信念の果てに
ビュンッ、という風切り音の後に、また一つ獣は動かなくなっていく。
「す、すごい……」
私はフェリウスさんの槍捌きを後ろで見ることしかできなかった。
「……! フラルさん、伏せて!」
「えっ!? あっはい!」
私が慌てて伏せたその上を彼が跳躍して通り抜けていく。同時に槍を横に振り払い、私の背後から近づいてきていた獣を切り裂いた。
疾い。彼を言い表すとしたらこの一言だけだ。判断力、動作の一つ、その全てが疾いのだ。全方位から駆け寄ってくる獣全てをたった一人で仕留めていく。
「前方に四……左右からそれぞれ二、背後からもう二……」
彼には獣がどこから来るのか見えているようだった。背後からきていた獣を一閃。同時に飛びかかる左右からの獣を槍を頭の上で振り回し吹き飛ばす。そして一切の予備動作もなく前からくる獣を一突きし、そのまま横薙ぎし、まとめて吹っ飛ばした。
しかし、彼がいくら強くても多勢に無勢。このままでは押し負けてしまうだろう。
私ができることはないだろうか。教えてもらった風の魔法……はまだ安定せず期待できない。そもそもしっかりと使えたところで、せいぜい吹き飛ばすのが限度だろう。獣を仕留めるほどの風は期待できない。せめて城壁の近くまで戻れば援護は期待できるだろうか。今なら走れば逃げ切れるかもしれない。
「あのっ、フェリウスさん私……」
私がそう思案し、彼に伝えようとした言葉は彼の言葉によって遮られた。
「ご安心を。あなたに傷一つ負わせはしません」
次の瞬間、彼は地に槍を突き刺し勢いで飛び上がり、周囲から飛びついた複数の獣の牙を躱す。着地点を狙った更に来るもう一匹の獣を長い脚で蹴り返して撃退すると、槍を地面から抜いて周囲に振るい、獣をまとめて薙ぎ払った。
……どうやらさっきの考えは私の杞憂だったらしい。彼は疲れる様子を一切見せないどころか、一突きするごとに速さが増しているようだった。
「だが少し妙だ。どうしてこれほどの魔物たちがここに集まってくる……?」
彼が零したその言葉にはっとした。そういえば、さっきからどこからか視線を感じるような気がする。
もしかしたらどこからか見られているのだろうか。しかし周囲を見渡しても獣の姿しか見えない。
「……ッ! フラルさん危ない!」
「えっ、あっ……!」
周囲を見渡しているうちに、いつの間にかフェリウスさんと距離が離れてしまっていた。気付いた時には獣が私目掛けて飛びかかってきていた。咄嗟に目を瞑る。
何かが空を切る音が聞こえた。そして何かの液体が私にかかる。恐る恐る目を開けると、そこには槍に体を貫かれた獣が横たわっていた。
私の腰が抜け座り込むより速く、彼が近寄ってきて獣に刺さった槍を引き抜いた。それから数秒後、ようやく彼があの場所から咄嗟に槍を投擲したのだと気付いた。
「ご、ごめんなさい。ぼーっとしちゃって……」
自分の顔にかかった魔物の地を拭いながら、慌てて彼に近寄る。
私はやはり非力だ。彼の足を引っ張るだけしかできなかった。そんな自分が情けなくて顔を伏せる。
「大丈夫ですフラルさん。騎士に二言はありません。あなたは……あなただけは、必ず私が守り抜いてみせます」
彼は私に優しく微笑むと、再び槍を構えた。
(大丈夫……大丈夫。フェリウスさんは絶対に守ってくれる)
心の底からそう思った。安心感と共に、心が落ち着きを取り戻すのを感じる。
(……考えなきゃ。もし、私たちを見てるとしたら。周りの森の中は視界が悪いから違うはず。そうしたら、もっと見晴らしの良い場所から……?)
思案する私の耳に色んな音が聞こえてくる。フェリウスさんの槍の音、獣たちの断末魔、そして……風の音。
(風……っ! そうだ、空からなら!)
咄嗟に空を見上げる。上に影が見えた。よく見ると大きな羽をはばたかせたフクロウのような怪鳥がこちらを睨んでいるようだった。
「フェリウスさん、上!」
「上、ですか? ……なるほど、そういうことか」
きっとあの怪鳥が獣を指揮しているのだろう。それなら怪鳥を仕留めさえすれば獣が来なくなるはず。
「しかし、槍で倒すには少し距離がある……」
「さっきのような投擲じゃダメですか……?」
「……恐らくは。今は停空していますが、虚でもつかない限り躱されてしまうでしょう」
何か手はないのだろうか。怪鳥はこちらを凝視している。もしも、不意打ちができるとすれば私だけだ。きっと怪鳥の目には、私は何もできない非力な存在に見えてるはずだから。
空にいる、ということは風の影響を受けやすいということだ。……もしかしたら、体勢を崩すことぐらいはできるかもしれない。
私は彼の方へと向き直った
「フラルさん、何か策あるのですか……?」
しかし、練習した時はあの距離に届くほどの風を起こせたことはなかった。もしも失敗すれば、フェリウスさんは槍を手元から失うことになる。そうすれば苦しい戦いは避けられないだろう。
「はい。……でも、もしかしたら失敗するかもしれません。もしそうなったら……」
ここで諦めるようなことはしたくなかった。しかしどうしても、誰かを巻き込んでしまうかもしれないと思うと、心から不安がぬぐい切れなかった。
「……やりましょう。私はあなたを信じています。それに、私たちは一人じゃない。二人ならきっと出来ます。だからどうか、自信を持ってください」
「っ……はい!」
一人じゃない。彼を勇気づけた言葉が、私を勇気づけてくれた。
(アムレーラさんは、私に才能があると言ってくれた。それに……)
私はアムレーラさんとの練習の時のことを思い出していた。
(精霊魔法は、心をリンクさせるもの。私が強く願えば、それにきっと応えてくれるはず!)
体中の神経が研ぎ済まれるような感覚がする。大地を翔ける風の姿が視えたような気がした。
「……! フェリウスさん!」
「お任せを!」
フェリウスさんが思いっきり空に向かって槍を投げた。怪鳥が姿勢を変え、移動しようとするのが見える。
(……今っ!)
「精霊よ……お願い、私に力を貸して!」
瞬間、私の手から大きな竜巻が生まれ、ものすごい勢いで空に伸びていった。そのまま怪鳥の羽を直撃し、怪鳥が大きくよろめいた。そしてほぼ同時に、槍がその体を刺し貫いた。
「やった……!」
「フラルさん、こっちへ!」
「! はいっ!」
彼の声の方に向かって走った。獣の牙が私の体に届くより早く、体が包まれ宙に浮かぶ感覚がした。
彼が私を抱きかかえて跳躍したのだ。彼は空中で槍を片手で受け止め、そのままきれいに着地した。
「お見事です。手助けありがとうございます。フラルさん」
「私こそ、ありがとうございます。守ってくれて!」
彼は優しく私を地面に下してくれた。そしてすぐに槍を構え、獣たちに向き直った。
獣たちは暫くうなり声をあげてこちらを睨んでいたが、落ちてきた怪鳥の姿に視線を移すと、そのまま踵を返して森の方へ帰っていった。
「はやりあの鳥が獣たちを統率していたようですね」
「なんとか倒せてよかったです。あの、お怪我はないですか」
「はい、大丈夫です。しかし……自分の心配よりも先に、私の心配をしてくれるのですね」
「ごめんなさい、そういう性分なんです。お気に障ったのならごめんなさい」
「いえ、決してそんなことはありませんよ。……きっとそういう所も、あなたの魅力の一つなのでしょう」
そう優しく微笑みかける彼の頬は少し赤く色づいてるように見えた。そんな彼を見る私の顔も、何故か少し熱かった。
「しかし、今まであのような魔物を見かけたことはありませんでした。街にはパルシオンやディテイスがいるから大丈夫だとは思いますが、少し不安です。早めに戻りましょう」
だいぶ時間をかけてしまったので、私たちは少し早歩きで城壁の方へと戻っていた。その最中、私はディテイスさんとアムレーラさんの会話を思い出していた。
(魔物が脅威になるとしたら、統率されるとき……確かアムレーラさんたちはそんな話をしていたはず)
私がそう考えこんでいると、フェリウスさんが独り言のように呟いた言葉が耳に入ってきた。
「しかし、魔物が統率されるとこうも厄介になるものなのですね……」
丁度フェリウスさんも同じことを考えていたらしい。
「そういえば、アムレーラさんとディテイスさんも、同じような会話をしていました」
「そうだったのですね。……ふむ」
彼は少し考えこんでいるようだった。
さっき戦っていた魔物はそんなに脅威ではないのだろう。それこそ、フェリウスさんでなくても普通の兵士だったら無理なく対処できるくらいのレベルの。
しかし、今回のように位置を知られ数で押されてしまうと、長引けば長引くほど苦戦、或いはそのまま……なんてことも有り得たのかもしれない。
「……どうやら何か、嫌なことが起きる予感がします」
「嫌なこと、ですか?」
「ええ。実は最近、魔物たちの動向に少し違和感があったんです。具体的に言えば、いつもより明らかに数が少なかったのです」
「数が少ない……?」
「最初はそもそも何かしらの影響で魔物の数が減っているのだと考えていました。例えば自然災害、或いは強力な他の魔物に食い荒らされた、もしくは人為的に起こされたものだと。しかし、このどれも対処は難しくはないと考えていたのです」
「そう、なんですか?」
「はい。我が国は自然災害への蓄えは十分にあります。強力な魔物が出現していたとしても、パルシオンやディテイス、私が協力して動けば対処はどうにでもできるでしょう。人為的なものだった場合、国絡みの面倒ごとが予想されますが、自国を守るだけでいい我が国はとても守りやすいと言えるでしょう」
確かに、聞けば何となく理由は納得できた。自然災害への対処はよく聞く話だったし、さっきのフェリウスさんの実力を見ればそうだろうとも思える。人為的なものについては、アムレーラさんとディテイスさんも似たような話をしていた記憶がある。
「しかし、今思えば全ては繋がっていたのかもしれません。魔物たちの動向に加えて、王の殺害予言。それに……魔術師アムレーラと、ディテイス。国の裏側をよく知るこの二人が動いてることを考えると……大きな何かが動いてるような不安感に駆られます」
「大きな、何か……」
「具合的に断定できないのがなんとも歯痒いものです……」
不安感。私が抱いていた嫌な予感と同じものだろうか。と言っても私は国の人々が抱いていたものを感じ取っただけなのだけれど。
「……フラルさん、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はい。私に答えられるものだったら、何でも聞いてください!」
「ありがとうございます。その、あなたから見てディテイスは信用できる人物だと思いますか?」
「ディテイスさん……ですか?」
てっきり昨晩の会話の内容をもう少し聞かれるとばかり思っていたので、予想外のことを聞かれたので言葉に詰まった。
私から見た、ディテイスさんの印象。それは……
「ディテイスさんには二回ほどあったことがありますけど、悪い人じゃないって私は思います」
これが私の答えだった。裏は多いだろうが悪い人じゃない。
「……そう、ですか。ありがとうございます」
フェリウスさんはそれで納得したようだった。
「あの、私なんかの答えを参考にしてもいいんですか……?」
「理由はわかりませんが、フラルさんが大丈夫っていうことなら大丈夫だと、そう思えるんです」
彼はにっこり笑ってそういった。あまりにも真っすぐにそういわれてしまったので、少し照れ臭くなって顔を伏せた。
それにしても、彼の強さは本物だった。疑っていたわけじゃなかったけど、それ以上に想像をはるかに超えていた。
彼は寂しさを埋めるためだって言っていたけど、誰かを助けようと思い行動するのは彼の立派な信念だと思う。その信念があったからこそ、彼はここまで強いんだろう。
なんだか、彼が報われているような気がして嬉しくなった。自分の周りの人が報われることほど、嬉しいものはないと思う。
「王城が見えてきましたよ、フラルさん。長旅お疲れ様でした」
「あっ本当だ。フェリウスさん、私に付き合っていただいてありがとうございました!」
遠くに見えたお城の影が、数時間しかたっていないはずなのにとても懐かしく感じた。なんとなく街やお家が恋しくなってきたので、影の方に向かって走り出した。
「あっ、フラルさん。急に走ると危ないですよ」
「えへへっ、早くしないと置いていっちゃいますよ!」
「ふふっ、まさか。置いて行かれるほど私は鈍っていませんよ」
少し遅れて彼も走り出した。すぐに追いつかれちゃったけど、なんとなく楽しくなって、そのまま二人で王城まで走っていった。
街にいるときは走ることなんて滅多になかった。馬車に乗ってたほどじゃないけど、景色が速く後ろに流れていく光景。足で感じる大地の柔らかさ。そして、体を撫でるように翔けていく風の心地よさ。その全てが新鮮で、疲れを忘れて走った。
ようやく息切れして、徐々にスピードを下げて足を止めた。後ろにいたはずの彼はいつの間にか横に並んで走っていて、私がスピードが下げると同じようにして止まってくれた。さっき走っていた感覚は、こうして彼が隣で一緒に走っていたからこそ感じられた感覚なのかもしれない。
「はぁ、はぁ……フェリウスさん。本当に早いですね」
「鍛えてますから。それに正直、フラルさんも想像よりも早くて驚きました」
「ほんとですか? 私、昔からあまり運動は得意じゃなかったんですけど」
「お世辞は言ってませんよ。本当に早かったです。まるで風があなた押しているようでした。フラルさんはお花に限らず、風や自然に愛されているのですね」
出てきた時と同じ門をくぐり街へと戻ってきた。しかし……街の雰囲気が少しおかしかった。少しざわざわとしているような。これはまるで……
(王城に予言が届いた時と同じ雰囲気……?)
街から出てきた時はそんな雰囲気感じなかったのに、この数時間のうちに何か起きてしまったのだろうか。
「あの、フェリウスさん……」
「はやり、感じますか? 何か、少し街がざわついていますね……」
嫌な予感。フェリウスさんがそんなことを言っていた。胸騒ぎがする。どうかお願い、街の人が無事ていてほしいと願うことしかできなかった。
「アドルブルー隊長!」
突然背後から声をかけられた。振り返ると青色の鎧を着た兵士がこちらに走ってきてるのが見えた。
「! どうした、何か緊急事態か?」
「はいっ、ええと緊急事態といいますか……」
「どうした? 口籠るなんて珍しいな。言ってみせてくれ」
「ええと、その、隣にいるのは、魔術師の予言に使われた花屋の娘ですよね?」
「わ、私ですか? そうですけど……あの、何かあったんですか?」
「……すみません、耳打ちでもよろしいでしょうか」
「……ッ!? それは本当なのか!」
「え、ええ。自分も現場をこの目で見てきたので間違いないかと……」
フェリウスさんが大声をあげるなんて。本当に何があったのだろうか。
「何故、そんなことに……!」
向こうの方に人溜まりが見えた。確か向こうは、私の店が近いところだった気がする。
「……フラルさん、今日は王城へお越しください。私が招待しますので……」
フェリウスさんが私に何か話しかけているような気がしたけど、私には聞こえてなかった。何か、焦げ臭い匂いが鼻をつついて気になってしまったのだ。
「! フラルさん、そっちには行ってはダメです!」
気づけば走り出していた。心臓の音が大きく聞こえた。
「すみません……どいてください!」
人込みをかき分けてひたすらに走る。夢中で走ってるうちに視界が開けた。
そこにあったのは、ボロボロの焼け焦げた木の塊だった。一人の男性が立っているのが見えた。紅い髪をして、その鎧は紅く染まっていた。あれはパルシオンさんだ。
いや、そうじゃない。それも凄く大きなことだけど、もっと大きなことがあった。
「フラル嬢ちゃん!? 無事だったか。しかしこりゃあ一体……」
「あ、アレクシスさん……」
懐かしく感じる声に呼ばれて振り向いた。アレクシスさんは私を見て少しほっとしたようだったけど、それでも青ざめていた。
そこにあったもの。というよりないのだ。そう、今パルシオンさんが立っている場所は元々私の花屋があったはずの場所だった。
つまり、あの焼け焦げたものは……。そこまで考えて、分かってしまって、現実が受け止めきれなくて膝から崩れ落ちた。
「おいっフラル嬢ちゃん! 大丈夫か!?」
「……どうして?」
私の口から出たのはそんなか細い言葉だけだった。
「……ッ! 遅かったか……。 おいパルシオン。これは一体どういうことだ」
「フェリウス。こんな大事な時に一体どこをほっつき歩いていた? まぁいい。もう済んだことだしな」
「どういうことだと聞いている。これはお前の仕業なのか?」
「なに、ここにあの予言の魔術師がいてな。あいつを生かしておくのは危険だと判断したから燃やしたまでだ」
「……!? あ、アムレーラさんが?」
私の家だけじゃなく、アムレーラさんまで?視界が黒くぼやけて見える。
「しかしだからといって、市民の家を焼くなど騎士として言語道断だろうッ!」
「ほう、お前にしては熱くなるじゃないか。しかし冷静に考えてみろ。街にあの魔術師がいたのだ。むしろこの家一軒だけで済むのなら被害は少ないだろう」
「……それは、そうだが。しかし、他の方法はなかったのか?」
「引き下がるなんて本当に珍しいな。しかし悪いが、諸悪の根源を断つためなら、多少の犠牲は顧みないのが俺の信念だからな。それに従って行動したのみだ。それともお前は、大勢の市民の命より、その娘の家の方が大事だというのか?」
「くっ……私は……」
「それと、もうすぐ鐘が鳴る時間だ。早く位置に戻れ」
「……すみません、フラルさん。これでは守るなんてとても……」
フェリウスさんは俯きながら去っていった。まるで、一人ぼっちになってしまったような感覚に陥った。
いろんな人の声が耳に入ってくる。
……パルシオン様が悪い魔術師を打ち取ったぞ!
……流石次期王様になるお人ね! 平和は守られたのよ!
アムレーラさんは悪い人じゃないのに。私の家が焼かれているのに。他の人たちからは歓喜したり、安堵したりする声が聞こえる。
分かっている。知らない人からしたら、そうなるのは当たり前だって分かっている。でも……
(気持ち悪い……人々の声がすごく気持ち悪い……!)
そう思わずにはいられなかった。
「……フラル嬢ちゃん、今日は俺の家に泊まりな。いや、今日までとは言わず、気持ちが落ち着くまで居てくれていい」
アレクシスさんがそう声をかけてくれた。しかし。
「そこの殿方よ、それは無用だ。その娘は王城で預かろう」
「あん? おい、誰のせいでこうなったと思ってんだこの赤髪野郎!」
周りがざわついた。私はハッとして顔を上げる。
「ふん。俺のせいでこうなったならばこその処置だろう。それに、その娘はさっき魔術師の名前を口にしていたな。どうやら連れ去らわれていたようだし、そのことについても色々聞かねばならないのでな」
「ふざけんな! お前、こんな状態の娘にそんなことするなんて、許さねえぞ!」
「やめて! アレクシスさん! 私は大丈夫ですから、だから……」
私はアレクシスさんの目の前に立ってそう叫んでいた。
「どうやら君よりも、その娘の方が状況をよくわかっているらしいぞ。あまり私に歯向かわない方がいい。君のような心が優しい人を、反逆罪で捕えたくはないからな」
「……畜生ッ!」
余裕そうに笑いながらそう言うパルシオンさんに、成すすべがないようにアレクシスさんが自分の拳を地面に叩きつけた。
「さぁ、王城までご同行願おうか。なに、大人しくしていれば手荒な真似はしない。当たり前だが、君に拒否権はあるとは思わないでくれ」
そう言われ、私は成すがままに兵士たちによって馬車に連れられた。