わが家への帰還
家の前に着くと、クロエはシートベルトを外すや否、ダイアンとナックに礼を述べた。
「本当に、色々ありがとう。アイリスさんたちにもよろしく伝えといてね。」
ダイアンは穏やかな笑顔を浮かべて答えた。
「気にすんなよ。あんたは無事に生きてくれるだけでいい。」
ナックがクロエに笑いかけた。
「じゃあな、クロエ。またどこかで会えるといいな。」
家の前に着くと、音を聞きつけて両親が飛び出してきた。泣きはらしていたようで、目の周りが赤紫色を帯びていた。
「パパ!ママ!無事だったのね!!」
クロエは、すぐ車から降りて両親の元へ駆け込んだ。母親はクロエに抱きついてボディチェックをするように何度もさすった。
「クロエ、心配してたのよ!あなたのバイト先のカフェの近くに怪物たちが出たっていうから!」
「私も最初は驚いたわ。化け物に囲まれちゃったの。でも、ダイアンが助けてくれたの。」
父親が怪訝な顔で尋ねた。
「ダイアン?」
「あそこにいる黒髪の人よ。パパ。」
クロエはチラリとダイアンを見ると、母親の胸に身を埋めた。
母親が先に礼を述べた。
「あなたが、うちの子を送ってくれたのですか?お世話になりました。」
今度は父親がダイアンに丁寧な礼を述べた。
「うちの娘を助けてくれた感謝は、してもしきれません。」
「ただ義務に従ったまでです。では、私はこれで。」
ダイアンは軽く一礼すると、綺麗なターンで3人に背を向けて車の方へと歩いていった。
自動車が見えなくなるまでクロエは手を振ると、
両親と一緒に家に入っていった。
「改めてお帰りなさい、クロエ。これから夕飯を作るから部屋で待っててちょうだい。」
「私も手伝おうか?」
「いいわよ。あなたは今日は散々だったんだから。部屋でくつろいでなさい。夕飯ができたら呼ぶわね。」
「ありがとう、ママ。」
「じゃあ、今日はクロエの代わりにパパが手伝うよ。」
父親がそういうと、2人はキッチンに向かっていった。2人の思いやりに感動しながらクロエは部屋に向かった。
部屋に入るや否、クロエはベッドに体を投げ出した。枕に顔を押し付けて、出来事を起こった順に思い返してみる。チンピラに絡まれて少しめんどくさかったこと。腕を掴まれて怖かったこと。怪物が現れて、周りになんとか気を配りながらがむしゃらに逃げたこと。少年を助けようとして身代わりになろうとして生きることを諦めたこと。完全に頭が記憶を思い出し、その時感じた恐怖や嫌悪感がそのままに全身を震わせ、鳥肌が立つ。
短時間で拷問かと思うほど、わたしは危険に晒されていたんだ。怖い。震えが止まらない。クロエは掛け布団にくるまりながらゆっくりと深呼吸した。 チンピラに腕を掴まれながら絡まれて怖かった時、風のように颯爽とダイアンが現れて、ハエでも叩くようにあっさりとチンピラを成敗してしまった。群がってた怪物を魚みたいに切り刻んで、超余裕と自信たっぷりに言い放っていた。チンピラを成敗し終わった時、怪物を斬ってわたしと少年の前に現れた時、ダイアンはわたしを優しくて澄んだ瞳で見つめていた!
クロエはダイアンの表情を思い出して顔を赤くしながら枕に突っ伏した。JRS本部の応接室に2人っきりだった時、連絡先を交換しとけばよかった。また会いたい。絶対、どこかで必ず会いたい。体が火照ってきたので手であおぐと、鼻がむず痒くなってくしゃみをした。くしゃみをすると、赤いものが視界に入ってきた。慌てて両手を差し出して受け止めると、それは液体で、鼻の辺りから垂れてくるのがわかった。
「ウソ・・・」
クロエは慌ててティッシュを探すと、程よい大きさにちぎって鼻に詰めて血が止まるのを待った。
血があらかた止まってきたのがわかると、クロエは鼻をかんで鼻の中を軽く掃除した。ティッシュをゴミ箱に捨てて程なくして夕食を告げる母親の声が聞こえてきたので、クロエは下に降りていった。