別れと出会い
ダイアンは苦虫を噛み潰したような顔をしながら言葉を紡いだ。
「一応、薬のサンプルがあるけど、効果はほぼゼロと言っていい・・・」
クロエは泣きそうになるのをこらえるためにうつむいた。
「一度、リップオフに噛まれれば、ヤツらのウイルスが体内に入って増殖する。今のところ、治療薬はない。」
クロエは泣きたい気持ちを押さえつけて顔をあげた。
「覚悟はできたわ。パパとママを優しく葬ってあげて。」
ナックが2人に指示を出した。
「もう少しで着くぞ!俺がサンプルを撃つから、2人は隠れてくれ!」
ダイアンとクロエは同時に答えた。
「了解。」
公園に停車したと同時に、ダイアンはクロエを連れて茂みに身を潜めた。ナックはサンプルを2つライフルに装填し、車の上に乗って構えた。ナックがスコープごしから景色を覗いた数秒後に、クロエの両親が公園に入ってきた。ナックは照準を合わせて惹きつけた。両親が車の真下に来た瞬間、ナックは引き金を引いた。命中したようで、元両親は動きを止めた。
「やったか?」
ナックは降りて両親へ近づいた。
「・・・娘カラ、離レロ!!害虫ドモメ!!!」
2人は姿を完全なリップオフに変えると、ナックに体当たりを仕掛けた。ナックは回避を試みたが間に合わず、宙を舞って、茂みの方までふっ飛んだ。
「ナック!!!」
2人は叫んでしげみから飛び出し、ダイアンは元両親の行く手を阻み、クロエはナックの元へ駆け寄ると、元両親たちに向かって叫んだ。
「2人共お願い、もう止めて!!」
元父親が先に話しかけた。
「心配ナイヨ、クロエ。スグコイツヲ片付ケルカラネ。」
今度は元母親が尋ねた。
「ダイジョウブクロエ?コノ男二変ナコトサレナカッタ?」
クロエは強く首を横に振って叫んだ。
「されてないわよ!!変なのは、パパとママの方でしょ!?」
ダイアンはわざと大声で元両親を挑発すると、攻撃対象を自分に仕向けた。
「害虫はそっちだろ?悪いが、駆除されてもらうぞ。」
ダイアンは先に元母親の方に向かっていった。
元母親はダイアンに飛びかかったが、ダイアンは元母親の腹部に回し蹴りを入れて蹴り落とした。元母親が落ちて潰れたカエルのようにフリーズしたのを見計らうと、ダイアンは脳天にかかと落としを入れた。
「流石にこれは効くだろ。」
元母親は頭をありえない方向に向けながら死体となって地面に突っ伏していった。
クロエは思わず叫んだ。
「ママ!!」
元父親がダイアンを睨みつけて激昂した。
「キサマ、ヨクモツマヲ!!」
「お前にはこれだ!!」
ダイアンはナイフを2本取り出すと、腰を入れて山突きをしてナイフをそれぞれ喉と心臓に突き刺して押し倒した。元父親は刺さったナイフをどうすることもできないまま銀色の血を撒き散らして命を閉じていった。
「そんな、パパ!ママ!!!」
クロエは泣いた。覚悟はできていたはずなのに。
ダイアンは慰めようとクロエに差し伸ばした腕を引っ込め、喉の中で唸ってから謝った。
「済まない。助けれなくて・・・」
「違うわ、ダイアンのせいじゃないの!違うのよ!!」
クロエは違う、違うと言いながら泣き続けた。
ダイアンは黙ってクロエを見守っていたが、やがてクロエが泣き疲れてくると、出来るだけ温かく話しかけた。
「本部に戻ろう。今から俺がお前の仲間で、家族だ。」
クロエは涙を拭いて呼吸をなんとか整えて答えた。
「うん・・・。よろしくね、ダイアン。」