ナックとの出会い
その言葉を聞いたナックは何か思い出したらしく、ダイアンに叫んだ。
「そうだよダイアン!ケンカしてる場合じゃないんだ、報告しに来たんだよ!」
それを聞いたダイアンは声を荒げた。
「何で早く言わないんだよ!!状況はどうなってる!?」
ナックは顔を上気させて口を開いた。
「俺たちの勝ちだ!!ヤツらは逃げ出してる。ウチのメンバーもほぼ全員撤退し始めてるぞ。」
それを聞いたダイアンは静かに頷くと落ち着き払った口調で口を開いた。
「わかった。見回りがてらみんなを呼んでくる。ついでにあの親子も送るよ。その間にその人を頼む。あと例のやつも探しといてくれ。」
ナックは軽く敬礼して了承した。
「りょーかい。」
ダイアンは親子を連れて、その場を去った。親子は礼を何度もダイアンに述べながらついていった。
ダイアンを見送ったナックは、改めてクロエに声をかけた。
「さっき言われたけど、俺はナック。君の名前は?」クロエは詫びを入れて名乗った。
「あ、私はクロエって言うの。さっきは助けてくれて、どうもありがとう。」
礼を言った途端、恐怖が高波のように現実味を帯びて押し寄せてきた。目の前で怪物に姿を変えた男。怪物から遠ざかろうと逃げ回った時の焦燥感。少年を助けようとして半ば絶望して諦めた自らの人生。これらの負の感覚が鮮明に呼び起こされて震えが止まらない。
クロエの異変を感じたナックは、優しく抱きしめた。
「今までよく耐えたね。もう、安心していいんだよ。」
「怖かった・・・・」
クロエはナックの身体に身をうずめて泣いた。ナックは頷きながら、優しく背中をさすった。
泣き疲れるまで泣いたクロエは、ダイアンの言っていたことを思い出し、ナックに質問した。
「そう言えばナックは、ダイアンに探しものを頼まれてたよね。例のやつって何なの?」
それを聞いたナックは一瞬顔をしかめた。
「遠くに行って俺がいいというまで目を閉じててくれ。君にはトラウマもんになりそうだ。」
クロエは疑問に思いながらも言われた通りにした。クロエがナックの指示で目を開けて程なくしてダイアンが戻ってきた。ナックは見つけたものをダイアンに渡した。ダイアンはナックに軽く頭を下げてそれを受け取ると、クロエに向き合った。
「これで任務は完了だ。それと、あんたもう平気か?名前は・・・」
クロエは再び名乗った。
「もう大丈夫よ。私はクロエって言うの。」
「クロエ、こんなことがあった後だし今日は俺たちの所に来ないか?」
クロエは即座に頷いた。
「邪魔じゃなければ、ぜひ。」
クロエはダイアンたちと共に街を後にした。