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「コメディ」浪人賢者タイム

 これは、僕がまだ浪人生だったころの話である。特に塾などに通っていなかった僕は毎日自由気ままな生活を送っていた。通勤などが終わり静かになったころにだらだらと寝ざめ、今日はどこへ行こうかと朝ごはんを食べながら考えていた。家を出てすぐに上り坂は嫌だったので、毎度下り坂に進んだが平たい道に出てからは自由だった。平日限定で格安で食べられる寿司屋の定食目当てで今日はその近くの公民館へ行くことにした。

 まだまだ暖かく焦る時期ではないと余裕な僕は勉強もことよりも昼ご飯のことで頭がいっぱいだった。浪人生の金持ってるなと思われるかもしれないが、土日にバイトしていた僕は他に使うあてもなくご褒美として昼ご飯にあてていた。

 寿司屋の向かいの公民館着いた。最近お気に入りのバンドのメドレーを聴きながら政経の参考書を眺める私の前の席には、同じぐらいの年のカップルが座っていた。一応彼らも浪人生のようで大手予備校のテキストが広げられているが、おしゃべりに夢中である。

 「落ちればいいのに、あ、もう落ちてるか。そういえば俺もだった」とか考えていてなかなか集中できない僕は得意技を使うことにした。これまでの約20年間の人生、腹立たしいことはたくさんあった。

 例えばバレンタイン。一個もチョコを渡してこない見る目のない女子たち、いくつもらえたのと無遠慮に聞いてくる母親、そこそこと見栄を張る僕、何も言わない弟。思い出しただけでも皮膚をかきむしりたくなる。しかし僕には平常心を保つ必殺技があった。何が必殺技だと思われるかもしれないが文字通り相手を殺すのである。頭の中で。

 苛つく相手を刺してみたり、落としてみたり、イライラをぶつけたが死の後には我にかえる。この世界で一番の人殺しは僕だったし、一番の被害者も僕だった。死の後にくる静寂を僕は賢者タイムを呼んでいる。早速二人の殺人を終え、悟りを啓いた賢者な僕は世界平和を願いながら昼ご飯を食べに行くことにした。

 一人で寿司屋に行くハードルが高いと思う輩もいるかもしれないが、そんな奴はあほだと思う。仲良しこよしで同時でゴールテープを切るような人生は願い下げだし、寿司屋は一人でも十分にうまいのだ。現に前回も前々回も一人でも十分においしかった。ついでに生まれたときも一人だった。

 カウンターで昼休みのサラリーマンに挟まれながら熱いお茶をすする。昼の定食は三種類で海鮮丼、海の親子丼、マグロ丼となっておりそこにあら汁が付いた。もちろんメインのどんぶりはどれも旨いがこのあら汁も最高なのだ。これでもかと入れられた魚のだしが食欲を刺激してするし、少し薄い味噌が全体の味を調えていた。 

 今日は海鮮丼にすることにした。食事に夢中になっていた僕だが、隣のサラリーマンがスマホをいじりながら食事をしていることに気がついた。こんなにも美味しいものを純粋に楽しめないなんて可哀そうな人だなと思った。

 以前どこかで聞いた話なのだが、人間は同時に二つのことができるほど器用に作られていないらしい。

できると思うかもしれないがどちらかには綻びが産まれてしまうものだそうだ。

 人の食事の心配をしているとふと自分の勉強の仕方が気になった。孤独を紛らわすためにいつも音楽をかけるのが、それが邪魔になってしまっているのではか?本末転倒である。

 これはいけないと思い本日一日ながら禁止デーとすることにした。ながらとは。何かをしながら何かをするのながらである。

 おいしい昼ご飯を食べ終え、公民館に戻ると先のカップルはもういなかった。席に着き参考書を開くが、スマホはカバンにしまった。普段は、音楽を聴くため左の手元に置いているのだがないと不思議な気分になった。

 音楽のない勉強は新鮮だった。いつもより内容が入ってくる気がしたし、周りにいる人たちのこともより意識した。少子高齢化という割には外で老人を見ないなと持っていたが、こんなところに巣があったのかと思った。

 ながら禁止で勉強がはかどりすっかり気分を良くした僕は他のながらもやめてみることにした。手始めにテレビを見ながら食事をすることをやめた。次に風呂に入りながら読書をすることをやめた。お湯が落ちる音を久しぶりに聞いたような気がした。

 今日は少し長い一日だったと思いながら布団に入る僕だったが、問題が起こった。無茶無茶ムラムラするのである。一度布団を出てイヤホンをとってくる僕だったが、ここで悲しいことに気が付いた。AVを見ながらチンチンをいじっては、それはながらなのである。しかし、僕はながらを禁止している。

 どうしようか悩んだあげく一度パンツを上げ集中してAVを見ることにした。普段はボーとしながら画面を見るのだが、今日は違う。女優のそのみだらな姿をどうにか記憶しようと正座しながら食ういるように見つめた。もちろん、目は血走っていたが、息子も先走っていた。

 よし今ならいけると思うとすぐにスマホを切りパンツを下ろし、そびえ勃つ息子をしごき上げる。頭の中では、先ほどまで見ていたAVを必死に思い返していた。しかし、時間を経れ元気がなくなる息子。

 いくらいじってもういじけてしまった息子では、これ以上無理だと判断し、もう一度パンツを上げスマホを手に取った。集中してAVを見てチンチンをいじる。またAVを見てチンチンをいじる。こんなサイクルをかれこれ二時間ほど繰り返すうちにあることに気が付いた。

 オナニーの時AVを見ることをおかずと呼ぶ。これは、食事置き換えるとチンチンをいじることが白米で、AVを見ることがおかずなのだ。つまりはAVを見ることも立派なオナニーの一部なのである。それに気が付いた僕は普通にオナニーして寝た。そんな浪人の一日。

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