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Flower Knight  作者: 素歌
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精霊魔法

 いつの間にか気を失っていたらしい。目が覚めると、そこは見知らぬ洞窟のような場所だった。一応、床にはカーペットらしきものが引いてあり、体はそこまで痛くなかった。

 辺りをよく見渡すと、壁にいろいろな道具らしきものが張り付けてあった。特に、その中の杖のようなものになんとなく惹かれる。そっと手を伸ばすと……


「それには触らない方がいいわ」

「ひゃっ……あ、アムレーラさん」

 後ろを振り向くとそこに彼女が立っていた。いつも通りの恰好ではあったが、フードは脱いでおり、彼女の綺麗な長い黒髪が見えていた。

 こうして改めてみると凄く美人な人だと思う。吸いこめれるようなアメジスト色の瞳に、毛先がカールしている黒髪。ストレートな私はちょっと羨ましかった。

 それだけじゃなく、胸が大きかった。私は……

「どうしたの? そんなに人の体じろじろ見つめて」

「あっ、いえ、なんでもないです」

 見つめすぎてしまったようだ。別に、私もあんなスタイルになりたいなとか思っていたわけではない。

 ……いや、本音を言えばすごくなりたいのだけど。親から貰った体は大切にすべきだと思ってるので、不平不満は言うべきじゃないと思うのだ。そう、例え病弱だろうが、胸が小さかろうが……


「そう、ならいいのだけど。急に連れてきちゃって、もっと焦ってるかと思ったら案外落ち着いているのね」

 少し不思議そうな表情をしながらそういいつつ、彼女は私のそばまで近寄ってきた。

「体、違和感あるところとかないかしら?」

「はい、特には大丈夫です。えっと、それでここは……?」

 本来は真っ先に聞くべきであろうことをようやく尋ねる。

「そうね、私の仮拠点とでもいうべきかしら。今はここが私の家みたいなものよ。大体あの国から五キロくらい離れた場所にある洞窟よ」

 なるほど。これで壁にある不思議な道具の説明がつく。とは言っても、薄々検討はついていてはいたのだけど。

「じゃあ、さっきの杖も魔法の道具なんですか?」

「ええ、そうよ。あの杖には対象を封印する効果が込められていてね、どんなものでも閉じ込めてしまう優れモノなんだけど、所持者から魔力を沢山奪っちゃうのよ。だから魔法に精通してない人は持つだけで倒れちゃったりするの」

 なるほど。魔法の道具にはを触れるな! というのはなんとなくの知識で知っていたのだが、こういう実例があるからなのだろう。

 アムレーラさんから、魔法の道具は魔具というのよ、と教えてもらった。

「他にはどんな魔具があるんですか?」

「なんだか興味津々ね、魔法に興味があるの?」

「普段魔法なんてものとは無縁だったので、なんか物珍しくなっちゃって……」

「そうね……」

 アムレーラさんが私の顔を覗き込んできた。アメジスト色に光る瞳と、ルビー色に光る瞳が交錯する。

「あら、あなた魔法の資質があるみたいね。これは……なるほど、緑の精霊かな」

「えっ、そうなんですか? えっと、精霊……?」

「この世の中にはいくつかの属性っていうものがあってね。あなたは緑色、自然属性を持つ精霊に愛されいるみたいね。……それに、魔力量も結構あるわ。そうね、人一倍花や自然に対して真摯に向き合ってきたあなただから、こんなにも愛されているのかもね」

 難しいことはよくわからないが、自分が今までしてきたことがお花たちに認められているのだといわれているように感じて、少し嬉しかった。

「私の魔法は精霊魔法じゃないから少し勝手が違うのだけど……まぁ、簡易的な魔法くらいなら大丈夫かな。まずはシンプルに風を起こす魔法辺りから……」

「えっと……? アムレーラさん?」

「よし、そうと決まればさっそく練習よ。ほら、外に出るわよ」

「えっ、いやあの、私別に魔法が使いたいわけじゃあ……」

「折角才能を持ってるのに開花させないなんて、そんなもったいないこと魔術師としては見逃せないわよ。ほら、はやくはやく」

 彼女に有無を言わさぬ速さでそう言われ、私は半ば強引に外へと連れられるのだった。



「ここが城壁の外……」

 私はその景色に圧倒されていた。そう、城壁の外を見るのは初めての事だったのだ。

 どこまでの続くかのような大地。のびのびと生い茂っている草原が、心地の良い風が吹かれなびいている。

「そっか、城壁の外の景色見るの初めてなのね」

「はい、こんな景色、私初めてです……!」

 その雄大な大地を前に、私は自分のスケールの小ささを実感していた。自分の生きてきた世界が箱庭であると初めて実感していた。気に病んだわけではなく、むしろ、胸がドキドキするような高揚感に満ちていた。

「私にはまだ、知らないことがたくさんあるのかな」

 ポツリと口から滑り落ちるようにそんな言葉が出てきた。

「ええ、そうよ。これからやる魔法もそうだけど、世界にはあなたがまだ知らないことがたくさんあるの。沢山で歩いてる私でも、知らないことはいっぱいあると思うわ」

「アムレーラさんでも、知らないこと……」

 その言葉に私の中で何かが変わる音が聞こえた。


 冒険家だった父もかつては、このような気持ちに駆られたのだろうか。父は今も、この大地の続くどこかにいるのだろうか。考え出すと止まらなかった。

「うふふ、楽しそうで何よりだわ。さぁ、魔法の練習も始めちゃいましょう」

「はいっ!」



「いい? 精霊魔法というのは、精霊から魔力を借りて発動させる魔法なの。私は自分の魔力を使って魔法を発動してるから、普通の魔法とはそこが違いね」

 アムレーラさんは懇切丁寧に教えてくれた。対する私も真剣に聞き入っていた。半ば強引な流れではあったものの未知なる力への興味は強かった。

「だから魔法を使うときは呼びかけるように念じるの。あなたが日ごろから花にしているように、自然に向けて感謝を伝えるようにね」

「えっと……念じるだけでいいんですか?」

「勿論魔法の発動に必要なことは念じることだけじゃないわ。魔具を使ってようやく発動できる魔法もある。でも、ここは自然豊かな場所だから、簡単な魔法ならコツさえ使えばすぐにできるようになるわ」

 彼女はそういうと、静かに祈り始めた。

「……精霊たちよ、私の呼びかけに応じなさい。そして、その力をここに示しなさい」

 そう呟くと、彼女の掌の上に風が渦巻いたのが見えた。少しの間風はその場に留まり、そして消えていった。

「まぁ、こんなものかしらね。私はそこまで精霊に愛されてるわけじゃないから、そこまで強い魔法が使えるわけじゃないのだけど、それでもやり方さえ分かればこれくらいはできる。精霊に愛されている人がやれば、より大きく、より長く、様々な魔法が使えるわ」

「す、すごい……!」

 自分が目の前で目撃した不思議な現象に、私は魅入ってしまっていた。経験するのは初めてではないかもしれないが、ゆっくりと見れたのはこれが初めてだった。


「じゃあ早速やってみましょうか。目を閉じて」

 私は彼女に言われるまま目を閉じた。

「この自然をあなたの体で感じるの。風の動き、なびく葉の揺れる音。そういう自然だけを意識して」

 心地よい風が私の体を吹き抜けるのを感じる。それを感じるたびに、遠くの方でサァサァと音が鳴る。

「後は祈るの。その自然が自分を味方してくれようにイメージして。さぁ、やってみて」

「えっと、精霊……さんたち、よ。私の呼びかけに答えて……ください。そしてその力をここに……」

 自分なりに思ってはみるが、特に何も起こりはしなかった。少し落胆しながら目を開けると、アムレーラさんがほほ笑んでいた。

「まぁ、魔法は最初から上手くいくものじゃないわ。ずっと、繰り返し練習することが大切なの。根気よく、ね」

「やっぱりそう、すぐ使えたりはしませんよね……」

「大丈夫よ。あなたなら練習を重ねれば直ぐに使えるようになるわ。そうね、後はコツを掴むことと、自分なりのやり方をつくることかな」

「自分なりのやり方……ですか?」

「たとえば私は、精霊たちを従える、私の力の一部になるように祈るわ。普段自分の魔法を使ってる私だからこそ、精霊を魔力の一部として利用するようにね。でも、あなたは精霊を従える、という考え方は性に合わないんじゃないかしら」

 私のやり方。それはつまり、私の考え方。

「精霊魔法は、精霊たちと魂……心を共鳴させて、その力を借り受けるもの。だから、魔法の唱え方は個々の在り方によって変わってくる、ということね。大切なことは、心をリンクさせること。そして精霊へ祈ること。それができれば、自ずと精霊たちは力を貸してくれるわ」

「なるほど……私、やってみます!」

「ふふっ、その意気よ。幾らでも付き合ってあげるからやってみなさい」

「はいっ!」


 私は何度も何度も試した。祈り方を模索しつつ何度も試してみた。そのたびに失敗して少し凹みそうになるけど、アムレーラさんが優しく教えてくれるので、挫けずに頑張ることができた。そして遂に……

「精霊さん、その力をどうか、私に貸してください!」

 そう祈った直後、私の掌の上に小さな竜巻が現れた。

「わぁっ……あ、消えちゃった」

 竜巻はその場に長くは留まらず、すぐに消えてしまった。

「成功よ! こんなにすぐできるようになるなんて、私の見込み通りね!」

 彼女はそういい、凄く喜んでくれた。

「成功した後も、気持ちをそのまま保つことが大切よ。焦らず、驚かず、強く祈れば祈るほど精霊はそれに答えてくれるわ」

「はいっ! ありがとうございます!」

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