強制的な巣立ち
家族は団らんと食事を楽しんだ。話に花を咲かせる中、話題がクロエの午後の体験の話になった。
母親が労いの眼差しを向けて話しかけた。
「クロエ、今日は散々だったわね。無事でよかった。それにしても、送ってきてくれたダイアンって人、中々のイケメンね。」
クロエは目を輝かせて答えた。
「でしょ!!強いし、優しくてかっこいいの。」
父親が間髪入れずに反論した。
「アイツのどこがいいんだ?」
「全部よ、パパ。私は怪物に襲われる前、カフェでチンピラに絡まれたの。そしたらダイアンが現れてチンピラと戦って追い払ってくれたの。ダイアンはかすり傷1つ負ってなかった。まずそこがかっこいいと思ったの。あと、ダイアンは私を家に上げて2人きりで話した時、気を利かせてコーヒーを作って持ってきてくれたの。その時に砂糖がローカロリーのものを選んでわたしのカップに置いていたの。ホテルマン顔負けのサービス精神の高さじゃない?」
「あの男に惚れたのか。誰だろうとお前は渡さないぞ。」
父親はクロエをしっかりと抱きしめた。クロエははにかんで身をよじった。
「もう・・・止めてよパパ。いつまでそんなこと言うの?」
そう言って見上げた父親の顔は、いつも通りではなかった。怪物の顔がクロエの唇に近づく。突然のことにクロエは悲鳴をあげることしかできなかった。キス寸前で誰かが窓から部屋に入ってくると、クロエと怪物の顔をした父親の間に割って入り、父親の首に蹴りを入れた。クロエは半狂乱になりながら恩人の名を叫んだ。
「ダイアン!!」
ダイアンは素早くクロエの手を握った。
「逃げるぞ。あいつらはもう、お前の親じゃない!!」
ダイアンはクロエを連れて外まで逃げた。
「車の中にいろ。」
ダイアンはスライディングし、逆立ちして両腕を軸に足を180°に開いて回った。
クロエの怪物顔の父と人間体の母は、回転蹴りをモロに食らって家の中へと押し戻された。 全速力で車に戻り、ダイアンは近くの公園で迎撃をとる指示を出した。出発して数分後、バックミラーを見たダイアンは驚愕した。何故なら、倒した2人が全速力で追いかけてきているのだから。
「マジかよ。結構キツいやつ浴びせたつもりだぞ。」
そう呟いた後、ダイアンはクロエの目を見つめながら重い口を開いた。
「君の両親を殺すかもしれない。」