプのもので良かったと息を吐く。


「ほら、エラ、飲んで」


 エラの身体を支えながら、口に当てた瓶にゆっくりと角度を付ける。

 数口飲んだところで戻し、念の為栓をした。


「よし、これで大丈夫……だよね」


 問いかけるようにそう聞くが、返事はただの寝息だった。

 俺は微笑を浮かべながら彼女を横たわせ、毛布をかけ直す。


 これでエラは大丈夫だろう。

 しかし、問題はまだ残っている。それは外に出没しているという魔物だ。

 幸いここは地下のため滅多な事では見つからないだろうが、だからと言っていつまでもここにいるわけにはいかない。

 頃合いを見て逃げ出さなければいけないが、どの道エラの全快を待たなければだろう。

 とまで考えたところで、それなりの音量で俺の腹が鳴った。


「あぁ、そっか飯……」


 俺は屋敷内に食べ物が残っているか調べる事にした。








「お、あったあった」


 俺は拷問部屋とは別の地下室にある食糧保存庫に来ていた。

 やはりパンなどの保存食は殆ど残されてないが、肉や一部の野菜は残されている。

 こういったなま物から先に食べれば、数日は満足に生きられる筈だ。


 俺はいくつかの食材を持ってきていたカゴに詰め、帰りに食器をいくつか取ってから部屋に戻る。


「エラ、戻ったよ」


 毛布に包まり俯いていた彼女は、その声にはっ、と顔を上げ、薄い笑みを向けてくれた。


「おかえり。心配かけちゃったみたいね。ごめんね」

「いいよ。いつもは俺の方が迷惑かけてるから、こんな時くらい」


 俺は「そんなことより」とカゴをエラの目の前に置く。


「食べ物、いくつか持ってきたんだ。腐る前に食べちゃおう」


 こうして、俺とエラの篭城生活が始まった。


 その日の昼、俺は例の魔物の事が気になり、外出して奴の姿を見た。

 魔物は身体が霧のような気体でできており、狼のような見た目の獣だった。

 確認したところ俺たちのいる屋敷とは多少距離のある場所にいたため、それほどに気にする事もなさそうだ。


 ほっ、と息を吐いて地下に戻った俺は、エラにとある事を相談する。


「逃げよう」


 その言葉に、彼女は目を丸くした。


「でも……」


「逃げようエラ。もう奴隷生活はやめにして、俺たちの生活をつくるんだ」


 俺の発案を聞いて、エラは一度顔を伏せてから、淡い笑顔を向けた。


「そうだね、逃げちゃおっか」

「そうだよ。逃げちゃおう逃げちゃおう」


 ふっ、と口を綻ばせた所で、地下に続く扉が乱雑に開かれた音がした。

 俺は慌ててエラを部屋の隅に促し、近くに置いてある拷問用のナイフを三本懐に忍ばせる。

 そして念のため手袋も外した。


 誰だ……?

 冷える肝を抑え、鼓動を緩めようと落ち着いて呼吸するも、何もかも治らないまま敵が視界に入った。


「あ? なんだここ、地下牢か?」


 俺は奴らが目に入った途端、はっ、と顔をしかめる。

 ……あいつらは、この前俺たちに因縁付け、あろう事かミートパイを踏みつけた小悪党どもだ

 どうしてここに、という自問の答えを頭の中で捜索する。数秒考え、一つの結論に至った。

 そうか、この混乱に乗じて空き巣を働いているのか。


 そうこう考えているうちに、奴らはすぐ近くまで迫ってきていた。


「ここにはめぼしいもんが無さそうだなぁ……もう帰るか?」

「でもここの拷問器具、使えそうじゃね? まぁ使えなくても売っぱらっちまえば関係ねぇしな」


 いいからさっさと帰れよ、と心の中で念じた時、その願いは裏切られた。


「ゴホッ! ごほっ……」


「あっ⁉︎ 誰かいんのか⁉︎」


 エラっ……!

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