JRS
ダイアンのエスコートで、クロエは建物のエントランスに入った。
すると、作業をしていたスタッフ全員がクロエに挨拶した。そして、1人の女性がクロエの前に現れた。
「ようこそ、JRS本部へ。
私はアイリス・ディゴリー。ここの最高責任者で、総司令官よ。そして・・・」
そう言ってアイリスはダイアンを一瞥すると、クロエに視線を戻した。
「・・そこにいる、ダイアン・タスカーの母親でもあるの。あの子がお世話になったようね。」と礼を述べ、ダイアンもお辞儀をした。クロエは慌てて首を横に振った。
「とんでもないです!礼を言うのはこっちの方です・・ってあれ?!親子なのに苗字が違う。」
それを聞きつけたダイアンは即座にあっさりと答えた。
「タスカーは父親の苗字なんだ。仕事柄この方がいい。」
「仕事柄?」
アイリスはダイアンにクロエをくつろがせるようたしなめた。
「ダイアン、まずはお客様を部屋へ案内しないと。」
「わかってる。仕事の内容はどう言えばいい?」
「お好きにどうぞ。」
「了解。クロエ、こっちだ。」
クロエは再びダイアンのエスコートでゲストルームに案内された。
「どうぞ、くつろいでくれ。足りないものがあれば言ってくれ。」
「充分よ。あなたたちの仕事内容を知りたいわ。」
「そうだよな・・・まあ、何か飲んでリラックスした方がいいな。」
ダイアンはクロエをソファに座らせてから、何が飲みたいかを質問した。クロエはコーヒーを飲みたいと答えると、ダイアンはカフェラテを作って持ってきてくれた。カフェラテをクロエの前に置くと、もう片方の手で紅茶が入ったカップを口に近づけた。ティータイムを楽しんだあと、クロエは質問を始めた。
「あなたたちの仕事内容は何?」
「俺たちはチームなんだ。名前はJRS。日本救助隊(Japan Rescue Squad)の略だ。ここはJRSの本部なんだ。仕事のほとんどが怪物との戦闘だな。俺たちはリップオフって呼んでる。あとJRSは掃討班、研究班、医療班に分かれてるんだ。ちなみに俺は掃討班のリーダーさ。」
それを聞いたクロエは目を輝かせて思い切り両手を合わせた。
「だからあんなに強いのね!!」
ダイアンは急に鋭い目つきになると、ハリを持った声でゆっくりと話し出した。
「忠告しとくが、怪物の怖さは人間に化けれること、群れで来ること、簡単には死なないことだ。」
クロエは声を震わせた。
「人間に変身するの?!そんなのどうやって解るの??倒す方法はないの!?」
ダイアンは諭すような口調で述べた。
「大丈夫だ。気づく方法がある。怪物が化けてる人間は、目の周りに色がかかってる。もし見つけたら、すぐ逃げろ。戦うことになるのであれば、頭か心臓に風穴開けてやれ。今のところの対処方法はこれくらいだろうな。」
ダイアンは頭を抱えて大きなため息をついた。
「ネットで見てわかっているだろうけど、もしヤツらに噛まれたり、ヤツらの血が体内に入ったりしたら、ヤツらのウイルスが体内で増殖して凶暴になったりするんだ。今のところ、そうなった時のために打つ抗体がまだ開発されていない。もし出会ったら一巻の終わりだ。それなのに一般人であるアンタ達に戦って身を守れ、なんて酷だよな・・・」
クロエは何度もうなずいていたが、今度はクロエが慰めるような口調で口を開いた。
「ダイアンは優しいのね。確かに、リップオフに襲われたら怖いけど、身を守るために戦うことは、私は、大変だとは思わないわ。それしか方法がないんだし、人間同士においても、そうやって警戒しなきゃいけない時はあるもの。あなたの言う通り、早く抗体が完成するといいんだけどね。」
ダイアンは元々良い姿勢をさらに整えると、クロエの全身を捉えるように見つめながら口を開いた。
「こんな絶望的な状況だけど、アンタ1人くらいならちゃんと守れそうだと思うんだ。よかったら、連絡先を交換してくれないか?リップオフが現れたら、すぐ連絡してくれ。すぐに駆けつけて守ってみせるよ。」
「いいの?でも、あなたはニッポンの復興に忙しいでしょう?」
「こうやって出会ったのも何かの縁だと思うんだ。
それに、リップオフは知能が高くないのに、定期的に現れるのが不思議だ。きっと誰かが命令して操っているに違いない。リップオフを倒していけば、芋づる式に親玉までたどり着けるんじゃないか?」
ダイアンの筋の通った推測に、クロエは感心した。
「それもそうね・・・わかったわ、連絡先を交換しましょう。SNSは何をやってるの?」
「俺はちゃんとしたのはLINEしかやってないんだ。ツイッターとかインスタは基本見るだけだね。交換するのはLINEだけでいいだろ?」
ダイアンとクロエは即座にLINEのアカウントを交換した。交換してスタンプを送り合ったあと、クロエは即座に礼を述べた。
「色々と教えてくれてありがとう。もう家に帰るわ。パパとママが心配してる。」
ダイアンは即座にうなずいた。
「わかった。家まで送るよ。」
2人はガレージに向かった。途中、ナックが同伴と運転を兼ねて声をかけた。2人は了承し、改めて3人でガレージに向かった。ナックはクロエを助手席に乗せると、クロエの指示通りにカーナビを操作して安全運転で走行した。ナックの質問に答える以外、クロエは後部座席に背筋を伸ばして座るダイアンを気にかけていた。ダイアンは前の方は向いているのだが、リアクションはこちらが笑いかけたり、話しかけたりしない限りは起こさず、どこか上の空な様子だった。理由を聞きたかったが、妙に重い空気を感じて尋ねられなかった。