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Flower Knight  作者: 素歌
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Flower Knight

最終話になります。

少し長いのでお気を付けください。

 騒然としている街の中を城壁を目指して駆ける。私の足はフェリウスさんほど早くはない。城壁に向かうだけでもそれなりの時間がかかってしまうだろう。

 だが、そんなことをしている間にも、彼らは戦ってくれているのだ。私が休んでる暇なんてない。息を切らしながら必死に走った。

 やがて、城壁へとついた。そこは兵士たちが忙しそうに駆け回り、怪我人の手当てを急いでいた。

「市民の方は城壁に近寄らないようにしてください!」



 そう兵士が叫んでいる声が聞こえる。その腋をすり抜けて走り出す。

「あっちょっと! そこの女の子、止まってください!」

 その制止を振り切ろうとするが、直ぐに城壁にいた兵士に捕まってしまった。

「今は危険なんです! 離れてください!」

「離してください! 私は……行かなきゃダメなんです!」

 そう精一杯兵士へと叫んだ。しかしその兵士は困惑するだけで、話を聞いてもらえそうになかった。

「とにかく、いったん落ち着いて話を……」

「お、落ち着いてる場合なんかじゃ……」



「そこを通せ。これは、お前らの隊長、フェリウス殿からの命令でもある」

 私たちが話している後ろで突然、そんな声が聞こえた。

「あ、あなたは?」

「アビルさん! いつの間に……」

 そこに立っていたのはアビルさんだった。見るとその後ろには三番隊の兵士たちが募っていた。

「フェリウス殿から現状を聞いた時、直ぐに三番隊を編成し援護に向かえとディテイス殿から命令が下った。二番隊と一番隊の同胞よ。助太刀致す」

「ほ。ほんとですか! 良かった、これでフェリウスさ……隊長が戻る時間を稼げる!」

「して、この少女は本作戦の要だ。通してやれ」

「この女の子が……? って君は! 昨日フェリウスさんと一緒にいた子か! なるほど。それなら納得だ。分かった、通ってくれ!」

「……! はい!」



 良かった、なんとか王城の外へは出ることができそうだ。

 兵士に先導してもらい、城壁をくぐる。そこは、昨日見た景色とは全く別の光景が広がっていた。

「これは……酷い」

 沢山の魔物の死体。沢山の血。それらで溢れかえっていたのだ。

「……フラル殿、暫しの距離までは拙者らが援護致す。その隙に」

「! はい、分かりました! 有り難うございます、アビルさん!」

 私が俺を言うと、アビルさんはぷいっとそっぽを向いてしまった。

 ……もしかしたらアビルさん、女性が苦手なのだろうか。もしそうだとしたら、色々と本当に感謝しなければならない。無事に帰ってこられたら改めてお礼を言おう。そう思った。

 いや、今から終わったことを考えるなんて早すぎるだろう。今私がすべきことは行くことだけだ。私は前を向いて走り出した。



 私の先で待ち構える魔物が次々と切られ、貫かれ、吹き飛ばされる。そうしてできた道を私は必死に走った。

 やがて騎士たちは周囲を確認すると、こっちをみて頷いた後、城壁へと戻っていった。辺りに残っている魔物は殆どおらず、安心して進めるようになった。

 しかし……私は気づいていた。そんな私を観察する目があることを。

 私の遥か上空に影が一つ見えた。あのフクロウのような魔物が一羽、私を追いかけてきたのだろう。それは、私のもとへ魔物たちが寄ってくることを意味していた。

 だが、私は自分でも恐ろしいほど冷静だった。頭が冴えわたり、一秒一秒がとても長く感じられた。



(大丈夫。これならきっと)

 私は向きを変え、脇の森へと突っ込んだ。森の中は凸凹していて走りにくい。何よりも障害物が多くて走るのには向かない。

 だが、その自然の障害物は等しくあの怪鳥の目も妨害しているのだ。これで魔物たちが私によって来ることはないだろう。

 更に。私はありったけの気持ちを込めて念じた。

(森の妖精よ……お願い、私に、あの洞窟まで連れて行く力を!)

 瞬間、自分の後ろから強い風が吹くのを感じた。その風は私の背中を強く押し、不思議と体の疲れも癒してくれた。



 私は森の中を必死で走った。息が切れても、枝に当たって体が傷ついても、石に躓いて転んでも直ぐに起き上がって走った。

 そうして走っていると、長い髪の毛が邪魔だった。自分の髪はそれなりに気に入ってたのだが、私は躊躇うことなくそれをガーデニング用のはさみで短く切った。

(これで少しは走りやすくなるかな)

 切った髪をその場に落として、私は再び走り出した。無我夢中だった。右も左も分からない森の中をひたすらに走っていた。

 ……自分でも不思議なことなのだが、方向なんて滅茶苦茶になっている筈なのに、何故だか確信を持って走っていた。

 どこからともなく、声が聞こえるのだ。

(ち……よ……こっちだよ……)

 その声は幻聴なのだろうか。本物なのだとして、いったい誰の声なのだろか。何も分からないけど、でも、きっと大丈夫だということにだけ確信はあった。

 

 そうして走っているうちに森を抜けた。遠くの方によく目を凝らすと、あの洞窟が見えた。

(見つけた! あそこだ!)

私は急いで洞窟へ駈け込もうとした。しかし……。

「……嘘。こんなことって」

 それはできなかった。

 その洞窟の前に、深い崖があったのだ。幅は十メートルほどで、深さはその倍以上はあるようだった。アムレーラさんといた時は陰になって見えていなかった。フェリウスさんと来た時にはこの距離まで近くによらなかったから見えなかったのだ。

 橋のようなものはないかと辺りを見渡してみるが、それは見付からなかった。当たり前だ、ここは普通の道からは外れた場所にあるのだから。



 どうしよう、どうしようと考える。ここまできて何もできずに終わりたくなかった。

 ――いや、本当は。正しくはどうするべきか、なんてとっくに分かりきっていた。

 そうだ。ここまできたのならばやらないわけにはいかないのだ。

 跳ぶしかない。普通に考えたら無理だろう。だが、私には風の力がある。それに押してもらえればいける……かもしれない。

 無茶だとわかってる。無謀だとわかってる。足がすくむ、想像しただけで背筋がぞっとする。

 それでも。私は決意していた。

「私は……帰るって約束したんだ。だから!」



 思いっきり崖に向かって走り出した。そして、崖ぎりぎりで精一杯足に力を入れて跳んだ。

 当然、そのままでは届かない。すかさず私は叫んだ。

「森よ、自然よ! 私を飛ばして!!!」

 瞬間、背後から物凄い突風が吹き荒れた。それは私の体を押し、大きな推進力となる。

(後、少し……!)

 崖に向かって手を伸ばす。あと数センチ、あと数ミリ……。

 その距離が足りなかった。私の手は空気を掴み、そのまま下へと落下していく。

(そんな……ここまで来て、そんな)

 思考が加速する。落ちたらどうなるのだろう。死にはしないかもしれないが、大怪我は免れない。そうなったらとても上へは登れない。約束は……守れない。

 もう二度と会えない。街のみんなにも、パルシオンさんにも、ディテイスさんにも……フェリウスさんにも。

「……やだ。そんなの」

 無意識のうちに私の口から言葉が出ていた。

「そんなの嫌だ! 私は! 皆を! 助けたいんだ!!!」



 その叫びが崖の中で大きくこだまする。

 瞬間、その場に異変が起きた。大地が大きく揺れ始めたのだ。そして、崖下がみるみるうちにせりあがってくるのが見えた。

「きゃっ……」

 私はそれに落下した。しかし不思議なことに痛みはそんなに感じられず、柔らかい感触が私の足に当たった。

「これは……花?」

 地面には沢山の花が咲き乱れていた。ラベンダー、タイム、グロリオサ、そして、ガーベラ。様々な花が不自然なほどにその一面にだけ咲き乱れていた。

 そのまま地面はせりあがっていき、崖上にまで上がった後、地面の揺れは収まった。



 前を見ると、緑色のモヤのようなものが見えた。それには不思議な力を感じ、どこか生きているように感じた。

「――もしかして、あなたが助けてくれたんですか?」

 私がそう問いかけると、そのモヤはふよりと膨れ上がった後、そのまま消えてしまった。

(……精霊魔法は、精霊と心をリンクさせる魔法。私の強い思いとリンクした精霊が、ここまでの事をした……ということでいいのかな)

 相変わらず詳しいことは分からないままだった。でも、確かに分かることがある。

「ありがとうございます!」

 私は助けられた。そして、まだ動ける。私は精一杯の感謝の気持ちを込めてお礼を言った後、すぐに洞窟内へ駆け込んだ。



 洞窟内は、私が居た時とほぼ変わっていなかった。やはりここにアムレーラさんは戻っていないようだった。

(確かこの辺に……あった!)

 私が目覚めた時、なんとなく興味が引かれて触ろうとした杖。その杖に手を伸ばした。

「痛ッ!?」

 その杖に触れた瞬間、手の先を電流が走ったような感覚が襲った。

( 所持者から魔力を沢山奪っちゃうのよ。だから魔法に精通してない人は持つだけで倒れちゃったりするの )

 そんなアムレーラさんの言葉を思い出す。

(今のは痛みじゃない……あの杖に私の魔力が吸われたんだ)



 少し触れただけで、あれほどの衝撃を感じたのだ。長く持つのは危険なのだと直感的に判断した。

(でも、アムレーラさんは私には魔力量はあるとも言ってくれていた。それなら、平気のはず……!)

意を決して、私はその杖を掴んだ。

「うっ……」

 手の先がびりびりするような感覚に襲われる。それでも手をギュッと固く結び、離さなかった。

 そして、すかさずポケットからお札を取り出し、念じた。

(お願い……私をあそこに連れて行って)

 愛しい人々が生活しているあの国。大切思い出が詰まったなあの町。そして。

 約束をした。パルシオンさん。ディテイスさん。それに――

「フェリウスさんのところに、私は帰るんだ!」

 そう叫ぶと、お札から緑色の光が溢れだした。その光に私の体は徐々に飲み込まれ、私の全身を包み込んだ。







 その光に埋めれていく中で、声が聞こえた。



「ハハハ! ほらほら、だんだん威勢がなくなってきてんぞオラァ!」

 あの忌々しい声が聞こえる。



「グッ……しぶといやつめ!」

 その怒りに満ちた声が聞こえる。



「はぁ、はぁ……私は諦めない、絶対に!」

 そして、ずっと聞きたかった声が聞こえた。





 目を開けると、私は王城の最深部まで戻ってきていた。

「フラルさん! よくお戻りで!」

「フラル! その杖がそうなのか!」

 戻るなり、フェリウスさんとパルシオンさんに声をかけられた。

 見ると、二人は満身創痍だった。鎧はボロボロになり、頭からは流血していた。

「っ………今、戻りました! これで決着をつけましょう!」

 私はそういって、悪魔へと向き直った。



「女、本当に戻ってくるとは思わなかったぜ。俺はてっきり逃げ出すための出まかせの嘘をついたのかと思ってたよぉ!」

「そんなこと、あるわけ……」

「おやぁ? よくみりゃお前もボロボロじゃねーか。それに嫌に苦しそうだぜ? 無理しないで楽になっちまえよ!」

 そう嫌味を吐き散らすヴィーセ。だがその目が杖をしっかりと捉えた時、その表情が変わった。

「その杖は……なるほど。はったりなんかじゃあなかったわけだ。まさかそんなモンを目にするとはな……」

 ヴィーセは急に考え込むような素振りを見せた。次の瞬間。

「ただの女がでしゃばりすぎだ! くたばっちまいな!」

 突然その場所から私に向かって猛突進してきたのだ。

「ッ、危ない!」

 私は衝撃を受けて横に吹っ飛んだ。私のいた場所から突き飛ばされ、ヴィーセとの衝突は免れたのだ。

「パルシオンさん!」

「パルシオン!」

 私を突き飛ばしたパルシオンさんはヴィーセの突進を直撃してしまい、物凄い勢いで吹っ飛ばされた。

「ぐあッ……」

 そのまま壁に激突し、苦しそうにその場に蹲った。

(やらなきゃ、今すぐ!)



 私はすぐに杖に向かって念じ始めた。

(私はこの杖の正しい使い方なんて分からないけど……でも、きっとできる!)

 杖に白色の光が纏い始めた。それをヴィーセに向けて放った。

「グアアア! おのれ、おのれええええ!」

 ヴィーセは初めて余裕のなさそうな叫び声をあげた。

「この俺が、俺様がァ! テメェらみてぇな下等種族にぃ!!!」

 そして、その体から紫色の光を発し、私の杖の白い光に向けて撃ち返してきた。

「うっ……!?」

 物凄い衝撃を杖から感じた。私の杖から出ている白い光が押し返されていた。精一杯力を込めて杖を前に向けようとするが、あまりに力に腕がひしげそうだった。

 杖を握っている手が物凄く痛い。息ができない。苦しい。私は杖を離さないようにするので精いっぱいだった。



「ハハ、ハハハハ! 逆にテメェが封印されちまえ!」

「ッフラルさん! ヴィーセ!」

「おっと! テメェはその場から動くんじゃねぇ!」

 一連の流れを見たフェリウスさんはヴィーセに槍を突き刺そうとする。しかし、ヴィーセが放った魔法陣がフェリウスさんを取り囲んだ。

「くっ……これは!?」

 それはフェリウスさんを囲み、薄黄色の結界となった。フェリウスさんは結界に向かって思いっきり槍を突き立てるが、結界はそれを弾き飛ばす。

「ソイツはテメェらの主のお得意の結界魔法だよ。ようやくチカラを吸収出来始めたから使ってみたが効果は抜群ってところか。精々そこで指しゃぶって見てな!」

 フェリウスさんは何度も結界に向かって槍を突き立てた。しかし、その度に結界は槍を無情にもはじいた。

「そんな……こんな、ところで……私はまた、何もできないのか!」

 フェリウスさんが悔しそうに結界を思いっきり拳で殴った。ヴィーセは余裕ができたといわんばかりに高笑いを始めた。

「ほらほら、花のように可憐なお嬢さん。踏ん張れよぉ! でないとお前が封印されちまうぜぇ! それとも力を使い果たして地面に還るのがお好みかぁ? ハハハハハ!」

「うっ……」

 私の体は限界だった。既に私は意識を保っているので精一杯だった。

(私は……やっぱり、何もできないのかな)

 できる限りのことはやった。精一杯頑張った。それでも、届かないのだろうか。私、私は、変われないのだろうか。

「……おかあさん」

 小さく、すがるようにそう呟いた。



「ッ……うおおおおおおおお!」

 瞬間、黒い影がヴィーセに向かって飛びついた。

「ッてめぇ! 一番傷だらけの奴が足掻いてんじゃねぇよ!」

 ヴィーセをそれをたやすく蹴り飛ばした。

「グハッ……」

「ディテイス!」

 ディテイスさんは思いっきり地面に叩きつけられる。だが。

「はぁ……はぁ……フェリウス!」

 刀を床に突き刺して這いずりながら、フェリウスさんの元へ近寄っていた。

「守って……みせろよ! 俺やパルシオンが守れなかったモノを! お前がここで! 守って見せろ!!!」

 そして、刀を思いっきり結界に突き立てた。

 刀は弾かれることなく深く刺さり、バチバチと魔力が飛び散った。

 バリィィィィン! そんな音と共に、結界が崩れ落ちた。

「……やれ、フェリ、ウ、ス……」

 そこで、ディテイスさんはピタリと動かなくなった。

「……ディテイス。礼を言う。ああ、必ず、守って見せるとも」

 フェリウスさんは立ち上がり、槍を構えた。



「チィ! だがもう一回囲めば同じこと!」

「遅い!」

 刹那。先程までそこにいたはずのフェリウスさんの姿が消えた。いや、移動したのだ。

 まさに目にもとまらぬ速さだった。ヴィーセが再び魔方陣を編み出すより早く、ヴィーセの背後に回り込んでいた。

「これが……我らが騎士の、花を守る騎士の刃だ! アブソル・ピアース!!!」

「グアァ!」

 その槍はヴィーセの体を貫通し抉り取った。その瞬間、杖にかかっていた負担が一気に軽くなった。

「フラルさん!」

「ッ、はいっ!」

 私は自分の中に残っているありったけの力を込めた。

「精霊よ、私に力を! やあああああ!!!」

 押し戻されていた白い光が一気にヴィーセの方へ伸びていった。そしてそのままヴィーセのもとへ届いた。

「グアァァァ! やめろ、ヤメオオオ!」

 悪魔の叫びが聞こえる。恐ろしい絶叫だった。

「俺は……俺様は! 折角復活したんだ! こんな、こんな奴らにぃぃぃぃぃぃ!!!」

 悪魔はそれから数分の間ずっと叫び続けていた。

 辺りに魔力の渦が巻いた。もの凄い風と共に、ヴィーセの体が杖に吸い込まれていく。

「アア、アアア、アアアアアアア!!!」

 やがて、その叫び声は聞こえなくなり、あたりには静寂が舞い降りた。



「はぁ、はぁ……」

「フラルさん!」

 私はその場に倒れ込んだ。しかし、固い床の感触ではなく、柔らかな感触が私を包み込んでいた。

「……また、受け止めて貰っちゃいましたね」

「あなたが望むのなら何度でも……私はあなたを守り続けます」

 フェリウスさんはそう言って、私に向かって微笑んでくれた。







「ぐっ……ここは……どうなったのだ?」

 やがてしばらくして、パルシオンさんが目を覚ました。

「パルシオン! 良かった、無事だったのだな」

「ああ、なんとかな……ヴィーセは?」

「はい、フラルさんの持ってきた杖によって封印されました」

「そう、か……」



 そういって、パルシオンさんは横に倒れた。

 長く苦しい戦いだった。だが、私たちは勝利を収めることができたのだ。

「とりあえず上へ戻ろう、城壁がどうなっているのか確認しなければ」

「ああ、そうだな。……ディテイスは俺が運んでいく。フェリウスはフラルを運んでやれ」

「あ、ええと……ありがとう、パルシオン」

「フン……本当に。見ないうちに変わったな、フェリウス」



 そう言って彼らは笑いあった。







 私たちは地上へと帰ってきた。そんな私たちを待っていたのは……。

「これは……一体どういうことだ!」

「何故……魔物の軍が引いていない!?」

 そう、今だ魔物に襲われ続ける光景が広がっていた。

「くっ……ともかく城壁の上へ急いで向かおう!」

 折角、悪魔を倒したのに。絶望はいまだ終わっていなかった。



「フェリウスさん! よくぞお戻りに! そ、それにアドルレッド隊長まで! しかしその傷は……」

「ああ、諸悪の根源を討伐してきた。だがこの状況は一体どういうことだ、リージェン」

「……魔物の群れ、未だに引く気配を見せません。体力と資源が少なくなり、状況は悪化しています」

「くっ……そんなバカな……」

 そう、魔物にとって悪魔はきっかけに過ぎなかったのだ。魔物の統率はあの怪鳥がしている。目の前に餌がある限り、彼らは引かないだろう。

 そして、ここにいるのは最早満身創痍の騎士のみ。パルシオンもフェリウスさんもとても戦える状況じゃなかったし、ディテイスさんは未だ気を失ったままだった。



「どうすれば……どうすればっ!」

 フェリウスさんがとても焦った様子で叫んだ。

 ふとパルシオンさんの方を見ると、ディテイスさんを降ろし、街の様子を見降ろしていた。

 そのいつもと違う様子に、私は何故か嫌な予感を覚えた。

「……パルシオンさん?」

「……この国は。こんなにも美しかったのだな。暫く、エフェラの仇を討つためだけに夢中で、そんなことすら忘れていた。ああ、確かに俺は王たる器ではないのだろうな」

 そう言って自嘲するパルシオンさんの目は、なんだか決意に満ちているような気がした。

「……フェリウス、お前は俺に死ぬなと言ったな。それでは民が守れないと」

「ああ、そう言ったが……パルシオン、何を……」

「しかし時には、自らの命を落としてでも守るのが王でもあると。俺はそう考えている」

「……ま、まさか」

「! ダメだパルシオン! 今お前が無茶をしたら……」

「ならばどうする? このまま市民もろとも魔物に食い殺されるか?」

「……それは」

「……フェリウス。お前には守るものがある。守れたものがある。だからお前はここで死ぬわけにはいかない。なに、安心しろ。王としての務めを果たすべく、少し派手に燃やすだけだ……この国の事を、頼んだぞ」



 そういうと、パルシオンさんは歩き去って行ってしまった。

「え、えっと……フェリウスさん、僕らはどうすれば……」

「……兵を全員引き上げろ。後はパルシオンに任せておけ」

「しょ、承知しました。今すぐに」



 それから、 リージェンと呼ばれた兵士が有能だったのだろう。 兵はすぐに引いていった。すれ違いにパルシオンさんが一人で城外へと出る。当然すぐにそれを魔物たちが取り囲んだ。

 パルシオンさんは魔物を軽くさばきながら奥へと進む。そして……。

 ドォーン! という爆音の後に火が燃え上がった。その火は空高くまで燃え上がり、巨大な黒煙を巻き上げた。

 そして、もう一度。爆音と共に火が飛び散った。

 暫くの間。私とフェリウスさんと騎士たちはその燃え上がる炎をただただ見ていた。

 その炎の煙は、天に上るほど高く飛んで行った。



 暫くして。煙が止んだころ、生きている魔物は一匹もいなくなっていた。怪鳥も含め、爆発や黒煙に巻き込まれたのだろう。

 そして、その大爆発の中心から……ボロボロに焼け焦げた、一人の勇敢な騎士の死体が発見された。











――――――











 それから一か月。国は平和を取り戻していた。

 しかし、何もかもが元通りというわけではない。王と、その息子の死亡。そして唯一の王家の血を引くディテイス……リヒトラスさんは未だに目を覚まさないままだった。

 誰もが不安そうな声を上げていたが、国王代理になったフェリウスさんの手によって、すぐに部隊の再編がされ、兵士たちは乱れることなくこの国の防衛は元通りになった。

 それでも国民の不安は完全には消えなかったが、私のように、国の事情というものに興味がない人が存外多く、なんだかんだで落ち着いてきていた。

 それで私……フラルはと言うと、今は変わらず王城の客室のお世話になっている。悪魔を封印した英雄だ! なんて称えられそうになったけど、とても私にはそんな役は務まらないと、市民の人々には秘密にしてもらっている。その辺はフェリウスさんが凄く気を使ってくれたようだった。

 あれから、リヒトラスさんの看病をしたり、パルシオンさんのお墓参りをしたりして過ごしていた。フェリウスさんは忙しそうで会えないのが少し寂しかったけど。

 そして今日は王城の外へ出ていた。

 そう、私には決めていることがあった。

 今回の事で、色々なものを失った。けれどその代わり、私は色々な経験をし、色々なものを得たのだ。

 今の私なら……この世界のどこかにいる父を探しに行ってもいいかもしれない。自分から育ててもらった恩を言いに行こうと思っているのだ。

 きっと大変な旅になるだろう。

 ふわりと風が吹き、私の短くなった髪を撫でる。  

 でも、それ以上に楽しみで仕方がないのだ。この風がどこから来てるのかと思うと。この大地が、どこまで続いてるのだろうと思うと。……胸がドキドキして仕方がないのだ。

 悲しいことがあった。辛い思いをした。でも、それと同じくらいに。それ以上に。

 ――この世界には、素敵なことが溢れていると思うから。

改めて最終話でした。ここまで読んでいただきありがとうございます。

これからのことや、書き終えての感想などは活動報告にてまとめたいと思いますので、よろしければそちらをご覧ください。

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